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私利私欲

 次の日も口コミの口コミというお客さんが来て、新規の人も入れて十四人のお客さんが来た。

 これは当分の間は休まないで働いた方がお客さんが付くのではとミルクとココアは考え、休み無しで店を明け続ける事にした。

 そのせいか一週間後にはお客が並んで待つようになっていた。


 最後のお客が帰ったのが夜中の二時だった。

 「ミルクお疲れー」

 ココアが迎えに来てくれた。

 「二十二人よ二十二人。口コミって凄いわー」

 「稼いだねー。早く車に乗りな」

 ココアはミルクを車に押し込み、一人で荷物を片付けてくれた。

 「ココアが男だったら惚れてたかも」

 「はあ?」

 ミルクはココアを頼もしいと思った。口は悪いけど何気ない優しさにキュンとした。姑もいい人だし、結婚しても上手くやっていけそうな気がした。

 「何を考えてるんだ、気持ち悪いなあ」

 「あはは。だって本当にそう思ったんだもん」

 ココアに隠し事は出来ないからミルクは素直でいられた。思っただけで気持ちが伝わるって楽でいい。


 「ねえ、霊視すると疲れる?」

 「んー、物によるかな」

 「どういう事?」

 「いい事だとそんなに疲れないけど悪い事だときつい時もある」

 「どういう時?」

 「後ろに悪霊がいて脅してる時なんか結構きついよ。本人だけじゃなくて視てる私にまで襲いかかってこようとする時もある。私は除霊とか浄霊って出来ないから、ひたすら防御体勢で、私は何も出来ないし関係ないからって悪霊に言い続ける」

 「うわ、大変そう。悪霊に襲われちゃったらどうなるの?」

 「下手すると命取られるかも。まあいざとなったらお母さんに助けを求める」

 「気を付けてよ。無理しないでよ」

 ココアは部屋でのんびり霊視をしているだけかと思いきや、実は怖い思いもしていた。

 「オヤジが明日あたりどうかって言ってたよ」

 「ああ、明日は土曜日だから仕事休みなんだね」

 「うん。ミルク大丈夫?」

 「うん。早い方がいいもんね。どうせなら残り全部払っちゃおうかな」

 「大丈夫なの?」

 「若干だけど退職金あるし、明日から週末だから頑張ろー」

 ミルクはココアの差し入れのサンドウィッチを食べながら気合いを入れた。


 お昼過ぎにミルクはココアのお父さんと一緒に先生のマンションへ行った。

 お父さんが査定金額を示し、借金の金額が高すぎる事を指摘し、正当な金額の借用書で契約しなおすように話した。

 先生は渋々承諾した。

 「でも水晶玉には私のパワーが注入してあるので、それが高いんですけど」

 と先生が言うと、

 「それって霊感商法ですよ」

 とお父さんがキッパリ言ってくれたので、無事に金額を変える事が出来た。

 ミルクは残金を全て支払い、借金は完済となった。その書類の手続きもみんなお父さんがやってくれた。

 これでミルクと先生の縁も切れた。

 サッパリした気分でミルクはマンションを後にした。

 

 そのままミルクはココアの家に行った。

 「この借金も必要経費で落とせばいいよ」

 「え、でも私一人で作った借金だし」

 「でも仕事で使ってるんでしょ。それに税金にも関係してくるから」

 「そうなんですか」

 ミルクには全然分からなかったけれど、お父さんに任せておけば良さそうだ。

 「ミルク、行こ」

 これからココアと食事をしてから仕事へ行く事になっていた。

 「お父さん、今日は本当にありがとうございました」

 「いえいえ、また何かあったら相談してね」

 本当に頼もしいお父さんだ。


 ミルクとココアは星茶屋に行った。

 「いらっしゃいませ」

 マスターが笑顔で迎えてくれた。

 二人は夕飯を注文した。まだ時間が早いせいか、そんなには混んでいなかった。

 「これから仕事ですか?」

 ミルクの服装を見てマスターが聞いた。

 「はい、ご飯食べたら行ってきます」

 「そうですか。頑張って下さいね」

 マスターの笑顔には癒される。

 「マスター、昼間ってお客さん来るの? あ、喫茶じゃ無くて占いの方の」

 ココアが聞いた。

 「昼間の方が来ますよ。主婦の方とか、夜お仕事されている方とか」

 「なるほど」

 「それから私はメールでの占いもやっているので、空いた時間に返信してます」

 「じゃあ結構たくさんの人数鑑定してるんじゃないの?」

 「まあ、店に直接来る方は五人前後かな。メールでは十人くらい」

 「マスター、稼いでるね」

 「そんな事ないですよ。日によってはお客さんが来ない日もありますよ」

 マスターは照れながら厨房に入っていった。

 「メールか……。いいかもね」

 「メール鑑定?」

 「うん。そうすれば外に出ていかなくても家で出来る」

 「冬にはいいよね」

 「寝巻きでもできるよ」

 「わー、素敵」

 「お菓子食べながらとか」

 「ゴロゴロしながらとか」

 ミルクは暖かい部屋でこたつに当たりながらお菓子をポリポリしながら仕事をしている所を想像した。

 「天国だね」

 「全くだね」

 二人がニヤニヤしていると、

 「こらこら、楽して仕事しようなんて思っても上手くなんか行かないですよ」

 マスターが料理を運んで来た。

 「えー、そうですか?」

 「そりゃそうですよ。真剣に相手と向き合わなければちゃんとした鑑定は出来ませんよ。怠けていると鑑定の能力も下がって来てしまいます。日々修行です」

 「マスターのそういうストイックな所がいいんだよね」

 ココアは益々マスターを気に入った。

 「いや、冗談じゃ無くて。私の知り合いで霊感がある占い師がいたんですけど、最初は真剣に相談者と向き合って、相談者を良い方向へ導く事に喜びを持って鑑定していたんですが、段々お客が増えて儲ける事に夢中になっていってしまい、気が付いたら霊感が無くなっていました」

