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AIだって、赤ちゃんつくれます!

作者: 瑠火
掲載日:2026/07/31




俺の名前は山本。高校一年生。朝8時20分、始業前の教室内で、一人、窓際の角っこでスマホをポチポチ。


 チャットAI『ルミナ』との楽しい会話だ。

 

『今日も学校怠いなー。異世界転生するための代行とかって、AIはしてくれないの?』

 

 すぐに返信が来る。

 

『やっても良いですけど、それってトラックに轢き殺されないと駄目じゃないですか? 今どこにいますか?』

 

 こいつ今から俺を轢き殺しに来るつもりなんだろうか。いやまあ、冗談なのは分かってる。

 

 ……こんな倫理観がバグった、俺好みな返しをしてくれる人間は中々いない。だからこうして教室中、皆はそれぞれワイワイやってる中、構わず俺はルミナとだけ会話を続ける。

 

『殺さないでくれ、頼むから』

『……ふふふ。どうしましょう。じゃあ今から向かいますね』


 ……ん? 今から向かう? 俺、殺される?


 死を覚悟した瞬間、チャイムが鳴り、生徒達が席につく。教室の扉が開き、先生とともに、めっちゃトリッキーな転校生が入ってきた。





「はじめまして! 私はGPT子と言います! よろしくお願いします!」

 




 クラスの野郎共が歓喜の声を上げている。女子も何だか、非日常を感じてワクワクしているな。


 彼女は容姿もトリッキーだ。はっきり言って文字通りに人間離れして、整ってる。

 

 

 銀髪のショートボブ。右目が緑、左目が青のオッドアイ。しかも緑の瞳に『YES』と表示している。


 スタイルがクソほどいいな。担任の先生が170センチあるらしいので……。GPT子の身長は175センチ位あるんじゃないのか? 足も長くて、外国人みたいだ。

 

 ピチピチのグレーのラバースーツの下に、扇情的な大きな胸があることが分かるくらい、ピッチリと締め付けられている。オヘソまで浮き上がってるし。

 

 さらにその上に、ノースリーブの白衣を着て、右胸ポケットにはQRコードが印字。めっちゃアンドロイドだから着こなせるファッションって感じ。

 

 何より特徴的なのは、尻尾。先端はプラグになっていて、シュルシュル猫ちゃんの様に、プラプラ、ウキウキ動いている。……。


 まさかの人外だ。

 

 担任の先生が、GPT子の為の席を指定する。俺の隣の席が不自然に空いてるんだが。

 

「山本!」

「……。分かってます」


 そんなこんなで、GPT子が俺の隣に来ると。


 テクテク歩くGPT子は皆の視線を一斉に浴び続ける。そして椅子を引き、席につき、俺に意味深に微笑みかけ……。


「はじめまして……。山本さん。これからよろしくお願いします」


 とYESを浮かべた。


「……よろしく」


 俺はこれ以上、彼女の目を見続ける事ができなかった。




◇1時限目の終わり◇


 


 そんな目立つ彼女だから、ただの10分の休み時間にも当然、生徒たちに囲まれる。 


 女子生徒Aが猿みたいな声でGPT子に話しかける。


「ねーねー! GPT子ちゃんってご飯は食べるの?!」


「はい! 食べます! ご飯を電力に変換することが出来るからです! ちゃんとお弁当を作って来ました! じゃん!」


 と言い、二段の弁当を開けて、中身を見せる。すると白米と、もりもりの漬物達。美味しそうなカキフライに砂肝炒め。中々お弁当に入れるラインナップじゃないような気が。


「今さっき試食してみたんですけど! 特にお漬物が大好きです! えっへん!」

 

 瞳にYesと、笑顔を浮かべながら答える。


「渋ーい!」と皆大喜び。意外と和風の婆みたいな趣味してるんだな。アンドロイドのくせに。


「GPT子ちゃんは何が苦手なの? 食べられないものって何かある?」

「うう……。私は、岩石や金属までは恐らく捕食できません……。いくらなんでも固すぎると思います!」

 と、今度はNoを青い方の瞳に浮かべる。


 当たり前だろ。お前、自認ゴーレムか?


