第3章 ある少女との出会い
ーーーー意識を失ったアックスは地下留置場の005号室に放り込まれていた。
チカチカと照らす薄明かりのランプが留置場内を照らし、石造りの壁、誰かが清掃したなのか、地面に水びたしに染まっている。
(あーーー……)
汚い枕を頭に敷き、仰向けで寝転がるアックス。 酷い空腹で目を覚まし、天井を見上げるのだった……。
クソッ、何か捕まるし、腹は減るし、最悪である。ここを脱出したいが、この空腹を何とかしないと話にならない。
ーーーー鉄格子のドアが重々しく開かれる。
アックスは飢えた瞳でドアに視線を移した。
入って来たのは一人の看守兵。
両手に運ぶ皿にはサンドイッチ、蒸し芋が盛られ、飲み物はコップ一杯のミルク。看守兵は小窓を開かせ、アックスにそっと手渡す。
「ーーーーッ!!」
アックスは飢えた物乞いのように囚人飯に食らいつき、汚く貪る。
食を喉に詰まらせ、むせたりしてもお構い無く胃袋に流し込む。
「食いながらでもいいから説明を聞いてもらう。お前は我が軍の武器を盗み、我らの戦線に参加した。一般人が鬼神兵を無断所持し、戦闘は違法行為である。しかし、お前は我らの敵であるバスタードールを倒し、我が軍の勝利に貢献した。そこで、その栄誉を称え、お前を我がユーギガノス鬼神兵部隊候補生として入隊を許可する。どうだ?」
「ーーーーッ!?」
看守兵の言葉にアックスの食事の手をピタリと止まった。
「どうした。答えを言わんか?」
看守兵は低い声で問いかける。
まさか。と、思わんばかりにアックスは口を開き聞いてみる。
「オッサン、ここはどこだ?」
「おいおい何を言ってる?。ここは戦線都市ヴァルハラ、ユーギガノスの総本山だ。連れてくる時、言ってなかったか?。ちなみに今いる所は基地の地下牢だ。わかったか、アックス・ギアフリード?」
看守兵は言うのだった。
(………)
何故、奴が俺の名前を知っているのはどうでもよい。
看守兵の発言に、アックスは表情に出ないが、心の中では驚きを隠せない……。知らずに連れて来られたのか、最初はてっきりワケありの罪人を収監する監獄かと思った。
「その様子だと、お前はとんだ勘違いをしていたようだな。まぁいい、ついてくるがよい」
看守兵は鍵を開き、アックスを牢から解放。
看守兵はアックスを連れ、拘置室を退室。
ーーーー岩壁に灯される青色に照らす魔力ランプの階段を二人でかけ登る。
階段を登った先、地下留置場の広間にたどり着く。
看守兵は受付員に頭を下げ、二人で外に退室。
ーーーー外に出ると同時、昼の日光が差し込む。
アックスの視界に広がり、周囲に建ち並ぶのは城クラスの巨大な建造物。コンクリートの地面、道端に優雅に生い茂る緑。アックスは思わず周囲を見回すばかりだ。ちなみに周囲に建ち並ぶ建造物は全てユーギガノスの軍施設である。
「凄い敷地だろ?。俺も初めてここに配属された時は驚いて言葉も出なかった。ちょうど、お前のような歳にな……。俺の名前はラカン、鬼神兵第1部隊隊長をしている。そしてお前の配属される上司だ」
看守兵、ラカン隊長は優しい笑みを浮かべる。
黒く艶めく逆立つ短髪、勇ましさと優しさを兼ねた瞳。30代後半、老獪にくぼんだ頬骨、口の回りには無精髭。がっしりとした筋肉質の体躯は幾多の戦いの軌跡と経験を物語る。
「あんたが?」
ーーーーゴンッ……。
アックスが何気なく返した同時、ラカンはげんこつをアックスの前頭に軽く叩き込む。
「今日からお前は俺の部下だ。軍隊では目上には敬語で返事だ、覚えておくんだ」
「あっ、はい」
ちょっと痛かったのか、アックスは叩かれた頭を撫で、無気力に返事を吐いた。
とりあえず、脱走する必要が無くなった。変わった形だが、少年は戦線都市ヴァルハラに到着した。
隊長と共に街灯が並ぶ軍路を通り、西区にある10階建ての軍宿舎に案内される。一階の廊下を進み、通りすぎてく部屋。そしてラカン隊の名札が掛けられた部屋へと入る。
