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転生侯爵令息の「法と産業」革命 ~法務大臣の父を持つ僕は、腐敗した領地を「万能工場」と「新法」で立て直す~  作者: Nami


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第8話 戦乙女の強襲と、ミスリル・ディナー



 アークライト領の入り口、舗装されたばかりの街道上に、張り詰めた緊張感が漂っていた。

 対峙するのは、銀色の鎧に身を包んだ五十騎の精鋭騎士団。

 そして、たった一人で彼らの前に立ちはだかる私、リアムだ。


「……貴様が、この地の領主代行か?」


 先頭の白馬から、一人の女性騎士が降り立った。

 燃えるような紅蓮の長髪をポニーテールに束ね、吊り上がった碧眼は猛禽類のように鋭い。腰には長剣を帯び、全身から隠しきれない闘気を放っている。

 シルヴィア・フォン・アイゼンガード。

 公爵令嬢にして、北方国境警備隊を率いる『戦乙女ワルキューレ』だ。


「お初にお目にかかります、シルヴィア様。アークライト侯爵家長男、リアムです。……これほどの数の騎士を連れての無断訪問、歓迎の準備もできておりませんが?」


 私が優雅に礼をすると、シルヴィアは鼻を鳴らした。


戯言ざれごとを。単刀直入に言うぞ、アークライト卿。貴様に『戦略物資密売』の嫌疑がかかっている」

「密売、とは?」

「トボけるな! ゼルドアの街で大量の『純度九十九パーセントのミスリル』が出回っているとの報告を受けた。この辺境で、王家の許可なくそのような高純度鉱石を精製・流通させるなど、国家反逆罪に等しい!」


 彼女が叫ぶと、背後の騎士たちが一斉に槍を構えた。

 なるほど、筋は通っている。ミスリルは強力な武器の素材ゆえ、国が管理したがるのも無理はない。

 だが、私には勝算がある。


「誤解ですね。あれは『採掘』したものではありません。温泉開発の過程で出た『産業廃棄物』をリサイクルしただけです。法律上、廃棄物の処理に王家の許可は不要かと」

「は、廃棄物だと……!? 最高級のミスリルをゴミ扱いするか!」


 シルヴィアのこめかみに青筋が浮かんだ。

 彼女は武人だ。理屈や法解釈よりも、感情と筋道を重んじる。

 ならば、交渉のテーブルに着かせるための『言語』を変える必要があるな。


「……口で言っても信じていただけないようだ。ならば、シルヴィア様。貴女のその剣で、私の身の潔白を試されてはいかがですか?」

「なんだと?」

「私がその剣をしのぎきれば、私の話を聞く。もし私が斬られれば、罪を認めて大人しく縛られましょう」


 挑発。

 シルヴィアの瞳に、ギラリと戦意の火が灯った。


「……面白い。文官の息子と侮っていたが、その度胸だけは認めてやる。いいだろう、手加減はせんぞ!」


 ジャキッ!

 彼女が腰の剣を抜いた。名匠が鍛えたであろう、見事な鋼の剣だ。

 対する私は、【万能工場】で作り出したばかりの『試作品』を取り出した。

 黒い鞘から抜かれたのは、白銀に輝く刀身。


「それは……ミスリルの剣か!?」

「ええ。当領地で精製したものです。強度のテストも兼ねて、お相手願いましょう」


 一瞬の静寂。

 風が吹き抜けた瞬間、シルヴィアが消えた。


(速い)


 【身体強化】の魔法を無意識に纏った、神速の踏み込み。

 瞬きする間に私の懐に入り込み、袈裟懸けの一撃を放ってくる。達人級の剣技だ。

 だが――私には『見えて』いる。


 父、ゲオルグ直伝の護身術に加え、前世で培った「膨大な情報を瞬時に処理する」思考回路。

 敵の筋肉の動き、視線、呼吸。それら全ての予備動作から、太刀筋を予測シミュレートする。


 カィィィン!!


