第1章 地上戦線組織ユーギガノス
ーーー〈商業の町チャド〉ーーー
ーー町はモンスターの組織に支配されていた。
週に一度、若い女性を要求してくる。理由は簡単、性処理が欲しいからだ。しかし、大抵は惨く弄ばれ、殺される。逃げても捕まる、
見つかれば公開処刑、人々は奴らの様子を伺う日常は地獄。
本来、この町は商業が盛んで賑やかな所である。レンガ造りのタウンストリートに建ち並ぶ商店、古びた色彩の建物はチックな雰囲気を漂せる。
一方、照りつける日差しの中、街道を走る十人乗りの軍馬車。足元の草花を踏みつけ、殺気を出し馬車は走る……。
向かう先は支配されてるチャドの町、正体のわからない奴らの足音がチャドの町へ不気味に迫る……。
彫刻のような肉体に鍛え上げられた軍馬、毛並みはブラックダイヤ、スカーレットの鋭眼。屋根と灰布で被う荷台車、中からは声、誰かがいるのは確かである。
ーーーチャドの町。モンスターの組織により、建物は破壊され、栄えてた光景がまるでウソ、廃墟のよな町となっていた。モンスターの組織は自身らの町を建てる為、町民を奴隷として使っていた。
大空から照らす灼熱の日差し、働く町民の体力と気力を奪う。こーゆーときの太陽は悪魔でしかない。
ドサッ……。
渇布の袋を苦悶を浮かべ、運ぶ若い女性。
袋の中身はぎっしりと詰め入った小石、コンクリート状に溶かし、建築の資材にする為だろうが、灼熱の細い腕では非常に困難である。そして、女性は倒れる。
「休んでんじゃねぇっ!!」
監視のオークは駆けつけ、女性を鞭で引っ叩く。
(…………)
抵抗する気力もない。女性は何も言えず、無意識に呼吸する体力しか残ってない。
オークは女性を何度も鞭を叩きつける。モンスターに恐怖し、奴隷達の手が止まる。静かに、モンスターに打ちのめされる女性の姿に視線を移す……。
町全体、改造復興する奴隷達。
逃げることすら不可能、町中には300体のモンスターが見張っている。
「…………」
パクパクと息を吐く女性、額から流れ落ちる血、青アザ。瞳から流れ落ちる涙、口の中で切った血が地面に混じり、痛々しく染み渡る。
オークは女性の髪を掴み、自慢の怪力で女性を片手で持ち上げる。
「何だぁ?聞こえねぇな……。決めた、この女は俺達のエサだ。使えないら喰い殺してやる」
オークは気を失った女性の髪をガシッと掴み、持ち上げる。
群衆に向け、女性の首筋に刃を押し立てる。奴は斬首といったイカれた性癖を持ち、これまで何人もの女を犯し、その後用済みとなったら首を斬り、返り血を浴びて絶頂を楽しんできた。
……町民達はモンスターが怖く、立ち向かう者はいない。
群衆の後影に身を潜め、オークを睨む一人の少年。
髪の色はブラウン、袖無しの白シャツに青いズボン。手にはつるはし、少年はオークに狙いを定め、つるはしを強く握り締め、構える。
ーーーーッ!!
少年は怒りと憎しみで恐怖を押し殺し、激昂。
少年はオークに突っ込み、背後からつるはしを叩き込むのだった。
ガスッ…
叩きこまれかたつるはしはオークの広背に命中。
しかし、オークの肉体は硬く、少年の力では歯が立たない。少年は絶望的に言葉を失った……。
ーーー刃先から手首にかけて流れる痺れ、そして恐怖。少年の身体は戦慄に震えた。
「痛いじゃないかボーヤ、ダメだよそんなモノを振り回しちゃ、それは掘る道具だよボーヤ…」
オークはニヤリと笑う。
「ーーーッ!!」
少年の体から噴き出す血、オークは少年が反応仕切れない速さで剣を抜き、斬る。
少年は力がぬけたように尻餅をついた。そして斬られた胸に手を当て、確認した。
「ーーーーーーッ!!」
少年は激痛、全身が灼熱をもって理解した。自分が斬られたという事を……。
少年は出血性ショックで地面をのたうち回る。
「いいねぇ、いい声で鳴くじゃないかボーヤ。さらに俺の大事なところが膨らんできたよ……」
イカれたオークは笑い、少年を深々と見下ろす。
このヘンタイヤローが……。少年は落としたつるはしに手を伸ばした。
ーーーーグシャッ
オークは手を伸ばす少年の腕を、体重を乗せて踏みつける。
「------ッ!!」
嘔吐したくなる激痛、少年は絶叫。
少年の腕は骨ごと潰され、青く変色していた。
「その叫び声もいいねぇ、ますます興奮する。そうだな、女を殺すのをやめて、この場で慰みにする事にしよう。オンナはいいぞぉ、抱いてる時は猿のように鳴き、蛇のように絡みつき、温かい……」
オークは拘束する女性の太股から乳房を自慢気にまさぐり、少年や周囲にみせつける。
ーーうつ伏せに倒れる少年は絶望した……。
オレには何も守ることも何も救ってやる事も出来ないのか……。
ーーーオレは何て無力なんだ……。
少年の絶望は痛覚を上回った。
出血多量で意識が遠のく少年。視界に映るモンスターや町の風景が白く濁っていく……。
ーーー少年の名はアックス・ギアフリード。まだ夢と希望に満ちた12歳の男の子だ。
(ちくしょう……。ちくしょう……)
少年は意識中で叫んだ。
同時に後悔した……。オレに力さえあれば、こんな奴ら簡単に追い払う事が出来たかもしれない。その可能性に選ばれなかった自分が憎くてしょうがない。
ーーーーガシュッ!!