「ここが部隊の部屋だ、ゆっくりするといい。軍服はすぐに支給される着替えておけ」
ラカン隊長は部屋を見渡し、アックスに言って説明。部屋には2段ベッドが4台、8人部屋であり、アックスは8人目の兵士だ。
「隊長、新人か?」
部屋にいる一人の兵士は言う。
「そうだ。皆、仲良くするように」
ラカン隊長は言った。
とりあえずアックスは無愛想な表情で頭を下げ、(よろしく)と挨拶。
しばらく命令が下るまで部屋で待機。他の兵士達は下らない世間話で楽しんでいる。一方のアックスは輪に入ろうとせず、馴れ合うつもりはない。空いてるベッドで仰向けに寝転がり、天井を見上げる。
(死にぞこない共が、ヘラヘラ笑ってろ……)
境中、アックスは呟く。
5分後、暇と居場所の無さにウンザリしたのか、アックスは隊舎を退室し、外に散歩へと出かけるのだった。
昼、基地領内の軍路をのんびりと散策するアックス。今はオフ、指令が下る心配はない。
アックスの側を通り過ぎるランニングする集団兵の光景。アックスは(暑苦しい)と、言わんばかりな表情を浮かべ、眺める。
「オイ、キサマ!!」
何かの怒鳴り声。
「ったく……」
アックスは声の方へ目を向ける。
「何だ、その態度はッ!!。どこの部隊だ、答えろッ!!。そしてランニングしろッ!!」
声の主はランニング訓練を師事する中年の教官軍人。アックスに近寄り、絡んできた。
身長はアックスと同格、全身はぽっちゃりと中年太りの体型。ハゲかかった黒髪、口うるさそうな嫌な目。口周りは無精髭、年齢は50代間近、何か嫌な感じの上官だ。
「ヤダ」
「何だキサマ!!、全体的にたるんどる。修正が必要だな、そこに直れ!!」
ーーーッ!!
教官軍人はアックスの右頬を殴り、鉄拳制裁と言う名の修正を施す。
「テメェ、何しやがる!!」
体勢を立て直し、アックスは激怒。
この野郎、ぶっ殺してやる……。
気持ちのリミットが外れ、アックスの頭に血が昇る。今度はアックスが殴りかかる。
ーーーードカッ!!
「キサマ、上官を殴るとはどういうつもりだ!!」
殴り返されるのは予想外だった。教官軍人もキレる。
「うるせぇ、正当防衛だ!!。殺る気なら来いよオッサン!!」
アックスは血気盛んにファイティングポーズをとる。
「そうか、なら俺が教育してやる……」
教官軍人は拳をポキポキと鳴らし、殺る気。
「殺すッ!!」
アックスは突っ込む。
奴の顔面に狙いを定め、右ストレートを放った。
長年、自己流のトレーニングをしてたから力量には自信がある。
見た目からしてバスタードールより弱そうだ。俺がこんなオッサンに負けるかよ、すぐに病院送りにしてやるよ。と、アックスは胸中で息巻く。
「甘い」
軍人教官はニヤリと浮かべる。
左掌を掲げ、左掌で拳撃を受け止める。
(何っ……)
パチンと、パンチが死ぬ音にアックスは驚愕。
「それじゃあバカに腕を振り回してるだけだ、何にも力が伝わってこんよ。拳はなこう放つんだよ!!」
軍人教官の右ボディブローがアックスのみぞおちを捕らえる。
「グアッ……」
パンチを食らったアックスは悶絶。
パンチの質が違いすぎる、軍人教官はアックスみたいに腕を振り回すのではなく、体重と腰が入り、パンチを本来に発揮していた。
軍人教官と言えども、戦場経験はアックスより豊富、ケンカは強い。今、奴が放ったのはフィニッシュブロー、大抵の奴はこれでノックアウトしている頃だ。
(フン。さっさと地面にゲロをぶちまけろ、がきが……)
軍人教官は決まったようにヘラヘラ笑い、腹を押さえて膝をつくアックスを見下ろす。
「この野郎……」
アックスは喉奥から昇ってくるゲロを気合いで止める。そして奴の両肩に怒り任せに掴みかかる。
「キサマ……」
アレを喰らって立っただと……。教官軍人は驚愕。