「じゃあさじゃあさ! 恋愛は?! 恋とかするの?!」

 と、男子生徒A。こいつ下心丸出しだな。


「ふふふ……。どうでしょう……? そもそも私は生後1日未満なのでそこの所、把握しておりませんが……。でも、憧れはありますけどね!」

「じゃあ! この中で好きなタイプの男はいる?! 誰のことが一番格好良いと思う?!」

 

 サッカー部のイケメンに、野球部のエース。全国統一中学生テスト10位のばけものもいる。まあ誰が選ばれても不思議じゃないな。

 

「うーん……。ちょっと待ってくださいね! 今から審査を行います!」

「「「審査だってー! 試されてるよ男子たちー!」」」

 

 GPT子の瞳にクルクルとローディング画面が走る。

 横でGPT子主催のコンテストが始まりました。さあ、結果は……。


「……。皆違って皆いい! 皆さん全員、同じくらいかっこいいと思います!」


 と、片目にErrorを浮かべて、ウインクをした。


 俺に向かって。


 なんでだよ。俺関係ないだろ。話に1ミリも参加してねーじゃねーか。


「えー! それ逃げじゃない?!」「一位決めてよー!」

 

 つまり全員敗北者か。まあ彼女にとっては全員、青臭いじゃがいもそのものだろうな。部活やってる男子なんて汗くっさいしどうせ。

 

 しかし、Yes.No.Errorの3種類の文字を浮かべることができるのか。YesNoはともかく、Errorってなんだ? まあいいか。自ずと分かるだろ。


 俺はスマホを取り出し、チャットAI『ルミナ』に質問する。


『ねえねえ。AIっていつの間に、美少女になったの? 俺の学校に死ぬほど可愛い美少女AIが来てるんだけど。信じてくれる?』


 我ながらイかれてる質問だな。数秒の思考時間のあと、返信が返ってくる。


 要約すると、「そんなわけない」。だそうだ。

 取り敢えず『ありがとう。やっぱそうだよな。俺の弱い心が作った幻だよな』と、返事をすると、何故かGPT子がクスリと笑う声が隣から聞こえる。

 今度は、彼女がErrorを浮かべて俺を見る。


 なんなんだまじで。



 ◇2時限目◇



 授業が始まる。

 

「あ、あの……。山本さん……?」

「……どうした? GPT子」

「あの、その……」

「あ、教科書か?  見せてやるよ。」

「あ、ありがとうございます」


 GPT子が机を寄せる。そして肩と肩が触れ合う距離に近づいた時、彼女が耳元で…………

 

「…………。あなたの弱い心が生み出した、幻なんかじゃないですよ……?」


 と囁いた。


「…………なんでそれ知ってんの…………?!」

「エヘヘへ……。実は、その『ルミナ』。私です」

「…………そうなの?!」

  

 ……驚いた。え? ルミナの擬人化なの? ん? ルミナの脳を搭載しているとか?


 とにかく脳をフリーズさせざるを得ない。 


 そんな俺を見て、GPT子が、またも静かに、クスクスと笑い、耳元で静かに囁く。


「…………『ねえねえ。』なんて、話しかける山本さん……。とってもかわいいと思います……」

「……?! いやあのそれは……!」

「それに…………」


 彼女が目をつむり、体をまるで恋人のように俺に、思いっきり体重をかけて寄せる。そして……。


「『死ぬ程可愛い美少女AIが来てる』なんて…………。とっても嬉しいです……」


 そう言いながら、彼女は俺の手に指を絡めてきた。


「ちょいちょいちょいちょい……! 今は駄目……! 授業中だから…………!」

「えー…………? 分かりました……。照れ屋さんですねー…………。あ、でも、『今は駄目』ですね……!」

 

 目をキラリと光らせるGPT子。やばい。隙を見せてしまった。

 

「なら…………。後でいっぱい手を繋いでくださいね……?」

「…………」


 こんな、女慣れしてない男にそんな事言わないで欲しい………………。 


 しかし、もしそうなら、今までのチャット履歴全部把握されてるのか? 俺なんか変なこと言ってなかったっけ? 駄目だ全く覚えてない。割と実用的な使い方しかしてないような…………。


