あなたに魔法をかけましょう
○登場人物
天野 朔也:主人公、高2
宇佐美 雫:高1
シンゴ:ガタイの良いオネエ系、朔也とはちょっとした知り合いらしい、年齢不詳
一円高校校門前。
朔也と宇佐美が現れる。
「ここで、少し待ってて」
「それは良いんですけど……どこに行くんですか?」
「それは行ってからのお楽しみということで」
「それと……あの……教室はあのままで良かったのでしょうか?」
「ああ……そういや掃除しないままに出たもんな。明日の朝にちょっとした事件になるかもな」
「ですよね……」
「それは、宇佐美さん的にも困るよね。そうだな……」
朔也は腕を組み思案する。
そして、ポケットから携帯電話を取り出す。
おもむろにどこかに電話をかける。
「あ、ザキ?俺だけど。ちょっと1年教室の掃除頼むわ。……そうそう。まぁ行けば、わかるから。え~そんなこと言うなよ。……おーけーそれで手を打とう。んじゃ頼んだ」
朔也は宇佐美に顔を向ける。
「教室の方は、なんとかなりそうだから。あんまり気にしなくていいよ」
「すいません」
「まぁ、気にすんな」
「それにしても、どうして私を助けてくれるんですか?」
「それは……」
二人の前に車が急に止まる。
車の中から、シンゴが出てくる。
「サクちゃ~ん。待った?」
「いや、ちょうど良いタイミングだったよ。それで、頼みたいことなんだけど…」
「ああ、いいわ。見ればわかるもの。この子ね。私好みにして良いんでしょ?」
「ええ、おまかせします」
「え?え?ちょっと……」
「大丈夫大丈夫、見た目はこんなんだけど、悪い人じゃないから」
「あら、ずいぶんな言い方ね」
「いや、事実でしょう」
「もう失礼しちゃうわね。でも、お嬢ちゃん安心して。私、女には興味ないから。男ならストライクゾーン広いけどね」
「シンゴちゃん、くだらないこと言ってないで早く行ってくれ」
「もう、冷たいのね」
宇佐美は、2人の会話をぽかんと聞いていた。
朔也は宇佐美の頭をポンポンと叩くと、車の後部座席のドアを開いた。
「では、プリンセス。かぼちゃの馬車にお乗りください。あなたに魔法をかけましょう」
「……わ、私がプリンセスですか」
「あら、良いわねサクちゃん。さしずめ、あなたが王子様で私が魔女ってところかしら。わかったわ、その役目謹んで受けましょう。さあ私の馬車に乗って、お姫様」
「は、はい」
宇佐美とシンゴが自動車に乗りこむ。
車内にて。
「さあ、準備は良い?」
「あ、あの…まだ先輩がまだ乗っていません」
「あ~サクちゃんは良いのよ。まだやることがあるからね」
「やること……ですか?」
「ん~例えば、可愛い女の子の髪を切った奴に復讐とか」
「え?」
「例えば、いじめっ子をこらしめて、いじめを無くすとか」
「な、なんでそのことを?」
「まぁ、オネエなんてやってると、空気を読むのが得意になるからね。だいたいの事情は、あんた達を見ればわかるわよ」
「……すごい」
「あら、ありがとう。それはともかく、とりあえずあんたのその不揃いの髪型をなんとかしなきゃね。じゃあ、行くわよ」
「は、はい」
2人を乗せた車は走り出す。
その車を見送る朔也。
「よし、行ったな。……さすがにもうやせ我慢も限界だ」
朔也は、制服のボタンをはずす。
すると、下に来ていたワイシャツが赤く染まっていた。
多々良にハサミで刺された腹部から血が流れていたのだ。
「うげ、思ったより悪いかもな。あ~油断した」
朔也は、大きく息を吐いた。
そして、腕を組みこれからのことについて思案し始めた。
「うし、まずは止血かな」