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ココアの気遣い

 夕方、ココアが迎えに来てくれた。

 一旦ココアの家に行って着替えて荷物を持ってから出勤だ。

 「なんか、悪いね」

 「何をおっしゃいます、ミルク先生」

 「あー、ココアが敬語遣ってるー」

 「たまには遣わないと忘れちゃうからね」


 ミルクはココアをすっかり仲間だと認めていた。

 能力ももちろん凄いが、一宿一飯の恩義を感じていた。それと稼ぎに対して、自分だけ有利になろうと思わずきちんと必要経費を引いてから分けようと言ってくれたり、ミルクにだけ働かせようとはせず自分も負担を負おうとする姿勢に好感を持った。親が法律関係の仕事をしてるからココアもきちんとしているのだろうか。


 ココアの両親も良い人達で、お世話になった恩はいつか返したいと思っている。


 「オヤジが言うには、仕事としてやるならちゃんと帳簿付けておけってさ」

 「そうなんだ」

 「税金とか法律とか全然わかんないけど、みんなオヤジに任せとけばいいよ。あ、借金の方も減るみたいだよ」

 「本当? 嬉しいなあ」

 法律知ってるって役に立つんだなあ。知り合いに一人は必要だ。


 「こんにちは。お邪魔します」

 「いらっしゃい」

 ココアのお母さんが笑顔で迎えてくれた。今ミルクはアパート暮らしなので、家に家族がいて帰ると誰かいるというのが羨ましかった。

 「あら、ミルクちゃんのお部屋にも待ってる子がいるわよ」

 「え?」

 お母さんの発言にミルクは背筋が凍った。

 「大丈夫だよミルク。あんたが昔飼ってた猫だよ。悪さはしないし守ってるから」

 「マルちゃん……?」

 ミルクが家にいた時、いつも一緒に寝ていた猫のマルちゃん。そう言えば時々寝ているとゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえていた。夢かと思っていたけど……。

 「そうよミルクちゃん、貴女の横でいつも寝ているから、たまに名前を呼んであげれば喜ぶわよ」

 お母さんが占い師になれば凄く人気が出そうだ。

 「ダメよー。私が占い師になんかなったら無駄話ばっかりで」

 「話も長いしくどいし、仕事にならないよ」

 それにしてもこの家では考えた事が筒抜けになってしまい隠し事なんて出来ない。お母さんは皆答えようとしてくれるからなかなか話も終わらない。

 「じゃあ着替えて仕事の準備しますね」

 ミルクは急いで支度をしにココアの部屋へ行った。


 「ミルクゴメンね。うちの母親、人の考えてる事わかるからすぐ返事しちゃうし、その上話好きでさ。友達家に連れてきてもお母さんがウザすぎて、誰も来たがらなくなっちゃって」

 「ううん。いいお母さんだと思うよ。優しいし世話好きだし」

 「ありがとね」

 でも嘘も隠し事も出来ない家、理想なんだろうけど大変かもしれない。

 隠す方も不安だろうけど、知らなくてもいい事を知ってしまうのも辛いのではないだろうか。


 支度を終え、仕事に行こうとしていた所へココアのお父さんが帰ってきた。

 「良かった、間に合った」

 お父さんは嬉しそうにミルクに書類を見せた。

 「ミルクちゃんの買わされた物を専門家に査定してもらったんだよ」

 書類にはテーブル、椅子、水晶玉、ドレス等の査定価格が印刷されていた。

 合計金額は……十八万円!?

