じゃあ、俺も本気を出すわ
○登場人物
天野朔也:主人公
赤崎:レッドインパクトのヘッド
金髪男:ゲームセンターで朔也に倒された男、レッドインパクトの幹部
コインが床に落ちた。
それにいち早く反応したのは、朔也。
朔也は距離を詰め、赤崎の顔面に拳を叩き込む。
さらに、追撃で腹部にも拳を数発入れた。
赤崎はのけぞり、鼻から血を流した。
その様子に、二人を見守っている外野がどよめく。
「あいつマジはええ」
「一瞬で間合いを詰めやがった」
「あれはヘッドと言えど、避けられないわ」
「これってもしかして、ヘッドやばくね?」
「ヘッドが負けるわけないだろ!」
「ああ、ヘッドが負けるなんて想像できんな」
赤崎は鼻血をぬぐい、顔を上げた。
その顔は、相変わらずニヤついている。
むしろ、戦う前より楽しそうな笑顔だ。
「クックック。天野君……君はやっぱり期待通りだよ。そうでなくちゃ面白くない」
「お前、タフだな。普通の奴なら、鼻を潰しただけで戦意を失うんだけどな」
「腹に穴が空いている君に言われたくないよ。さすがは、真千組の副長と言ったところか」
「……元だけどな。つか、気づいていたのか」
「そりゃあ気づくさ。君は有名人だからね」
再度、周囲がざわめく。
「真千組って、一部では伝説になってるあの真千組か?…俺、本物初めてみた」
「俺もだ。いや、でも真千組ってもう解散したんじゃなかったか?」
「ああ、だからあいつは元って言ってるんじゃないのか」
「でも、真千組の副長って金髪っていう噂じゃなかったか?あいつは黒髪だぞ」
「そんなこと知るか。噂がガセにしろ、あいつが偽者にしろ、ただ髪を染めただけにしろ俺たちにはなりゆきをただ見守ることしかできない」
「だな」
朔也が口を開く。
「あんまり昔の話を掘り起こさないでくれよ。今となっては、ハズいんだよ。特にそのネーミングとか」
「まぁ、そう言うなよ。君を倒せば、俺たちレッドインパクトの良い宣伝になる。俺たちは真千組を越えた伝説になる」
「俺のいないところで勝手にやってろよ」
「まぁ、そう言うな。俺たちのために死んでくれよ!」
赤崎が突っ込んでくる。
朔也はそれをひらりとかわし、反撃体制をとる。
しかし、朔也が反撃するより先に、赤崎は手に握りこんでいた砂を朔也にかけた。
朔也が砂にひるんだ隙に、顎にアッパー気味に拳を入れた。
赤崎の指には、いつの間にかシルバーリングがはめられていた。
「でたー!ヘッドの十八番の血の一撃」
「ヘッドのパワーに加え、リングの硬さでダメージアップ。それを顎に食らって効かない訳がない」
「あれを食らって立ってた奴は今までいねぇ」
「いくらあいつが元真千組でも、これでお終いだ」
しかし、朔也は倒れない。
「おい赤崎。武器はルール違反じゃないのか?」
「砂もリングも武器ではないだろ。それにルールはあるがそれに違反したところでペナルティは設けられていない」
「でも、お前は円の外に出たら負けだと言っただろ?」
「そうだ。しかし、武器を使ったら負けだとは一言も言っていない」
「……そういうことか」
「まあ、悪く思うな。再度言うが、これはゲームだ。楽しんでくれ」
「そうか。じゃあ、俺も本気を出すわ」
「面白い。かかって来なよ」
朔也は、ダメージが効いているのかスピードが落ちている。
そのため、赤崎の攻撃を避けきれず、左腕で防御する。
「ミシッ」と防御した腕が鳴る。
しかし、それにひるまず朔也の渾身のハイキックで赤崎の顔面を捕らえた。
赤崎は倒れ、起き上がれない。
「勝負あったな。昔からの癖で俺は常に安全靴を履いている。さっきの蹴りは、並みのダメージじゃ済まない」
「ああ、勝ちはお前に譲ってやるよ」
外野の集団から、ゲームセンターで会った金髪男が朔也に話しかけてきた。
「どーも。つか、俺は本来そんなことをしに来たんじゃないんだがな」
「それは、悪いことをしたな。ゲームに巻き込んでしまって」
「本当にな。慰謝料が欲しいぐらいだ。あ、あと医者料も」
「まあそう言うなよ。ヘッドの流儀に則ったゲームはお前の勝ちで終わった。ここからは俺の流儀でやる」
外野も金髪男の意図を読み取ったのか、準備を始める。
「ここからは、戦争だ。俺たちに敗北はねぇんだよ!」
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○用語解説
真千組:数年前に活動していたチーム。その強さは、一部では伝説になっている。
血の一撃:赤崎の必殺技。指にシルバーリングを巻き、攻撃力がアップしただけの攻撃。
安全靴:足先に鉄板が入っているシューズ。