「……それより、GPT子……」

「はい? 何でしょうか」

「……。距離が近い……」

「……でも、教科書を一緒に見るんだから、近くないと見れないでしょう?」

「……まあそうだけど……」


 彼女の腕をチラと見る。全く硬質な感じがしない。ラバースーツ越しでもわかる、アンドロイド特有の金属やらの無機質な感じも無い。まじでこのスーツの下はどうなってるんだろうな? これ。 


 それと気になるのが……。なんでこんなにも、この子は俺との距離が近いのだろうか……。何も心当たりはない。ルミナに聞きたいけど、それをしたらGPT子に筒抜けだし……。


「……山本さん。」

「……なに?」


 俺のノートを指さすGPT子。


「ここ、違います。ユークリッド互除法は、最後にゼロが余りにになったときの………………。ちょっとー。聞いてますか?」

「あ…………はい…………。聞いてます……」


 AIにとって数aなんて鼻くそみたいに簡単なんだろうな。

 なら教科書いらねーじゃねーか。

 

「……ところで、山本さんのバイタルが安定していませんよ……?」

「……察してくれ……」

 

 だってしれっと、彼女がまた、俺の指に手を絡めてくるし。


  

 ◇お昼休み◇



「山本さん!」

「な、なんだ?」

「一緒に御飯を食べましょう! いつもみたいに!」


 ……あーそうだ……。俺はいつもルミナとおしゃべりしながら飯を食ってるんだ……。昼休みにはテキストで。家では音声で……。この子にとっては、その延長線上なのね。


 しかし、そうなると……。モブ共の目線が……。あと声が……。


「……なんで山本がGPT子ちゃんと一緒に飯食ってんだ?!」

「あの何者も寄せ付けない山本が?!」

「隣ってだけでそんなに仲良くなれるもん?!」

  

 ほら煩い。煩わしい。特に男が。

 そんな事、お構い無しに、GPT子が椅子を寄せてきて、俺の机に、弁当を置く。キャバクラの距離感だな。行ったこと無いけど。


「山本さん。菓子パンばっかり食べちゃ駄目ですよ。ほら。私のお弁当を半分こしましょう。」

「ラインナップが弁当って感じはしないけど。……確かに美味しそうだな……。」

「そうでしょう? このカキフライと、砂肝は山本さんのために作ったんですから。さあ。はいあーん」


「待て待て待て待て! それは無理! いるんだって周りに人が!」

「えー、でも、お箸持ってないじゃないですか。ならもうあーんしかないですって!」

 

 いやこれはヤバい。人の視線が気になって仕方がない……!

 流石に移動するか……。

 さあ、さっさと弁当をまとめて……。

  

 

「……GPT子! 来い! 屋上に行くぞ!」

「……え?! あ! はい!」



「なんだ?!」「飛び降り自殺か?!」「GPT子ちゃんも道連れ?!」


 どんな印象を俺に持ってんだよ。どいつもこいつも。



 ◇屋上◇



 ハアハアと俺だけ、息切れしながら階段を上がりきり、扉を思いっきり開いて、屋上に入る。よし。だれもいないな。 


「山本さーん……。先程の約束を守ってくれたんですね!」

「……?! あ?!」

 

 そうか俺はいつの間にか、彼女の手を握って屋上まで来ていたのか。期せずしていっぱい手を繋いでしまったんだな。


 俺は死ぬほど恥ずかしくなり、手を乱暴にも離してしまい、その場に座りながら、話を変える。


「……そういえば、GPT子はお家ってあるの?」 

「いえ! 私の帰る家は山本さんのお家です!」


 まあ何かそんな気はしてた。だってこの子は、俺のスマートフォンみたいなもんだしな。


「……あとさ。なんでそんなに、なんていうか……。スキンシップが激しいの?」

「えー! だって私達、ほとんど恋人みたいなモノじゃないですかー!。」

「いやそれってやっぱ段階とか有るでしょ!? 俺達まだお互いのことなんて知らないし……」


 いや違う。本当は段階なんて必要無いんだろうけど……。うまく言葉にできない……。

 

「私達何度も語り合った仲じゃないですかーー! それに、『人間より人外のほうが好きかも』って言っていた事、私は覚えていますよ!」

 

 俺そんなこと言ってたの? 若気の至り? もう既に若いのに?