「オラッ!!」
アックスは奴の鼻先に狙いを定め、頭突きを喰らわせる。軍人教官は思わず仰け反り、吹き出す鼻血を両手で押さえる。
「クソガキが!!」
鼻骨が折れ、鮮血に染まった両掌を握り締め、軍人教官は完全に怒り爆発。
お互い怒り任せに殴り合い、地面に鮮血が飛び散る。気分は高潮、もう止まらない。
「お前ら何をしている!!」
状況を目撃し、至る所から駆けつける兵達。
アックスは手を引っ込め、全速力で逃走。無意識に走り、目に入った階段をかけ降り、ひたすら走る。そして軍基地を脱出。
(ここまで来れば追って来ないだろうな)
周りを見回し、アックスは一安心。
今頃、基地領内では俺を捜索しているのだろう。
アックスの現在地、広大な戦線都市の何処かの区域。まず広すぎて分からない。
まず、戦線都市には戦闘訓練所が至る箇所に建ち並んでいる。
戦闘訓練所が多いのは都市が景気がよい証。目的の大半は有能な兵士を育てる為だ。軍の招集を多く受けた訓練所は評価がアップし、訓練所は大きくなる。
都市には25区の町が存在し、都市の広さを物語る。
ユーギガノスの戦況は優勢でもなく、劣勢でもない……。ユーギガノスは強大な敵、破壊神ラモディウスと400年間、戦争状態である。戦争が勃発した訳、それは破壊神ラモディウスが突如として出現し、バスタードールを率いて攻撃を開始。
多くの兵士が戦地へ赴くと(鬼神兵)が必要になる。(鬼神兵)の材料は魔力、各地から発生する魔力を資源とし、大量に生産されている。
皮肉にもこの戦争が都市を活性化させている。
(終末戦争)は史上最大の戦争でもあり、史上最高の大戦景気でもある。世界は今、ユーギガノス中心で回っている。自身の名声を上げる為、ヴァルハラに出兵する者も珍しくない。
アックスは何処か分からぬ表通りを歩いていた。顔中には喧嘩の傷痕、道行く人々は驚き、目をそらし、距離を置かれる。
(ここどこだろーなー)
アックスは気ままに空を見上げ、歩く。
何気なく建物を眺める。
一辺の建物は訓練所に幾つかの商業施設、鬼神兵の腕輪を製造する工場。戦線都市では戦士同士の喧嘩は日常茶飯、あまりの激しさに賭け事に発展は当たり前だ。
先代は言った、頭じゃなく体を使え、血と汗、命を燃やして己を知り、戦え。それが文化の習わしとなっている。
「ハァ……」
アックスはため息。
ある噴水広場にて、ベンチにて寝そべり、ひとまず休憩。兵士も見当たらないし、ここは安全だ。
100メートルの都市の岸壁、察知周波と防衛結界。万が一、外に出たりしたら即、バレる。が、アックスはそれを知らないのは幸いだ。
ーーーーバサッ……。
アックスの頭髪に乗りかかる一羽の鳩。
(何だよ。俺の頭は巣じゃねぇっての……)
鳩にイラッとするアックス。
鳩を払い除けてやった。
「ーーーッ!?」
頭上を飛翔する鳩の群れ。群れは噴水広場に立つ少女の足元に吸い込まれるように集合。鳩と戯れる少女、アックスは思わず目を移すのだった。
「何だアイツは……」
変わり者はどこにもいる。
アックスは何気なく鳩と戯れる少女を観察。動物に好かれやすい体質なのか、それとも何かの呪い。
関われば面倒だが、不思議なので興味深く睨む。
少女はアックスと目が合い、取り巻く鳩の群れと共に歩み寄ってきた。多分(何見てる)などの文句だろう。少女はベンチに寝そべるアックスの前に立ち尽くす。
「何だよ……」
アックスは無愛想な表情を浮かべる。
「一緒にどうですか?。鳩と戯れていると心が和みますよ……」
少女はにこやかに言ってくる。
口振りは神秘的、スラリとした身長に水色の長髪。瞳の色は黄金、袖無しの純白色のワンピース、年齢はアックスより、3歳年上の美少女だ。
「何だソレ、鳥と戯れるなんて頭おかしいんじゃねぇの?。鳥なんて、人から見ればただの食肉、空飛ぶメシだ。それに、肉と戯れるのは趣味じゃないんでな……」
