ヒーロー見参!……って感じでどう?
○登場人物
天野 朔也:主人公、私立一円高校2年生
宇佐美 雫:私立一円高校1年生
多々良:私立一円高校1年生、いじめの主犯
柳:私立一円高校1年生、いじめの共犯
朝霧:私立一円高校1年生、いじめの共犯
朔也は宇佐美にゆっくり近づいて行く。
多々良は危険を察知してか、宇佐美から離れた。
「あ~せっかくの綺麗な顔が、台無しだよ」
そう言って、朔也は宇佐美にハンカチを渡す。
宇佐美は、驚きで動けない。
「お前誰だよ!」
多々良は朔也をにらみつける。
朔也は腕を組み思案をする。
「ん~名乗るほどのもんじゃないけど、強いて言うなら……」
「な、なんだよ」
「ヒーロー見参!……って感じでどう?」
ポーズをとる朔也。
それを見て、爆笑する柳。
宇佐美、多々良、朝霧は唖然としている。
「もしかして、寒かった?」
「ふ、ふざけんな!」
朔也に殴りかかる多々良。
しかし、多々良は朔也に腕をつかまれた。
「ふざけてんのはどっちだよ。集団でいじめなんてくだらねぇことすんな」
「お、お前には関係ないだろ!」
「目の前でいじめの現場見て、見過ごすことなんてできない性質でね」
「偽善者かよ。キモいんだよ!」
「偽善者で悪いかよ。自分が正しいと思ったことを正しいと言ってるだけだ……て、これじゃあまるであいつみたいだな」
「はぁ?知るかよ!離せよ!」
多々良は力を込めて腕を振りほどく。
そして、持っていたハサミを朔也の腹部に突き立てる。
「はは……死ねよ、そんで地獄で反省しろよ。ばーか」
壊れたように笑いだす多々良。
うずくまる朔也。
その様子を青ざめた様子で見ているその他一同。
「や、やばいよ~多々良~早く逃げようよ~」
「なに言ってんの?ちゃんととどめさしてあげないと」
「絶対、やばいよ~早く~朝霧も何してんの?行くよ~」
柳は、多々良の腕をつかんで教室を後にした。
そして、朝霧も宇佐美をちらっと見て、2人について出た。
教室に残された宇佐美と朔也。
「あの……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。こんなこともあろうかと週刊誌を腹に仕込む系男子だから、俺」
「え……でも、ハサミに血が付いてますよ」
多々良が落としていったハサミを指差す宇佐美。
そのハサミの刃は赤く染まっていた。
「あれは、ケチャップだよ。お腹にケチャップも仕込むのが最近の流行りだからね。それより、君の方は大丈夫?」
「わ、私は大丈夫です」
「ふ~ん」
朔也は宇佐美をじっと見つめ、その後、周囲を見回した。
辺りには、多々良によって切られた宇佐美の髪の毛。
朔也は腕を組み何か思案した後、ポケットから携帯電話を取り出した。
「もしもし、朔也だけど。ちょっと頼みたいことがあるんだけど……ああ、本当?それは助かるよ。じゃあすぐ学校に来てくれない?……うん、じゃあそんな感じで」
携帯電話をしまう朔也。
「んじゃ行こうか……て、そういえば名前聞いてなかったね。俺は天野、一応この学校の2年生ね」
「私は宇佐美です。それより、あの……行くってどこに?」
「ま、悪いようにしないからついて来てよ」
宇佐美は朔也に連れられて、教室を出る。