第17話 学園祭と、メイド服の聖女たち
秋晴れの空の下、アークライト・アカデミーはかつてない熱狂に包まれていた。
第一回『アークライト学園祭』。
表向きは生徒たちの研究発表の場だが、その実態は、アークライト商会の最新技術を国内外の貴族・商人にアピールする『技術見本市』である。
「……ほう。これが学生の作ったものか?」
「なんと、魔力がなくとも動く荷車だと!?」
キャンパスのあちこちで、招待された大人たちが驚きの声を上げている。
落ちこぼれと呼ばれた生徒たちが、目を輝かせて自分たちの発明品――自動掃除機や、温室栽培ユニットなどを説明している姿を見て、私は満足げに頷いた。
「順調だな。彼らの自己肯定感も育っている」
私は理事長として、会場の視察を行っていた。
その時、頭上から悲鳴が降ってきた。
「ギャァァァァァァァッ!!」
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ!!」
見上げれば、鉄骨で組まれたレールの上を、猛スピードで滑走するコースターが見える。
ルナたち工学研究部が作った『魔導ジェットコースター』だ。
鉄道技術を応用したそれは、絶叫マシンとして大人気で、先ほどから貴族の令息令嬢たちが青い顔で降りてきては、また並んでいる。
「ふふっ、リアム様! すごいです! G(重力)の負荷データ、最高の数値が取れてます!」
操縦席で白衣をなびかせるルナが、私を見つけて手を振った。
平和だ。実に平和だ。
私は騒がしいアトラクションエリアを抜け、校舎の奥にある「休憩エリア」へと向かった。
そこには、本日の目玉企画が用意されている。
◇
3年A組の教室前には、長蛇の列ができていた。
看板には『喫茶・天使の休息』の文字。
私が列をスルーして(理事長特権だ)中に入ると、そこは異空間だった。
「お帰りなさいませ、ご主人様♡」
甘い声と共に出迎えたのは、フリル満載のメイド服に身を包んだセシリアだ。
スカート丈は膝上。私がデザインした『クラシカルだが、絶対領域は死守する』仕様である。
清楚な聖女の微笑みと、エプロンの紐が強調する豊満な胸元。その破壊力に、客席の男子生徒や貴族たちは鼻血を出して倒れかけている。
「ようこそ、リアム様。お待ちしておりましたわ」
「……似合っているな、セシリア。売上はどうだ?」
「はいっ! 私の淹れた『聖女の祈り付き紅茶(一杯金貨一枚)』が飛ぶように売れています!」
ボッタクリ……いや、高付加価値商法だ。素晴らしい。
私が席に着くと、奥からガチャガチャとぎこちない足取りで、もう一人のメイドがやってきた。
「お、お帰りなさいませ……ご、ご主人……様。……くっ、なぜ私がこんな格好を……!」
真っ赤な顔でトレイを震わせているのは、シルヴィアだ。
彼女の鍛え上げられた長身と、引き締まった脚線美は、メイド服を着ると一種の『暴力的な美』へと昇華されている。
恥じらいながらも、スカートの裾を気にする仕草が、逆に客の視線を集めていた。
「注文はなんだ、リ……ご主人様! さっさと決めてくれ!」
「オムライスを頼む。ケチャップでハートマークを描いてくれ」
「はぁ!? ふ、ふざけるな! 私は剣なら扱えるが、ケチャップなど……!」
「業務命令だ、シルヴィア先生」
「うぅ……! お、覚えていろよ……!」
彼女は涙目で、震える手で歪なハートマークを描き始めた。
その様子を、隣のテーブルから優雅に見つめるもう一人のメイドがいた。
「あらあら、シルヴィア様は不器用ですこと。……リアム様、わたくしならもっと『濃密な』サービスができますわよ?」
ヴィクトリアだ。
彼女はメイド服を着こなすどころか、完全に自分の武器にしていた。
スカートのスリットから白い太ももをチラつかせながら、流し目で私を誘惑してくる。
「帝国の『夜の作法』を取り入れた、特別マッサージなどいかが?」
「遠慮しておこう。高くつきそうだ」
「ふふ、お代は『機密情報』で結構ですのに」
聖女、女騎士、皇女。
この世の属性を詰め込んだような空間に、私は経営者として確信した。
この『メイド喫茶』システムは、王都本店に導入すれば莫大な利益を生むだろう、と。
だが、その平和な時間は、一発の爆発音によって破られた。
ドォォォォン!!
校庭の方角から黒煙が上がる。
客たちが悲鳴を上げて立ち上がった。
「敵襲か!?」
「いや、あれは……植物園エリアだ!」
私は瞬時に立ち上がり、窓から外を見た。
植物園のガラスドームを突き破り、巨大な緑色の蔦が空へ向かって伸びている。
蔦は生き物のように暴れ、周囲の屋台をなぎ倒していた。
「あいつ……やりやがったな」
原因に心当たりがあった。
植物オタクのエルフの生徒だ。彼が研究していた『急速成長促進剤』の調合をミスしたに違いない。
「シルヴィア、客の避難誘導を! セシリアは負傷者の治療待機!」
「りょ、了解した! ……この格好でか!?」
「今は緊急事態だ、気にするな!」
私は窓枠を蹴って飛び出した。
風魔法で空を舞い、暴走する植物の元へ急行する。
現場はパニックだった。
巨大化した食虫植物のような蔦が、逃げ遅れた生徒を捕食しようと鎌首をもたげている。
「ひぃぃ! 助けてくれぇ!」
「僕の可愛い植物ちゃんが暴走をぉぉぉ!」
腰を抜かしているエルフの生徒。
私は空中で指を鳴らした。
「【万能工場】――対象、暴走植物。プロセス、剪定および品種改良」
青白い光が植物全体を包み込む。
殺処分はしない。これも貴重なサンプルだ。
私は植物の遺伝子構造をスキャンし、暴走の原因である『過剰な魔力供給』をカット。さらに、『観賞用』としてリサイズするよう命令式を書き換えた。
シュゥゥゥ……。
暴れまわっていた蔦が、急速に縮んでいく。
そして数秒後。
そこには、手のひらサイズの可愛らしい植木鉢に収まった、小さな花が残るだけとなった。
「……え?」
呆然とする周囲の静寂を破るように、私は着地し、何食わぬ顔で招待客たちに向き直った。
「失礼しました、皆様。……今のは当学園バイオ研究所による『巨大化と縮小化』のデモンストレーション・ショーでした」
ニッコリと笑って嘘をつく。
一瞬の間の後、
「お、おおおおお!」
「ショーだったのか! なんて迫力だ!」
「あの巨大な植物を一瞬で……素晴らしい制御技術だ!」
会場は拍手喝采に包まれた。
トラブルすらも宣伝に変える。それがアークライト流だ。
「……ふぅ」
冷や汗を拭っていると、背後から三人のメイドが駆け寄ってきた。
「リアム様! ご無事ですか!?」
「まったく、肝を冷やしたぞ……!」
「さすがですわ、ご主人様♡」
セシリア、シルヴィア、ヴィクトリア。
メイド服姿の美女たちに囲まれ、私は苦笑する。
「やれやれ。……退屈しない学園祭だな」
夕焼けの中、学園祭は無事に幕を閉じた。
だが、この騒動の裏で、ヴィクトリアが本国へ送っていたレポートには、こう記されていた。
『ターゲットの能力、測定不能。植物の遺伝子すら書き換える神の御業あり。……正面からの敵対は自殺行為なり』
帝国の脅威度は、また一つ跳ね上がった。