 「みんな中古品だし、個人売買だからその値段なんだ。新品だったら倍位の値段かな」

 「そうなんですか……」

 「いやあ、これを二百万だなんて、とんだ悪徳業者だよ」

 「先生の名前使用料と相談料も入っているらしいんですけど」

 「その先生の名前使って仕事するの? 何かあったら相談するの?」

 「いえ、もう先生とは会いたくも無いし、関わりたくもないです」

 「じゃあ要らないじゃん。名前は使いません、相談もしませんって言えば終わり。近いうちに私も一緒に先生の所へ行って借用書を書き換えてきましょう」

 「え、一緒に行ってくれるんですか?」

 「専門家が行けば確実ですよ」

 「有り難いです。お父さんの都合のいい時にお願いします」

 「はいよー。任せといて」

 何て頼もしいお父さんなんだろう。二百万の借金を十八万にしてくれるなんて……。ミルクは未来が明るくなるのを感じた。


 「そろそろ行こうか」

 ココアが声を掛けた。

 「そうだね。じゃあ行ってきます」

 「行ってらっしゃい」

 ココアの両親に見送られ、二人は家を出た。


 ミルクが机や椅子を用意し始めると、

 「あの、友達から当たるって聞いて来たんですけど……」

 と若い女性が訪ねてきた。夕べのお客さんの友人のようだ。

 「どうぞ。座って」


 その夜は、友達から話を聞いたという人が何人か来て、あと新規のお客さんが来て、十人のお客さんが来た。

 口コミって有り難いなあと思い、ミルクが帰り支度を始めると、

 「あ、もうお仕舞い?」

 振り替えると芥川刑事がいた。

 「刑事さん、お久しぶりです」

 ミルクは顔が緩むのを抑えて応えた。

 「何か占いますか?」

 「でも終わりなんじゃないの?」

 「いいですよ」

 ココアが迎えに来るまではまだ時間がある。

 「実はこの男なんだけど」

 松太郎は一枚の写真を見せた。

 「あ、テレビで見た事ある」

 「うん。公開されてるからね」

 二、三日前にコンビニ強盗をしたという男の写真だった。

 「まだ身元が判らなくて困ってるんだ。わかるかな?」

 「ちょっと写真貸して下さい」

 ミルクは写真を見る振りをして、テーブルの下でココアに電話を掛けた。

 ココアが電話に出ると、

 「コンビニ強盗の行方が知りたいんですね。この写真の男の……」

 と言いながらイヤホンをこっそり耳に掛けた。

 『ちょっと待ってね……ん? 変だな。そいつ本当に男?』

 「刑事さん、この犯人、本当に男ですか?」

 「え、うん。見た目も男だけど、声もちゃんと男だったはずだよ。被害に遭った店員が変には思ってなかったから」

 「そうですか」

 『ミルク、私にはそいつスカートはいて視えるんだけど……』

 「スカート?」

 「スカート?」

 ミルクの一言に松太郎も反応した。

 「えっと、私にはこの男、スカートはいてるように見えるんですけど……」

 「えー? 変だな。さすがに女の声と男の声間違えないと思うけど」

 「そうですよね……」

 ココア、どういう事よ、とミルクが焦っていると、ちょうどココアが現れた。

 「ミルク先生、お待たせしました。あらお客様ですか?」

 とわざと近づいてきて写真を見た。

 「あら、これテレビでやってたコンビニ強盗ですね」

 「えっと、どなたですか?」

 「あらゴメンなさい。私ミルク先生の運転手兼弟子のココアです。よろしくー」

 「ああ、迎えに来たんですか」

 「はい、でもまだお仕事中みたいなので、車移動してきます」

 と言いココアは車を移動させに行った。

 「すみませんね、帰るところだったのに」

 「いいえ、それより犯人見つける方が大事ですもの」

 「運転手さん付いたんですね。良かったですね。夜遅くなるから心配してたんですよ」

 「え、ええ。有り難うございます」

 「やっぱり当たるからお弟子さんも付くんですね。凄いなあ」

 「そんな……」

 『こらミルク、なにイチャイチャしてんのよ』

 「え!」

 『何? その男に気があるの?』

 「ち、違うわよ」

 「え? 違う?」

 「いえ、あの、コンビニ強盗でしたね」

 「はい」

 話がそれてしまい、焦りまくりのミルクだった。

 『大丈夫だよ。今写真見たからバッチリ分かった。そいつはお姉だよ』

 「お姉?」

 「え?」

 『普段は女として生きてるけど、強盗の時だけ男に戻る。いや、強盗だけじゃなくて他にも空き巣とかやってる。夜はゲイバーで働いてるけど、あんまり綺麗じゃないから人気無くて儲かってないんだな。だから犯罪やって整形代貯めてるみたい』

 「えー、この男、ニューハーフです。夜はゲイバーで働いています」

 「え? そうなんですか?」

 「人気が無いので整形しようと強盗や空き巣をしているようです」

 「えー? 本当に?」

 「私にはそう見えます」

 「変な話だけど、でもそれが本当なら、今まで身元が分からなかったのも男ばかり捜査してたからだろうし……。そっちの方も捜査してみるか。有り難う、参考にしてみるよ」

 「いえいえ」

 「じゃあ、また結果報告にくるね」

 「はい、頑張って下さい」

 「有り難う」

 松太郎は張り切って帰って行った。


 「ミールークー」

 ココアが怒った顔で現れた。

 「代金もらわなかったでしょう」

 「あ!」

 松太郎からお金をもらうのを忘れていた。

 「ゴメン! 私の分から引いといて」

 「……ミルク、今の男に気があるな」

 「え、そんな事」

 「私に隠し事出来ると思うの?」

 「そ、そうだった。じゃなくて……まあ確かに気にならない事も無いけど」

 ミルクはココアの車に荷物を積みながら考えていた。


 「お腹空いたでしょ」

 車に乗るとココアがおにぎりとペットボトルのお茶をミルクに渡した。

 「有り難う」

 「経費で落としておくから」

 おにぎりにかじりつきながらミルクは話した。

 「真面目そうでいい人だなーと思うんだけど、ココアから見てどう?」

 まだ好きとかそんな所までは行ってないが、確かに気になる存在ではある。

 「うん、いい人だよ。正義感もあって、真面目で素直で。人類愛に溢れていて、人の為なら何でも出来るタイプ」

 「そうなんだ」

 ミルクは自分が誉められたみたいに嬉しかった。

 「でも結婚は止めといた方がいい」

 「え?」

 「仕事ばかりで家庭も自分も犠牲にする。あの人と一緒になってもつまらないし不幸になるだけだよ」

 「そうなんだ」  

 ミルクはガッカリした。

 「こんな夜中まで仕事してるくらいだもん。女より仕事なんでしょ。付き合ったってデートも無しだよ、きっと」

 「だよね、そんな感じ」

 ミルクもそんな気がした。

 今は仕事に一生懸命な松太郎が素敵に見えるが、もし付き合ったとしたら、仕事ばかりでデートも出来ない状況に我慢出来るのか、それでも素敵と思えるのか。

 「デートしたいし、たまには旅行も行きたいし、若いうちは楽しみたいなー」

 「そんな事言ってると仕事もしない金遣いの荒いろくでもない男にひっかかるぞ」

 「う、確かに」


 ココアは本当は松太郎みたいな人なら結婚相手にはいいと思っていた。仕事熱心で誠実で思い遣りがあって。

 でもココアには視えていた。

 松太郎が仕事熱心なゆえに殉職してしまう事を……。

 

 「また気になる人がいたら言いなさいよ」

 「うん、頼むね」

 

 お腹も膨らみ、少し眠くなってきたミルクだった。


 


  

 

 

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