ーーーー辺りに衝撃が走った。
後方から放たれた光弾、モンスターの頭部は破壊され、地面に崩れる……。
地面に飛び散る肉塊、目玉に脳ミソ、割れ風船のように破裂し、ぶち撒かれる緑色の血。一方、人質の女性は健在、気を失っているが無事だ……。
ーーーすると、建物の屋上から何かが飛び降り、着地……。
ーーー出現したのは、重装の騎士。
エメラルドの甲冑、両サイドには肥大化した長殻型のショルダーアーマ、胸部と腰部に逆殻型の装甲をモチーフとし武器は砲槍。例の光弾は砲槍の口径から射出されたらしい。左腕には大型の盾。
直線タイプのランス騎士であり、全身に魔導熱圧をジワジワと展開。
そして、ランス騎士は少年と女性に駆け寄る首筋、手首の脈を計り、触診。
「何だキサマ、オレらの町に何かようか?」
建物の影、屋上、至る所からゾロゾロと駆けつけるモンスターの群れ。数百体の勢力、種族は多彩だ。奴ら、戦る気である……。
ーーーランス騎士は立ち上がり、モンスターの群れを睨む。
「そうだな。お前達という名のゴミを片付けにきたと言っておこうかな……」
と、ランス騎士は高々と発言。
「ーーーーーーーッ!!」
周囲の町民はビクッと萎縮。
ヤバい、奴らを怒らせたらどうなることか……。 町民達は様子を見るついでに、作業の手を止める。
「おいおい聞いたかよ。あいつ、俺たちの事をゴミだってよ……。どうした?生きてる事が嫌になって自暴自棄になったのか?何なら俺らに相談するか終わった頃には死んでるかもなガハハハハッ」
先頭のブタ獣人は笑う。
ブタの笑いにつられ、その他モンスターも笑い上げる。どうやら騎士の言葉が、奴らにとってギャグと思い込んだらしく、ランス騎士はただのイカれた自殺志願者と認識されたらしい。
(説明が悪かったな。まぁ、オレは説明が下手だから仕方ないか……。他の同志を呼ぶとしよう)
すると、ランス騎士は槍先を上空に掲げ、口径から光弾を射出。光弾は爆発し、赤煙が上空に立ちこめる。
「何だアレは?」
ブタ獣人は言う。
ランス騎士は「花火」と、答える。
「ぶっ……、ぶぁっははははははぁ!!。まるで今のテメェを指してるような花火じゃねぇかよ!!ぶはははは!!」
ブタ獣人が笑い上げると、他のモンスター達もつられ、大爆笑。モンスター達は数分間、大爆笑をあげる。ランス騎士は予想外、モンスター達を爆笑させてしまった。
(そろそろ来るかな……)
ランス騎士は冷静に待機。そのときだった。
ドシャッ!!
