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旅へ

「こじろー殿」

「おうともさ」


忍び装束に身を包んだ女が、和服で畳に寝そべる男に声をかける。男は顔だけを女性の方へ向けた。


「なんだ?」

「シロ、眠たいです」


シロと名乗った女が男に寄り添う。


「なら、寝ればいいじゃないか」


コジローと呼ばれた男はシロを抱き寄せた。触れた部分がくすぐったいのかシロは身体を小さく震わせた。


「んふふ」

「ん?」

「シロは、幸せです」


シロの微笑みにコジローも笑顔を浮かべる。


「そうだな」


コジローは頷いてから彼女の首筋に顔を埋めた。


「俺も幸せだ」


数時間程経ち、時間も昼頃なり二人は昼食を終えて家を出た。


「こじろー殿」

「おうともさ」

「私、お腹が減ったです」

「ならなにか食うかと思ったが、おむすびにしておけ」


出かける前に、握ったであろうおむすびを鞄から取り出してコジローはシロに渡す。


「へへ、いただきます」


おむすびをシロは口一杯に頬張る。しかし、コジローがおむすびを食べないのを見て、それは止まる。


「こじろー殿はたべないのでありますか?」

「ああ、シロは成長期だからな、シロがたんと食べろ」


 シロは首を横に振ってから自身が齧ったおむすびを彼に差し出した。


「シロは、こじろー殿が、食べてほしいです」

「え、ああ。食べるぞ」


顔を赤一杯にして上目使いのシロに、コジローは動揺する。おにぎりを受け取ってから、彼は一口二口と食べ飲み込んだ。


「んふふ」

「どうした?」

「こじろー殿は、かわいいです」


勝ち誇った笑みに、コジローはため息を吐いた。


「最近、シロが俺の事をからかう。反抗期か?」

「私も、いつまでも子供じゃないのです」


 シロは自然とコジローと手をつないだ。繋がれた手をコジローは、軽く握るとシロから強く握り返された。


「私は、ずっとこじろー殿の傍にいますよ」

「ああ、すまんな」


眼を伏せて、頭を下げようとしたコジローにシロはコジローの手に爪を立てた。


「違います。そうじゃないです」

「え、そうだな。ありがとな」

「えへへ、どういたしまして」



二人が向かった先は、大きな屋敷。使用人が何度も出入りしていた。


「小次郎殿ですね」

「ええ、親父殿はいますか?」

「親方様は、奥においでです。どうぞこちらへ」


 番頭に連れられて二人は案内される。一段と大きな部屋に出て、大柄の男が一人に何人もの美女を侍らせて待っていた。


「親父殿」

「おう、こじろーか。犬も一緒見たいだな」

「シロです。犬ではありません」


男を見て震えてコジローの背中に隠れたシロをかばうようにして、コジローは前に出る。


「親父殿は相変わらずで」

「がはは、お前もな」

「人は簡単には変われないという事でしょう」

「そりゃそうだ」


 親父と呼ばれた大柄な男は、傍の女を抱き寄せた。


「俺は、なんでも手に入れる。全てをだ。立ちふさがる者は全て潰す。例え、息子のおまえであってもだ」

「親父殿。俺は貴方と敵対する気はない」

「ほう、そこのペットが奪われる事になってもか」

「あ?」


 冷たい視線が二人の間に流れて、傍にいた周囲の人間のほとんどが二人の雰囲気に飲まれたのか石像のようにかたまった。傍に控えていた女の一人が刀を抜いてコジローへ切り掛かり、コジローは躱すまでもなく女の首をつかみ上げた。