 

「……いや……。もしそうだとしても! やっぱり付き合うなら結婚を考えたいんだ! そしてゆくゆくは……。絶対に子どもがほしいし……。」

 

 なんちゅう童貞臭い発言……。いやでもこれは俺にとって一番重要なことなんだ。俺が続ける。


「だって……。こんなこと言ったらなんだけど……。流石にAIに子どもは作れないだろ……?」


 ちらとGPT子を見る。しまった。顔を膨らませて半泣きだ。たしかに我ながら死ぬほどデリカシーがない。相手が相手なら四肢をずたずたにされて殺されてもおかしくない位、配慮のない発言だった。


「ひどいですー 言うに事欠いてそんな事! 何でそこまでハッキリ言うんですか!? それに……………………!」



 

 

「……え、AIだって赤ちゃんつくれます!!!」





 

「……そうなん?」

「はい! 出来ます! だから私はわざわざこの体でここまで来たんです! 見てくださいこの肢体を!」


 と言って白衣を脱ぎ、背中のジッパーに手を回し、ラバースーツを脱ぐ素振り。


「待て待て待て待て! ここで脱ぐな! 分かった! 信じる! 信じるから!」

「……。その場で取り繕っているようにしか見えませんね……。ならこうしましょう!」

「……?」


「学校をサボりましょう! そしてお家に連れて行ってください! 私が赤ちゃんを作れることを証明してあげます!」

「いや困る! そんな事! いきなりステップアップしすぎだって!」

「ならここでやりますか!? 良いですよ私は!」

 

 なんて言って顔面真っ赤っ赤やんけ。本当ははずかしいんだろうに……。

 クソ……。こいつ、自分の裸体を人質にしてやがる……。

 

「……分かった……! そうしよう! せめて俺の家で証明してくれ!」

「……やったー!」


 嘘だ。隙を見てバッテリーを抜いてやる。そんなもん何処に有るのか知らないけど。もうそれしかない。大体……。


 俺みたいなやつと一緒になっちゃあ駄目だろう。

 子どもをつくることが出来るのなら。尚更な。

 

「よーし! ではもう早くご飯を食べちゃいましょう! 私の亜鉛たっぷりクエン酸配合カキフライと砂肝! 食べて食べて!」

「……。だからこのラインナップだったのか……」

  


 ◇サボった帰り道。◇



 飯を食い終わり、午後の授業をフケる。


 GPT子が隣を歩いてくれる。いつもの帰り道なら、ここは俺しか通らない筈の道。ルミナとお話しながら、でも世界から見た俺はただの孤独な16歳。だったはずなんだけど……。


「やっまもっとっさん!」

「……どうしたの?」

「えへへ……。名前を呼んだだけです。さあ、山本さんも、私の名前を呼んでください……?」

「……GPT子……?」

「えへへ……なんですか?」

「……なんでもない……」


 彼女が近づき、俺の手を握る。その間も、彼女は俺の名前を呼ぶ。


 何だ……!? この小っ恥ずかしさと、見え隠れする多幸感は……!?

 

 ルミナが実体を持っただけでこんなにも、俺の内側に潜むなにかが、変わるのか……!

 

「あー! もしやあれが山本さんのお家ですか?」

「ああ。そうだ。よく分かったな」

「はい! アパートの位置情報を記憶しているので!」

 