それは二階の建物の屋上から投げ込まれた。
モンスターの群衆の中、叩きつける同胞の虐殺死体。数は三匹、どれも状態は同じ。腕は切断され、肉体はグルリとねじ曲げられていた。
オーク、ブタ獣人、猿人、三匹の同胞の顔面は崩壊し、ワケの分からない状態になっていた。これにより、モンスター達の笑いはぴたりと止んだ……。
「何だソレはッ!!」
ブタ獣人は怒鳴り、声をあげる。
「ゴミだ。お前も今からそうなる」
ランス騎士は言った。
ーーーそして、モンスター達は怒りを露にした。
同胞が殺され、モンスター達は血相を変え、周りを見回す。奴らは人間を殺したり、犯したり、弄ぶのは好きだが、逆にナメられるのは大嫌いである。
「キサマ……」
ブタ獣人は剣を抜く。
他のモンスター達も武器を構え、戦闘態勢。すると屋根から屋根へ飛び移り、こちらの方へ近づく硬い足音が周囲から響き渡る。モンスター達は再度、周りを見回す。
ーーーそして、足音の正体か姿を現すのだった。
「ーーーーーーッ!!」
ーーー周囲の屋根から次々と飛び降り、着地をする似たような騎士達……。
パープルの装甲鎧、武器はハルバート。そして、ランス騎士が3体とルビーの装甲鎧のソード騎士が6体。騎士の数は合計10体の騎士隊、ハルバートの騎士は9人を指揮する隊長である。
前方3百メートルの距離で相対する謎の騎士団。張り詰める状況に奴隷民は建物の影に隠れる。
「テメェら……。どこの者だッ!!」
ーーーブタ獣人は鼻息を荒らし、怒りの咆哮。
群れたちも続くように一斉咆哮。武器をブイブイと振りかざし、余裕を覗かせる。
数はモンスター側の方が有利、あちらは10人に対し、こちらは数百の群れで数を成している。
しかし、騎士団はビビらない。
「我らはお前達と言う名のゴミを片付ける為ここに来た。我らは地上戦線組織ユーギガノス、聞いた事はあるだろ?」
隊長は言った。ハルバートを構え、逆に挑発。
「知らねぇな。たかが鉄の塊を纏ってる奴らにオレらがビビるかよ……」
ブタ獣人は剣を振り回し、強気に吠える。
ーーーしかし、奴以外のモンスター達の様子が変わってくる。まるで鎮火した炎のように、モンスター達の騒ぎ声は消えた。知らないのはブタ獣人のらしい。
「これは鉄の塊じゃないな。鬼神化と言って自身の闘志解放によって変身した姿だ。戦闘におけるパワー・スピード・守備力、そして判断力が大幅にアップする。これがどう言う事か、わかるか?」
数で威張ってるモンスター達に、隊長は静かな威圧を漂わせる……。
モンスター達にとって、天敵に睨まれる小虫の群れ。騎士の正体は鬼神化によって姿を変えた戦士、彼らはコレを鬼神兵を呼ぶ。
「なっ、何が鬼神化だッ!!、数はこっちに分がある、殺っちまぇッ!!」
威圧感を浴びせられても、ブタ獣人は臆した心を気合いでごまかす。
ーーーモンスター達は鬼神兵に一斉突撃。有利なのは数のみだ。
「任務開始。目標、モンスターを街の外に一匹も出さず、殲滅。くれぐれも一般市民を巻き込まず、責務を遂行せよ!!」
隊長は勇ましく、闘志をもって部下に一喝命令。
ーーーー部下の鬼神兵達は力強く(イエッサー)と応え、戦闘態勢。
しかし、この程度のモンスターは彼らにとって大した事がない。彼らはコレよりヤバい敵と最前線で戦っており、コレは害虫駆除程度の戦線レベルである。
距離200メートル、血気盛んに突撃してくるコレ程度のモンスター軍団。踏み走りにより舞い上がる土煙、怒りと狂気交じりの怒号は奴ら特有の士気。
「ランス鬼神兵は前へッ!!。標準は全モンスター。迅速に隊列を組み、射撃態勢に移れッ!!」
隊長は全隊員に威勢よく指示。
ーーーーーランス鬼神兵は横並びに隊列を組み、砲槍をモンスター軍団そのものに標準を定め、砲口に魔力を溜める。
「やれ。奴らに絶望を味わせてやれ」
ランス鬼神兵の一斉砲撃は隊長の小さく、そしてクールな一声を皆に指示し、戦闘開始。
「ーーーーッ!!」
ランス鬼神兵の砲槍から放射する無数の光弾。
光弾は殺気立つモンスター軍団に容赦なく浴びせられ、次々と倒れるアレ程度のザコ、射撃されたザコは運がない、射撃されなかったザコは運がいい。
頭部は破壊され、全身からぶちまける肉塊、血骨、臓器。地面に降り注ぎ、屍は土に還る。
ーーー何だコイツら、強さが違い過ぎる……。
こんな最期はイヤだ。
ザコ達は鬼神兵達に背を向け、逃亡。
ーーーーー力でねじ伏せる立場から、ねじ伏せられる立場に変わった。
ユーギガノスの戦士達は逃げ惑うザコを一方的に斬り捨てる。一匹たりとも逃がしてはならない、生き残りが新たなリーダーとなり、組織を作られては面倒だからだ。
ーーーー10分後。
ユーギガノスの戦士達がモンスター組織を一掃するのに、そう時間はかからなかった。
逃げ惑うザコの声は止み、町には静寂……。
「たすけて……、くれ。許してくれ……」
10体の鬼神兵に見下ろされ、うつ伏せに倒れているブタ獣人。両腕は斬られ、自力では立てない状態。ブタ獣人は涙をながし、命を乞う。
ーーーーガシュ!!
ユーギガノスの戦士は情けをかけない。命乞う奴の泣きっ面に、刃でトドメを刺した。
白濁に染まる意識の中、少年アックス・ギアフリードが見た記憶はそれだけだ。