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惨文詩

水カラ。

作者: 舞端 有人

道の上に立ち尽くす私。


手元には一つのビーカー。


中には黒い水が入っている。


道の上には沢山の水溜りがあった。


水溜りを覗き込んで見ると、そこにはこことは別の世界の風景が広がっていた。


自分の見たこともない世界。向こう側には見たこともない人が見えたりもした。


色々と他の水溜りを覗き込んで見ると、一つとして同じ水溜りは無い事が分かった。


全て、見える世界は異なっていた。




私は、黒い水を小さな水溜りに落としてしまった。


小さな水溜りは直ぐに黒く染まってしまった。


ビーカーは透明になった。


私の胸の辺りがキュッと鋭く痛んだ。


どうしようもない痛さと苦しさが、私を襲った。






道の上に立ち尽くす私。


手元には一つのビーカー。


中には黒い水が入っている。


道の上には沢山の水溜りがあった。


水溜りを覗き込んで見ると、そこには別世界の風景が広がっていた。


自分の見たこともない世界。向こう側には見たこともない人が見えたりもした。


色々と他の水溜りを覗き込んで見ると、一つとして同じ水溜りは無かった。


全て、見える世界は異なっていた。




私はビーカーの中の黒い水を地面に撒き散らした。


放り投げる様に、投げやりに、無茶苦茶に。


ビーカーは軽くなった。空になった。


私の胸の辺りも軽くなった。空になった。


ポッカリと何かが抜け落ちた気がした。






道の上に立ち尽くす私。


手元には一つのビーカー。


中には黒い水が入っている。


道の上には沢山の水溜りがあった。


水溜りを覗き込んで見ると、そこには別世界の風景が広がっていた。


自分の見たこともない世界。向こう側には見たこともない人が見えたりもした。


色々と他の水溜りを覗き込んで見ると、一つとして同じ水溜りは無かった。


全て、見える世界は異なっていた。




私は持っているビーカーを抱え込んだ。


水溜りから見えないように。水溜りに落とさない様に。


道を歩く。何事も無いかの様に平然な顔をして。


私はビーカーを抱えて道を歩いた。黒い水は落とさなかった。


ビーカーにはいつの間にかヒビが入っていた。


私の胸の辺りからは今にも悲鳴が聞こえそうだった。






道の上に立ち尽くす私。


手元には一つのビーカー。


中には黒い水が入っている。


道の上には沢山の水溜りがあった。


水溜りを覗き込んで見ると、そこには別世界の風景が広がっていた。


自分の見たこともない世界。向こう側には見たこともない人が見えたりもした。


色々と他の水溜りを覗き込んで見ると、一つとして同じ水溜りは無かった。


全て、見える世界は異なっていた。




少し歩くと、そこには湖があった。


覗き込んで見ると、そこには沢山の別世界の風景があった。


風景はめまぐるしく移り変わる。


私はその湖の中に黒い水を注ぎ込んだ。


黒い水は湖の水と混じり合い、別世界の風景を浸食する。


風景はめまぐるしく移り変わる。黒い水は色々な世界に注ぎ込まれた。しかし、黒い水は分けられ、細かく小さく少なくなっていった。


湖からすれば雀の涙程の黒い水の浸食は軽かった。


ビーカーが「これで良いんだよ」と言った気がした。


私の胸の辺りがざわついた。だけど直ぐに収まった。






湖畔に座っている私。


手元には一つのビーカー。


中には黒い水が入っている。


湖には様々な世界が映っている。


自分の見たこともない世界。向こう側には見たこともない人が見えたりもした。


湖に映る世界は、見る時見る時によってその表情を変えている。


見える世界は全て異なっていた。




私は手を伸ばして、ビーカーを逆さまにした。


黒い水は緩やかに流れ落ちて行き、湖に注ぎ込まれた。


湖の水は少し黒ずみ、映る世界は少し黒色に浸食された。


だが、それも数秒もすれば消えて行った。


私はまた座った。ビーカーを抱えた。


ビーカーには少しずつ、少しずつ、黒い水が溜まって行っていた。

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