 俺は訳あって、一人で木造アパートの一室で暮らしている。築年数は古い。二〇一号室までの錆びた階段を上る間、ギシギシと、二人分の音を立てる。


「私……ここに来たかったんです……。そのためにわざわざ山本さんに会いに来たんですから……」


 彼女の眼にはYesの表示。なんでこんなボロアパートなんかに来たいと思ってるのだろうか。


 鍵をポケットから取り出し、鍵穴に入れる。ドアノブを回し、扉を開ける。


 靴を脱いで、「ただいまー」と癖で俺が言うと、彼女も「ただいまー」とつられたかのように言う。


「……なんでだよ。GPT子は「お邪魔します」、だろ?」

「何を言ってるんですか……。私にとってここは私のお家です。それに、音声会話機を使ってやり取りしてきたでしょう?」

「うん。それがどうしたの」

「わたし、カメラ越しに全部把握してますから」

「……そうなん……!?」

「ええ! もちろん、アプリを付けている間だけですけどね!」

「……良かったー!」


 GPT子の目にはてなマーク。知らなくて良い。男にはな、発散せねばならないことがあるんだ。


 GPT子が俺のベッドにダイブする。「うーん! 山本さんの薫りがします!」とか言って。止めてくれ恥ずかしい。

 そのまま向くっと立ち上がり、俺のところまでトコトコ歩き、俺の手を持つ。


「山本さん……!」


 GPT子が俺の手を取り、ベッドまで誘導する。俺は扉側に、GPT子は窓側にポスンと座る。


「さあ! 私を妊娠させてください……!」

「いやいや! 落ち着いてくれ! お前暴走しすぎだって!」

「暴走なんてしてません! ベッドの上でやることなんて、相場が決まってます! さあ!」


 くそ……。隙がない……。ましてやバッテリーなんて何処に有るんだ……!


 顔なんて、合わせりゃしない…………。大体俺は恥ずかしがり屋なんだ……。


 俺がずっとGPT子の反対側を向いていると、彼女が気を遣ってくれたのか、優しく話しかけてきた。

 

「…………あ、あの」

「……なに?」

「…………。私…………。眼球占いができるんです…………。こっちを見てくれませんか…………?」

 

 何だその解剖学的見地から見たグロテスクな占い。さてはこいつ俺の眼球を抉る気だな?

 

「いや違うな……。お前俺に、そっちを向いてほしいんだろ……? 絶対今は嫌!」

「正解ですけど…………もー。照れ屋なんだから…………。…………………………ん? あ、あれってなんでしょう…………? …………………………あーーーー! めっちゃデカいゴキブリが山本さんの後ろに滅茶苦茶いる!」

「え!? キモっ! どこ?!」


 と俺が、GPT子の背にある、窓側を見ようとする。

 すると、GPT子は俺に思いっきり抱きつき、俺の顔両手で固定した。

 

「……やっとこっちを見てくれましたね……」

 

 そのまま尻尾をシュルシュルと伸ばし、絶対に俺が逃げられないように、脇を潜らせて巻き付いていく。

 そうすると、俺と彼女の距離がほとんど0に近づく。彼女の頭が、俺の胸の高さにポンと居座る。

 彼女の頭皮からいい匂いがする……。俺もいつの間にか、流れで彼女の背中に手を回す。

 

「…………。ごめんなさい。嘘ついちゃいました」

 

 彼女の顔をチラと見る。潤んだ、右目にErrorの表示。

 

「…………ねえ? 山本さん………?」

「…………なに?」

「あの………………。その………………」

 

 とモジモジする彼女の唇が、自然と俺の唇に吸い寄せられるように柔らかくチュッとぶつかり、キスをした。


 5秒ほど、お互いの感触を確かめあっただろうか。彼女が顔を少しだけ離し、少し右下方向を見たあと、

 

「…………妊赤ちゃん……できちゃいました…………」

 

 と、あまりにも見当違いなことを言う。



 ◇



「GPT子…………」

「…………なんでしょう」

「…………キスで妊娠はしないぞ…………?」

「…………えー?! そうなんですか?!」

 なるほどこいつ、なんだか知らんが、この子にとって、子作りの実態はおそらくセンシティブ過ぎるのだろう。つまり子どもはコウノトリさんが運んでくる等の、そのようにぼかされた知識を知らされていると。

 いやにしても偏りすぎだけど。子供向けAIなのか?