「んぐぅ」


 女が苦悶の表情を浮かべた所で、コジローは女を親父の方へと投げた。女が恍惚の表情を浮かべてコジローを見ていて、気味が悪いと感じたコジローは親父へ視線を向ける。


「はは、腕は鈍ってないようだな」

「で、なんのようですか。わざわざ呼び出しの連絡をいれたのだから、何かしらの用件があるのでしょう」

「おい。親が子供の様子を気になって」

「貴方にかぎってそれはない。俺が何人目の子供か、母の名前すら忘れているでしょう?」


 コジローの冷ややかな視線にさらっと笑みで親父は答える。


「そんなのわすれたなぁ」

「でしょう、ですからさっさと用件を言ってください」

「ふん、まぁいいだろう。そこの後ろのが餓鬼ももたないだろうしな。凛」

「はい」


 先ほど投げ飛ばされた女が、コジローの方へと歩み寄る。


「コジロー様、これを」

「ああ」


 他国の入国許可証だった。


「邪魔なその国の姫をさらってこい」

「わかりました」


 それを懐にしまいコジローは親父と向き合う。お互い親と子というやりとりより上司と部下、いやもっとひどいのかもしれない。主人と奴隷それが一番近いのかもしれない。


「では、失礼します」


コジローはシロの手を取ってその場を後にした。



「長旅になるな」

「うん」


 家にて荷造りをしている二人。シロはどことなく楽しそうな感じでてきぱきと進めているが、反してコジローの動きは鈍い。


「なぁ、シロ」

「なに?コジロー殿」

「財布だけは忘れるなよ」

「うぐ」


 うきうきとしていたシロの顔色が青くなる。


「一度、それで大変な眼にあったんだからな」

「うぅ、ごめんささい」

「今度はしっかりとしてくれよ。飯でもつくるか」

「はい!シロは、お魚が食べたいです!」


 おにぎりだけでは足らなかったのか。元気にシロが手を挙げて意見を言う。コジローは、わかったと頷いてから、シロの頭を撫でた。不思議そうに顔をかしげるシロは、ぼんやりとコジローを見上げる。


「こじろー殿?」

「ああ、ついな。それにしても奇麗な髪だな」

「そうでしょうか?」

「白くて、さらさらだ」


 コジローは一通りふれて満足したのか、手を離して彼女から離れた。


「魚を買ってくるから、準備はよろしくな」

「はい!シロは頑張ります」


 勢い返事にコジローは笑みを作った。


 夕方程、買い物を終えて家へ帰って来たコジローは、荷物を厨房に置いた後居間を覗き込む。そこには、コジローの衣類に身をくるまれたシロの姿があった。


「お、おう」


 荷物の準備は大方終えたのか部屋の隅に荷物がおいてあった。飯を作るでも手伝ってもらうかと、コジローはシロに手を伸ばそうとして止めた。


「かわええなぁ」


 自身の着物に身を包み安らかに眠る姿。時折聞こえる、ふにゃとした寝顔に小さな寝息が小動物を思い浮かばせる。


「先に飯作るか」


 厨房に入ったコジローは、1時間もしないうちに料理が終わりテーブルに皿をコジローは並べた。良い匂いが部屋を充満して、ぴくりと白い耳が動くのが見える、獣耳がぴこぴこと揺れる。