アックスは少女の笑みに対し、毒舌をかます。この返答なら、気の短い奴ならすぐに喧嘩へと発展するだろう。
「隣、座ってもいい?」
少女は気にもせず、笑み。一方アックスは(好きにしろ)と無愛想な口調で返し、席を空ける。少女はベンチに腰掛け、口を開く。
「私はリサ・ドラグーン。アナタは?」
「アックスだ、アックス・ギアフリード。ただの血の気が多いならず者の兵士と思ってくれ……」
アックスは適当に自己紹介。
リサはロングヘアーを清らかにかきあげ、神秘な笑みを浮かべ、視線をアックスに向ける。
「鳩は好きですか?」
「だから、鳥の戯れはシュミじゃないって……」
「けど、ホラ……」
リサはアックスの足元に指を差す。
「なんじゃこりゃ!?」
リサの言葉に、アックスは足元に違和感を覚える。
足元を見て思わずビックリ。足元には無数のハト、まるで残飯に群がるアリの大群だ。
一体、何故だ。うっとうしいハト達、スネは突くはズボンは噛まれ、穴だらけだ。これのどこが楽しいんだか、一方のリサはクスクスと笑っているだけだ。まったく、変人に関わるとロクな事がない。
「イタイイタイイタイっ……」
一羽のハトに、自慢の髪を突っつかれるアックス。ハトは彼の頭髪をミミズと勘違い。
するとアックス、カチンと切れる……。
「このハト!!。ササミにして喰ったろか!!」
アックスはハトの首を掴み上げ、怒鳴り上げる。
「ーーーーッ!!」
一羽のハトを救出すべく、ハトの群れはアックスに一斉襲撃。ハトの群れにアックスは飲まれ、今度は突っつかれるだけでなく、全身の至る部分を噛んでくる。
「ダメです。そんな事したらハトが可哀想ですよ……」
怒るリサ。
ハトの襲撃がまるでリサ自身の怒りを表している。ハト達はリサに操られるように、アックスに噛みかかる。
「わかった、わかった。ゴメン、謝るから!!」
ハトの襲撃にアックスは観念するように、リサとハトに訴える。さすがのアックスもハトの一斉襲撃には堪えたらしい。痛くはないが、面倒くさくなり、精神的に痛くなる。
「よろしい」
リサが口を開くと同時にハトの襲撃が止み、何処へ飛翔。
「お前、ハト操ってるだろ?」
アックスは言う。一方のリサは(ヒミツ)と言って笑みを浮かべる。(もういいや)と言わんばかりのアックス。
「アナタはこの町は好きですか?」
「来たばかりだからわからん」
アックスは返答。
「私は好きです。小さい頃、能力の高さに周囲から恐れられ、それで両親が私を精神病院へ幽閉入院させられました。ユーギガノスが私の力を買い、そして戦線都市に連れてこられたのです。小さい頃から力を使いこなす訓練と豊かな生活をさせてくれた事に、私はユーギガノスに感謝しています。訓練はじきに修了すると聞いています、その後私は戦線に立ち、戦う事になります。私はユーギガノスの希望として破壊神ラモディウスを倒し、こんな私を拾ってくれたユーギガノスや都市の人達に恩返しをしたいのです」
「お前も大変だったんだな。で、破壊神ラモディウスって?」
アックスは言う。
「400年前に突如、出現したモンスターです。奴はバスタードールと言う兵隊を率い、各地に戦火を燃やしています。アナタも近いうち、戦場に駆り出され、奴と戦う事になるでしょう……。少し話が長くなりました、私はこれから大事な修練がありますので失礼します」
リサはベンチを立ち、広場を離れる。一応、アックスは手を振り、走り去るリサの背中を見送る。するとリサは立ち止まり、アックスに振り向き、笑顔で口を開く。
「また会えたらいいね。アナタ面白い人だからまた、お話をしましょう」
リサは手を振り、広場を走り去る。
また、会えたらいいか。あまり思わないが、アレと出会って思い出になったのはハトに襲撃され、衣類を穴だらけにされたぐらい。
忘れないだろうリサの事は……。