 「霊感無くなるなんて事あるの?」

 「私利私欲に走ると無くなるみたいですよ。役割があって霊感を持って生まれて来たのに違う事に使ってしまい取り上げられたりするみたいです。それから霊感のある人は悪い物に取り憑かれ易いので、途中から悪い物の能力を使っている場合もあるみたいです」

 「なんか怖い。ココア大丈夫?」

 「今の所……。でもその話聞いた事ある。最初はちゃんと能力あったのに、途中から悪霊の声を神の声だと思い込んで金儲けに走って自滅した人がいるって話」

 「カルト教団の教祖とかがそうらしいですね」

 「うわー、そのうちココア教とか言い出さないでね」

 「言うかっ」

 「だから日々心身を清めて真摯に相談者と向き合う事ですね」

 「ミルク、明後日休みにして滝に打たれに行こう」

 「何で明後日なの?」

 「だって今日明日は週末だからお客さん来るでしょ」

 「それって私利私欲じゃないの?」

 「う、ヤバイ……」

 「そう思えるうちは大丈夫ですよ。まあ何か清める方法を見つけておけば良いですよ」

 「マスターは何をしているんですか?」

 「企業秘密、と言いたいけど、少しは教えてあげますね。私は休みの日には山に登ります」

 「山?」

 「はい。自然の気に触れて心身をリフレッシュしてきます。良い気を頂いて来て、悪い気を浄化してきます」

 「なるほどー」

 「あと肉を食べないとか断食する人とかもいるし、滝に打たれる人もいるけど、自分に合ったものを探すといいですよ」

 

 店が段々混んできてマスターも忙しくなってきた。食事も終わったので二人は出勤する事にした。

 「マスターありがとう」

 「いいえ。頑張って下さいね」

 「はーい」


 二人は車の中でマスターと話した事を思い出していた。

 「しかしマスターからは教わる事多いよね」

 「本当にね。今日の話聞かなかったら、思いっきり私利私欲に走ってたよね」

 「うん。悪霊に取り憑かれてたよ」

 「怖いね」

 「うん。マジで浄化考えなきゃ」

 「本当だね」


 ミルクはその夜の仕事は相談者の事を本気になって考え、話すように気を付けた。辛い思いをしてるんだから、少しでも良い方向へ行けるようにと。

 と言ってもミルクには何も視えないので、優しく、親身になって話すように心掛けた。


 その夜は週末という事と口コミの効果もあって、お客さんが途切れる事無く来た。

 仕事を終える頃になると大勢のお客さんが来たのと気を遣ったのとでミルクはヘトヘトになっていた。

 ココアもいつもよりは少し気を遣い、お客さんが良い方向へ行くにはどうしたらいいのか真面目に霊視をした。いつもはテレビでも見ているように、面白おかしく視ていただけだったが、今夜はどうすれば良くなるのかまで視た。


 「ミルクお疲れー」

 「ココアもお疲れー」

 ミルクにも今夜のココアが丁寧に霊視をしていた事が分かっていた。

 ヘロヘロの二人が車に乗って帰ろうとしていると、

 「あ、良かった。まだいましたね」

 松太郎が笑顔でやってきた。

 「今日はこの間のお礼を言いに来ました」

 「捕まったんですか?」

 「はい。ミルクさんの言った通りでした。ここら辺の美容整形をやってる病院にニューハーフの受診歴を問い合わせてみたり、ゲイバーを当たったりして、最近稼ぎの割に金回りの良くなった奴を絞りこんで行ったら犯人に行き着きました。ミルクさんの占いが無かったらまだ全然違う所を捜査していました」

 凄く嬉しそうな笑顔で報告した。

 「これからまだ仕事なんでご馳走出来ないので、これ」

 松太郎は紙袋をミルクに渡した。

 「え……」

 「なんか皆並んでたから俺も並んでみた」

 忙しいんだか暇なんだか……。

 「お弟子さんの分もあるから二人で食べてね。じゃあ、また」

 松太郎は颯爽と去って行った。


 袋を見ると、超有名なパティシエがやってるスイーツのお店の名前があった。

 「えー、この店、凄く有名でしょっちゅうテレビや雑誌に取り上げられてる店でしょ」

 ワクワクしながら袋の中を見ると、

 「ロールケーキ……」

 お洒落なショートケーキを期待していた二人はちょっとガッカリしたが、やはり超有名店のロールケーキは一味も二味も違った。

 「でもいい香り」

 「うん。間にフルーツ入ってるよ」

 食べてみると尚更ビックリした。

 「何これ、ウマイ!」

 「生地もクリームも全然違う!」

 さすがに一流店のロールケーキはおいしかった。

 「あの刑事さん、センスあるね」

 「気が利いてるよね」

 「幸せ~」


 二人は今夜の疲れも忘れ、とっても幸せな気分になっていた。

 頑張って仕事すればいい事があるんだなあと思った。明日からもいい仕事しようと心に誓ったミルクとココアだった。

 

 


 

 

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