表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

~事件ファイルNo.6「詐欺事件」~

 休日明け、というのは中々に憂鬱なものだ。


 しかもそこで大掛かりな仕事が待っていると分かっていたならば、なおのこと。


 大量に積まれた小箱に、レオンはハッキリと嫌そうな顔をした。それから確認する。


「……全部偽物か?」


 そうであってくれと願うような彼の声に、アレクは容赦なく「分かりません」と答えた。中に本物が混じっているかもしれない。

 つまり、全部検品しないといけない。


「他の班は?」

「他の班と分けてこれです」

「……そうか」


 レオンは、諦めた。諦めて、頷いた。


 古代装置詐欺の一団。その一斉検挙となれば当然ながら押収される量も桁違いである。1小隊5班だけでなく、倍の人数で行われた今回の作戦。

 レオンですらあまり経験のないほどの大規模な作戦だったが、軽い怪我人だけで無事に終わった。終わったのは、良いのだが……いつだって後始末の方が大変だ。


「で、シルたちは?」

「他の班の結界、および倉庫の結界強化してます」

 レオンは目をずらす。ここには彼とアレクともう一人の計三人しかいない。

 三人の目が合う。

 五人でやっても今日中には終わらないだろう数を、自分たちは三人でしないといけない。だが、シルヴァーノともう一人の若手が貴重な結界を張れる人員であり、借り出されるのはいつものことだった。

 結論。


「……やるか」

「はい」


 文句を言う前に手を動かす。それだけ。

 そう。文句を言うなら、手を動かしながらだ。


「なぁ、やっぱりこれは古代人ってやつを責めるべきだと思うか?」

「……でも、古代人だってこんなことになると思ってないでしょうよ。自分たちのを詐欺に使われるなんて」

「あー、まぁ。そうっすよね。俺等が普段使ってるものが、何千年も後に見つかって利用されてるようなもんすもんね」

「お前等、古代人の回し者かよ」


 レオンのジト目に、アレクは肩を竦める。


「恨むなら、妙なことを考える犯罪者にしましょうって話ですよ」

「……そりゃそうか」

「それに、今回の一斉検挙で少しは大人しくなるんじゃないっすか?」


 一番若い班員の言葉には一理ある。しかし、レオンは一つの小箱(ただの木製)をぽいっとカゴに放り投げながら、淡々と言った。


「そうだといいがな」


 結局。

 検品作業は二日がかりで行われ、結界術であちこち借り出されまくったシルヴァーノたちは完全にダウンしていたので、レオンは二人に休暇を言い渡し、二人分の仕事も更に追加となった。