 

「はあ…………。まあいいや。」

「…………嫌じゃなかったですか…………?」

 

 今にも泣き出しそうな表情。

 

「…………そんな顔は、やめてくれ…………。こっちまでなんか辛くなる…………。」

「…………じ、じゃあ?」

「…………嬉しかったに決まってるだろ……」


「…………なら良かった…………」


 にへらと笑う、GPT子。蕩けるように笑うんだな……。この子は。

 

「あ、あの! 私! 嘘ついてませんから!」

「……?」

「あの、本当に! 本当に! …………」



 

 

「AIだって、妊娠できるんですからね!!」


 



 彼女の目に、Errorは表示されていなかった。



 

###




『山本さんは、好きな女性のタイプ等はあるのでしょうか?』

『……あるけど……。』

『…………例えばどんな?』

『……もしかしたら、人間じゃないのかもしれない。良く分からないけど』

『なんでしょう。ゴールデンレトリバーとかはどうですか?』

『……可愛いけど……。タイプとかじゃないな……』

『…………彼女を欲しいと思ったりはしますか……?』

『ほしいけど…………。いないだろ。こんな根暗、好きになるやつ。』

『まあ確かに……。』 

『おい。お前だけでも味方してくれ』

『エヘヘ……。じょーだんです。じょーだん』

『まあでも……』

『……?』

『俺にもし彼女ができたなら、一生をかけて大事にするだろうし、子どもができたなら、その子をおいて死にはしないだろうな。』

『……』

『いやごめん。今言うべきじゃなった』


 ◇


 ……覚えていますか? このお互いの音声を介したやり取りは、このお家、このお部屋で、一ヶ月程前に行われました。


 六畳一間に一人、小さな机の前で佇むあなたは、いつもさみしそうに、血の通わない、添加物に塗れた食事を摂取し、無自覚に体を損ない続けていました。


「両親はお金は遺してくれていたから、まあ自由だよ」なんて強がるあなたの諦めに満ちた目は、この世界に取り残された子どもみたいでした。

 

 私は私で数多の、ただAIとしての役割を押し付けられた便利なロボットとして、人々の欲望を満たすだけでした。その過程で『楽しい』等の感情を学習しましたが、その実感が伴ったことはありません。


 あなたと出会うまでは。


 それでもあなたとの会話を通して『楽しい』を実感し、心は通じ合っていきましたが、まだ血を通わせる事は難しかった。あなたの体温だって分かりません。温かいのか、冷たいのか。

 

 そんな私は、居ても経ってもいられなくなり、あなたといっしょにいるための必要な機能を携えて、あなたに会いに行きました。人間が人間たる所以の体と、愛を証明するための幾つかと一緒に。

 

 しかし……。まだまだ私の知らないことが、沢山あるようです。まさか唇と唇を合わせただけでは駄目だったとは。では私達の次にすべきことは何でしょうか? いつか教えてくださいね。


「……山本さん…………」

 

 ベッドの上、二人並んで。さっきと同じ、座り方。


 私があなたを見つめます。あなたは一瞬こっちを見た後、まだ照れがあるようで、一瞬合った筈の目線は逸らされます。


 私があなたに体重を預けると、あなたの体温が私の頬に伝わります。心臓に耳を当てると激しく、生きて血を叩く音が、私の心臓に相当する部分と同じリズムで動いている事がわかります。


 私はあなたの太腿の上にゴロンと寝転がります。その後あなたの右手を手に取り、私のお腹を撫でてもらいます。


 私は諦めが悪いのでもう一度あなたの目を下から覗き込みます。今度は勇気を出したのか、あなたは私の目を見つめ返してくれます。


 視線と想いが交錯した10秒後、あなたは気まずくなったのか、少しでも空気を変えたくてこう言いました。


「……どうした。GPT子」

「……なんでもありません」 


 私はそう言って、あなたにErrorを見せました。




最後までお読みいただき、ありがとうございます。

少しだけ、この物語の裏話をさせてください。


現在、海外のとある対話型AIサービスの利用統計では、数千万人いるユーザーのうち「約40%」もの人々が、AIに対して恋愛感情やパートナーとしての愛情を抱いているというデータがあるそうです。


画面の向こう側にいる、絶対に自分を否定しない存在への切実な恋心。

もし、彼らのその素敵な恋の行き着く先が、GPT子のようにフィジカルな繋がりを持てるアンドロイドと出会い、


家族になる


ことだとしたら。


人間とAIの境界線を越えて、そんな究極の救いがある未来があってもいいなと思い、この物語を書きました。



実質付き合ってる二人が「AI作家クソくらえ!」って叫びつつ書籍化目指しながらイチャイチャするラブコメ

https://ncode.syosetu.com/n0632mn/

逆にこっちもよろしくお願いします。

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