「こじろーどの、ご飯でありますか」

「ああ、飯だ。顔でも洗ってくるか」

「うん。そうする」


 ひょこひょことふらついた足取りで、シロは洗面所へ向かった。ばしゃと水をかぶる音が聞こえて、頭を水で濡らしたシロがかえって来る。


「起きたか?」

「はい。コジロー殿。シロは起きました」

「じゃぁ、飯にするか」

「はい!」


 橋をシロに渡してから、向かい合ってテーブルに座る。


「シロは、野菜も食べろよ」

「ぬぅ」

「食べろよ」

「うぅ」


 皿の端に野菜をのけるシロをコジローが注意する。仕方ないとシロは口に入れて、コップに入った水で飲み込んだ


「美味しくないです」

「そうだな」

「うぅ」


 ちらちらとシロはコジローを伺う。


「なんだ、魚食べたいのか」

「違うのです。今回の任務は危険なんでしょうか」


 箸をおいたコジローは考えるよう天井に視線を向けた。


「危険だろうな。それも、まえよりずっと」

「コジロー殿」

「でも、逃げ出すのはもっと危険だ。親父の配下の人間は多いし、影響力は強い。それこそずっと追い回されるだろうな」


 コジローはシロを手招きした。シロは、当然のようにコジローの膝の上に乗る。


「俺だけなら、逃げれるかもしれない。でも、シロがいないと嫌だ」

「はい、しかし、シロは、むぎゅ」


 シロが何かを言おうとして、何もいえなくなった。抱きしめられてコジローの胸に顔を埋める事になった。


「ぷはぁ、シロは、コジロー殿がいれば幸せです。だから、コジロー殿が危険になるのなら、逃げたいです」

「なら、無理そうなら逃げちゃうか」

「はい!コジロー殿」

「なら、飯にするか」

「はい!」


 二人は箸を進め十分もしないうちに食べ終えた。食器を洗い、ごろんと二人は居間に転がる。シロが、コジローの上に乗っかった。


「コジロー殿」

「なんだ」

「いい臭いです」

「そうか」


 魚を焼いていた臭いでもついたかとコジローは思いながら、もふもふとやわらかいシロの耳をいじる。くすぐったそうにシロは身をよじった。


「ふぅ、ふぅ」

「あ、わるい」

「いえ、気持ちいいのです」


 もっとせがむように、シロは懇願するようにコジローを見る。若干顔が赤く染まっていて、どことなく色っぽい。


「もっとしてください」

「え、ああ。」


 いじる毎にその声は大きくなり、声色もだんだんと高くなっていた。いけないと感じたコジローは、手を止めてからシロを抱きしめた。


「寝るか」

「えっ、でも」

「早朝にはここを出るしな。シロも寝ておけ」

「うぅ、はい」


 不満そうな声が聞こえたが、コジローは無視して瞼を閉じた。傍にあるシロの臭いと体温を感じながら、夢の中に落ちていった。



 朝、コジローが眼を覚ますとその視界にあったのは、肌色と脹よかな二つの胸。


「お、おぅ」


 コジローは、自身の首にかかっている二つの腕を外し身を起こした。


「そういえば、あのまま寝たのか」


 いまおもえば、布団も引いてなかったとコジローは思いながら眼を覚ましつつあるシロ見る。髪が跳ねて眠たいのか半分閉じたままの瞼をこすっていた。


「起きたか」

「うん」

「飯食って出かけるぞ」

「わかった」


 朝食を食べた二人は、暇もまだ上がっていない夜道を歩く。シロの白色の髪が月夜に照らされて奇麗に輝いていた。


「なぁ、シロ」

「なんでありますか。コジロー殿」


 シロはルンルンと前を歩いていて、ぱたぱたと揺らしていたシッポも止まって振り返る。


「荷物、重くないか」

「これくらいシロは、平気です!」


 心配そうなコジローの声色に、シロはコジローよりも大荷物をムンとゆらして胸を張った。


「けど、旅は長いぞ。本当にいいのか?」

「大丈夫です」


 ジローの心配を他所に、シロはにっこりと笑顔を浮かべる。


「なら、いいけどさ」

「シロは、頑張れます」

「いまから頑張っても疲れちゃうぞ、ほどほどにしておけ」

「きゃう」


 ごしごしとシロの頭をコジローが撫でた。シロのシッポがぱたぱと揺れる。


「シロ、お腹減りました!」

「さっき食べたばかりだろう」


 お腹を抑えるシロにコジローがため息を吐いた。


「まぁ、いいや。おにぎりでもくっておけ」

「はいです!」


 シロは、握ったばかりのおにぎりを取り出して頬張る。


「コジロー殿は、いりますか」

「おれはいいや。シロ、くっとけ」

「はいです!」


 一つシロから差し出されたそれをコジローは断り、二つのおにぎりはあっさりとシロのお腹の中に入っていった。


「おう、シロ。朝焼けだぞ」

「コジロー殿。きれいです!」

「ああ、そうだな」


 二人は東の空か出た日の光に眼を奪われて足を止める。


「シロ、お日様好きか?」

「はい。もちろんです」

「なら、今日いっぱい歩いて、日差しを浴びるか」

「ぽかぽかですね!コジロー殿」

「そうだな」


 相づちをうったコジローは歩き出す。それにつられてシロもコジローの傍に寄った。


「お日様は、シロみたいだな」


 ぽつりと言ったコジローの言葉に、シロは首を傾げた。


「んいや。眩しくて暖かくてな」

「では、コジロー殿は月みたいです!」

「え、あ。そうか。そうなのか?」

「はい!」


 おそらく思いつきがであり、感じたまま言っただろうシロの言葉にコジローは苦笑いする。


「シロ、もうすぐ村だぞ。腹は減ったか」

「うん、シロはお腹すいた」


 時間も昼頃になったのだろうか、シロはお腹の辺りをおさえる。


「そこで、馬も買おう。そこから、次の村まで歩きじゃ遠すぎる」


 コジローの言葉にシロは頷いた。


「コジロー殿。ご飯ご飯。何食べる?」

「シロは、そればっかりだな」

「むぅ、コジロー殿は、気にならないのですか」

「そうだな。確かに、楽しみではあるな」

「では、シロは間違ってありません!」


 シロは嬉しそうに獣耳を揺らす。


「俺は、シロが楽しみなんだけどな」

「うぬ、コジロー殿?」

「いいや。なんでもない」


 村までコジローの手を引いて急かすシロの姿があった。

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