「あー……古代装置なんてくそくらえだ」

 理屈なんて関係ない言葉が漏れた。




***




 朝の心地よいはずの日差しが、まるで自身を殺しにかかっているように感じた。


「あー……頭いてぇ」


 レオンはゆっくりとベッドから体を起こし、額を押さえる。原因は分かっていた。


「くそっ、やっぱり最後のワインは断っておくべきだった」


 飲み過ぎ。俗に言う二日酔いだ。

 昨日、ようやく諸々落ち着いたところで、レオンは上司の小隊長と二人、久しぶりに飲みに行った。

 互いに騒ぐタイプではなく、慣れたように互いに静かに飲んでいたのだが、


『お前には……昔から本当に世話かけるな』

 などと、珍しくも小隊長がしみじみと口にして、普段は頼みもしない良い酒を注文してくれたのだ。

 いつもエールばかり飲むとはいえ、レオンだって良い酒を飲めば美味しいと思う感性はある。何よりも彼がわざわざ頼んでくれた酒を断れるわけもない。


 そして飲んだ酒は、レオンが思っていたよりも美味しく……小隊長と二人、酒が進んでしまった。


 幸いレオンは今日は休み。

 小隊長は出勤のはずだが、彼は昔からどれだけ酔っても二日酔いしない体質。問題なくケロッと出勤していることだろう。


「あの人、ほんとそういうところズルいんだよな」


 はぁ、とレオンは息を吐き出すが、そんな仕草一つでも頭に響く。しかしなんとか起き上がり、水と薬を出して飲み、一息つく。

 なにか少しでも軽く食べるかと小さな食料庫のドアを開けるが、中には見事に水と調味料しかなかった。


「そういや、前に買い物行ったのいつだったか」

 覚えてない。

 水だけは配達で頼んでいるが、不規則な生活なので食料配達は頼んでいない。

 窓の外を見る。

 太陽の日差しが眩しく、二日酔いの頭に響く。


「この機会に頼むか? いやでもまた腐らせるだけか。料理もめんどくせーし」

 文句を呟き、食料庫を睨んだところで水が食料に変わることはない。

 結局レオンは洗面台に向かい、身支度を整えることにした。――独り言増えたな、なんて思いながら。


 犬の散歩をしている老夫婦。走り抜けていく子どもと、注意の声をかける親。客を呼び込もうと叫ぶ露店主。


 朝のゼペーの街は、朝なりの騒がしさでレオンを出迎えた。


「あ゛ー」

 レオンは、そんな爽やかさとは程遠い声を上げながら、街を歩いていた。

 途中で『安い! 麺パン95リル!』と書かれた看板が見え、いろんな意味でレオンは顔をしかめた。休日にまで思い出したくないうるさい顔が浮かんでしまう。


 しかし、あまり出歩きたくもない。


 レオンは少しだけ悩んだ後、仕方なさそうにその店に寄って麺パンを買った。ソースの匂いが香る。ひとくち食べてみた。


「……まぁ、腹は膨れそうだな」


 歩きながら食べている彼の横を、母親と手を繋いだ子供が通り過ぎていく。


「僕ね。将来――になりたいんだ」


 レオンは足を止めず、パンを一口二口と食べる。ただ、思った。


(あの年くらいだったか)


『あはは、坊主。お前、またここにいるのか』

 街を巡回している鎧を着た大人の姿が、格好いいと思ったのは。


 パンを食べ終え、レオンは無言で頭をガシガシと掻きむしり、一気にパンを口に放り込んだ。




 翌日。

「おう、おはよう、レオン。はは、さすがに今日はスッキリした顔してるか」


 出勤したレオンは、健やかに笑う上司を微妙そうな顔で見た。


「ん? どうした?」

 不思議そうにする上司。

 年を経てもなお、どこか幼く見える上司の瞳の輝きだけは、ずっと変わらない。


「……もうワインは飲みません」

「なっ? お前、あれだけ美味そうに私より飲んでおったじゃないか!」

「そんなに飲んでませんよ」

「いいや、飲んだ! 最後の一杯を楽しみにしてたのに、私が少し目を外した隙に飲みきったではないか。あの時のお前の満足げな顔は忘れんぞ!」


 レオンは呆れて肩を竦める。


「……シルのヤツが誰に似たか、分かった気がします」

「失礼な! 私はあいつほど子供じゃないぞ」

「多少は子供な自覚はあるんですね」


 腕を組んで怒る上司に、レオンは天井を見上げて小さく呟く。


「一種の詐欺だよなぁ、これ」


 そうして今日もまた、レオンは淡々と仕事をこなしていく。――テンロフ小隊第一班班長として。




――帝国辺境警備隊の事件ファイルNo.6「詐欺事件」了――




*おまけ「魚料理」*




「ああ、そうだレオン。今度の休みでも家に来い。妻が会いたがってる」

「いや……でもお邪魔でしょう?」

「何言ってるんだ。昔は金が無いとかで遠慮なくたかって来よったくせに」

「人聞き悪いこと言わないでくださいよ。いつも強引に連れて行ってたくせに」

「はははっ、仕方ないだろう? そうでもせんとお前、ろくな飯食わなかったんだから。

 ほれ。お前好きだったろ、妻の魚料理。お前の食いっぷりをまた見たいって言っておったぞ」

「……分かりました。次の休みにでも」

「ああ、来い来い! ついでだ。シルたちも連れてこい。ちょうど孫たちが来ていて帝都の話聞きたがっておったし」

「それ、完全に俺はおまけですよね?」

「……そんなことは、ないぞ?」

「せめて目を合わせて言ってください。……まったく」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