 甲高い金属音が響き、火花が散った。

 私は一歩も動かず、片手の剣だけで彼女の剛剣を受け止めていた。


「なッ……!? 私の剣を、片手で!?」

「いい太刀筋です。ですが、少し大振りだ」


 私は手首を返し、彼女の剣を滑らせて受け流す。

 体勢を崩した彼女の首元へ、ミスリルの切っ先をピタリと突きつけた。


「……勝負あり、ですね」


 騎士たちが息を呑む気配がした。

 あの『戦乙女』が、一合で制圧されたのだ。

 シルヴィアは呆然と私の剣を見つめ、やがて震える声で呟いた。


「……まいった。……貴様、何者だ? ただの貴族のボンボンではないな?」

「経営者ですよ。自分の身と資産は、自分で守るのが流儀です」


 私は剣を収め、手を差し出した。


「約束通り、お話を聞いていただけますね? ……ちょうど夕食の時間だ。歓迎しますよ、とっておきの『地元料理』で」


          ◇


 場所を移し、完成したばかりの高級旅館『銀月楼』の食堂。

 シルヴィアと副官たちは、出された料理を前に固まっていた。


「……アークライト卿。これは……なんだ?」

「当領地の特産品、『陸海老おかえびのフライ』です」


 皿の上には、黄金色の衣を纏った巨大なエビフライ……もとい、ローカストのフライが鎮座している。

 香ばしい油の匂いと、特製タルタルソースの酸味が食欲をそそる。

 だが、彼女たちは知っている。この辺りで巨大な虫が出没することを。


「ま、まさか……あの魔物か? 虫を食えと言うのか?」

「見た目で判断しては、本質を見誤りますよ。ミスリルと同じです。ゴミだと思っていたものが、磨けば宝石になる」


 私は自らナイフとフォークを取り、サクッと衣を切り分け、口に運んだ。

 サクサクの食感。溢れ出す肉汁。

 うむ、今日の出来も完璧だ。


 それを見たシルヴィアは、意を決したようにナイフを取った。

 行軍でお腹が空いていたのもあるのだろう。

 恐る恐る一口……。


 サクッ。


「んっ……!?」


 彼女の碧眼が大きく見開かれた。


「……う、美味い!? なんだこれは、海のエビよりも濃厚で、それでいて弾力が……!」

「ローカストの肉は魔力を多く含みます。疲労回復にも絶大な効果がある」

「そ、それにこのソース! 酸味とコクが絶妙だ! ……おい、お前たちも食ってみろ!」


 許可が出た途端、副官たちもフライに食らいついた。

 食堂に「美味い!」「信じられん!」という絶賛の声が響き渡る。

 食による懐柔(胃袋掴み)。成功だ。


 満足げに皿を空にしたシルヴィアに、私は本題を切り出した。


「シルヴィア様。誤解が解けたところで、商談をしたい」

「商談、だと?」

「ええ。当領地で産出されるミスリル製品……剣や鎧を、貴女の『白銀騎士団』に優先的に卸します。市場価格の二割引きで」


 シルヴィアが身を乗り出した。

 万年予算不足に悩む地方騎士団にとって、ミスリル装備の格安提供は喉から手が出るほど欲しいはずだ。


「その代わり、条件があります」

「……言ってみろ」

「この『銀月楼』を、騎士団の保養所として公認していただきたい。そして、定期的に騎士を駐屯させ、周辺の治安維持に協力してほしい」


 私が提示したのは、相互利益(Win-Win)の関係だ。

 私は武力という後ろ盾を得て、彼女たちは最強の装備と、最高の休息地を得る。


「……ふん。食えない男だ。だが……悪くない話だ」


 シルヴィアは私の目を見据え、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。


「気に入ったぞ、リアム。貴様の実力と、その度胸……そして、このエビフライにな! 契約成立だ!」


 ガシッ、と彼女の手が私の手を握りしめる。

 熱く、力強い手だ。

 同時に【絶対契約】が発動し、鉄の同盟が結ばれた。


「では、契約成立の祝いに……どうぞ、一番風呂へ。旅の汗を流してきてください」

「おお、風呂か! かたじけない!」


          ◇


 一時間後。

 湯上がりで頬を桜色に染めたシルヴィアが、私の執務室へやってきた。

 鎧を脱ぎ、ラフなシャツ姿になった彼女は、戦場の鬼神とは別人のように艶っぽい。


「……良い湯だった。体の芯から魔力が回復するのが分かったぞ。これなら、負傷兵の治療にも使えるな」

「気に入っていただけて何よりです」

「ああ。……それとな、リアム」


 彼女は少し言い淀み、そっぽを向きながら言った。


「その……先ほどの剣技。見事だった。……今度、手合わせを頼めるか? 私は自分より強い男にしか興味がなくてな……」


 その顔は赤く、視線は泳いでいる。

 これは……予想外の『陥落』か?

 強いオスへの本能的な興味。脳筋令嬢ならではのアプローチだ。


「ええ、いつでも。……ただし、お手柔らかに」


 私が微笑むと、彼女は嬉しそうに頷き、部屋を出て行った。

 

 ふう、と私は椅子に深くもたれかかる。

 これで『資金』『資源』『人材』そして『武力』。

 領地経営に必要なピースが全て揃った。


「さて、基盤は固まった。……そろそろ『攻め』のターンだな」


 私は机の上の地図を広げた。

 次なるターゲットは、王都。

 私とこの領地を食い物にしようとした連中へ、倍返しの『経済侵略』を仕掛ける時だ。



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