本当は君も気づいているのだろう?
○登場人物
天野朔也:主人公
多々良:いじめの主犯
柳:いじめの共犯
倉田 真:朔也の友人、千鶴とは双子、通称マコ
石崎 康太:朔也の友人、通称ザキ
医者:名医らしい。朔也がよく怪我するため、いつも面倒を見ている
倉田 千鶴;朔也の友人、真とは双子
しばらくの後。
レッドインパクトのメンバーは残らず、地面に倒れていた。
意識のあるのは、朔也、多々良、柳の三人である。
「ザコは束になっても大したことはないな」
もちろんそれは、朔也の虚勢だった。
現に彼は、全身怪我だらけで、立っているのが不思議なぐらいだ。
朔也は、よろよろと二人の女子に近づく。
「やっと話ができるな、お嬢さん方」
二人の女子はガタガタと震えて、声が出せない。
「俺が言いたいことわかるよね?」
二人の女子は、ブンブンと頭を立てに振ることしかできない。
「そうか、わかってくれたか。じゃあ、もういじめなんてくだらないことするなよ」
二人はさっきよりも、大きく頭を立てに振った。
「よし、ならもう帰って良いぞ。もし、いじめなんてまたやったら……言わなくてもわかるだろ?」
「は、はひ。どうもすいませんでした」
そう言って、多々良と柳は、廃工場から出て行った。
それを見届けて、朔也は座り込んだ。
「とりあえず、当初の予定は達成だな。……あ~やばっ。目がかすむし、左腕は感覚ない。頭もフラフラ……これは流石にやばいかも」
朔也は目をつむった。
彼は、もう自分の意思では動けない。
それから、少しして彼に話しかける者が現れた。
「おい、サク。起きろ!死んでんのか?」
「サク、僕との約束を果たす前に死んだら祟るよ」
「う……なんだ、マコとザキじゃないか。どうしてここに?」
「千鶴からサクを捜索しろって命令されて、ザキとお前を探してたんだよ」
「あ…そういえば、映画の約束すっぽかしてしまった」
「まぁ、詳しい話は後だ。とにかくまずは病院だ」
「確かにそうだね」
「んじゃあ、後は頼んだ。俺、もう動けねぇ」
「全く、世話のかかる」
「だね」
朔也は意識を手放した。
………
……
…
次の日の夕方。
病院の個室にて。
朔也と医者が話している。
「まぁ全治一ヶ月ってところだね」
「退院はいつできます?」
「退院は、今週末にしとこうか」
「わかりました」
「それと」
「はい?」
「君は怪我をするのが趣味なのかな?」
医者は、笑顔だが威圧的な笑みだ。
「いやだな先生。そんな人間いるわけないじゃないですか」
「私もそう思っていたよ、君と出会うまでは」
「運命の出会いってやつですね」
「君と私の縁は、君が一方的に結んでくる迷惑なものだ」
「まぁ先生は儲かるから良いじゃないですか。一応、俺もお客さんなんですよ?」
「私は、患者を客だとは思っていない。全く、治しても治してもすぐ怪我をするなんて君ぐらいのものだよ」
「先生に会いたいがために俺は常連になってるかもですね」
「私は、年下に興味はない」
「俺は先生のこと好きですよ?」
「はいはい。じゃあ、私が嫁に行き遅れたら君の誘いを受けよう」
「もうすでに…」
「何か言ったかな?」
「いいえ、なんでもありません」
「さて、私は忙しいので失礼するよ」
医者は立ち上がり、部屋から出ようとする。
しかし、ドアの前で立ち止まる。
「あ、そうそう1つ言い忘れていた」
医者は朔也に振り向かずに口を開いた。
「なんです?」
「君、今回みたいなことすると次はないかもしれないよ」
「………」
「君の体は今まで無茶し過ぎた。ダメージが体に蓄積している。もう体の機能が完全に治ることはない」
「………」
「まぁ、日常生活を送るのに支障は少ないだろうが」
「………」
「本当は君も気づいているのだろう?日に日に運動神経や感覚神経が落ちていることに」
「………」
「だから、女子に刺される。だから、今まで瞬殺だったザコ共に拉致られる」
「……どうしてそれを?」
「傷口を見れば、何が起きたかわかるさ。君と私の付き合いも、そこそこ長いしな」
「……確かに」
「話を戻そう。君は今の状態でも全身の神経を集中させれば、少しの間だけ全盛期の能力を発揮できる」
「それは良かった」
「でも、それはおすすめしない。やはり、体に負担がかかりすぎるからね」
「はい」
「以上、説教終わり。じゃあね」
医者は、部屋から出る。
「次はないかもしれないか…」
朔也は窓の外をぼーっと見ている。
「ま、そん時はそん時だな」
病室のドアが開く。
一人の女子が勢いよく、入ってきた。
「朔也!」
「よお、千鶴」
その女子、千鶴は朔也に抱きつく。
「お、おい」
「うるさい、バカ、黙れ」
「あの~もしかして、心配してた?」
「当たり前でしょ!あんたはいつまで待っても来ないし、電話にも出ないし……真から病院行ったって聞いたときは、死んだのか思った」
千鶴は静かに泣き始めた。
「俺が怪我するのはいつものことじゃないか」
「ぐすっ…だからいつも心配なんじゃない!」
「それは…ごめん」
「う~す、サク。見舞いに来たぞ~」
「来たぞ~」
真と石崎が入ってきた。
「もしかして、お邪魔虫だったかな?」
千鶴は顔を真っ赤にし、朔也は苦笑いをしている。
「わ、私今日はもう帰るから」
「おう、見舞いサンキューな」
千鶴は急いで退出した。
「いや~なんかすまんな」
「良いところを邪魔して悪かったね」
「そんなんじゃないって」
「にしても、昨日はあの後大変だったんだぜ」
「だね、サクをマコが担いで、病院に連れて行ったまでは良かったんだけど」
「良くねぇよ!すげー疲れたわ、まじで」
「それは悪かったな」
「んで、その後遅れてきた千鶴は泣きじゃくってね」
「だったな。朔也死なないでーってずっと祈ってたんだぜ」
「あれは健気だったね」
「んな、大げさな。死ぬほどの怪我じゃなかったろうに」
「アホ言うな。お前血を流し過ぎで、結構危なかったらしいぞ」
「そうそう。ていうか、昨日のこと詳しく説明してくれよ」
朔也は、二人に事情を説明した。
「なるほどね。それで、僕にあの教室を掃除させたのか。教室に、大量の髪の毛と血のついたハサミが落ちてて焦ったよ」
「掃除ありがとな。なるべく大事にしたくなかったんだ」
「まあ、良いけどね。それより、約束覚えてる?怪我のせいで忘れても、僕は怒るよ」
「覚えてるさ。お宝本を五冊だろ?任せとけ」
「覚えてるなら良いけどね。もちろん、僕の好みのじゃないとダメだよ」
「相変わらず、ザキは脳内桃色だな」
「マコが変なんだよ。健全な男子高校生たるもの、常にエロエロだよ。ね、サク?」
「それはそうと、お前らはなんで俺の居場所がわかったんだ?」
「完全にスルーだ」
「完全にスルーだね」
「うるさい。で、なんで?」
「それは、私が説明しますね」
病室に朝霧と宇佐美が入ってきた。