表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生侯爵令息の「法と産業」革命 ~法務大臣の父を持つ僕は、腐敗した領地を「万能工場」と「新法」で立て直す~  作者: Nami


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/22

第14話 魔導通信網と、情報の支配者



 アークライト・アカデミーの地下、第1研究室。

 そこは今、徹夜の熱気と魔力残滓ざんし、そしてコーヒーの香りに包まれていた。


「……理論値、クリア。魔力波長、安定。共鳴石のリンク率、九十九パーセント!」


 ボサボサの黒髪を振り乱し、油にまみれた作業着姿のルナが叫ぶ。

 彼女の目の前には、複雑な魔導回路が刻まれた金属箱と、受話器のようなグリップがついた機械が鎮座していた。


「リアム様! い、いけます! 私の計算が間違ってなければ、これで……!」

「ああ。ついに完成だな」


 私もまた、上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの袖をまくり上げて作業に没頭していた。

 現代の電話の原理――音声を電気信号に変える技術を、この世界の魔力振動に置き換える。言葉にすれば簡単だが、実用化にはルナという天才の指先が必要不可欠だった。


「スイッチを入れるぞ。……王都支店、クラウスに接続」


 私が魔力を流し込むと、機械の中心に埋め込まれた青い魔石がブゥン……と低い唸りを上げ、発光した。


 ジジッ……ザザッ……。


 ノイズが走る。ルナが祈るように手を組む。

 数秒後。

 スピーカーから、驚愕に満ちた老執事の声が響いた。


『――あ、あー……。も、もしもし? 聞こえますか、リアム様?』


 クリアな音声。

 まるで隣の部屋にいるかのようだ。


「成功だ、クラウス。感度はどうだ?」

『は、はい! 信じられません……! 本当に、数百キロ離れた領地から、リアム様のお声が……! 魔法使いの【念話】ですら、これほど鮮明ではありませんぞ!』

「よし。これが『魔導通信機マナ・テレフォン』だ。これより、アークライト商会は『情報革命』を開始する」


 私は受話器を置き、ルナに向き直った。

 彼女は感極まって、涙目で震えている。


「やった……やったぁ……! 私、本当に作っちゃった……!」

「よくやった、ルナ。君は最高のエンジニアだ」


 私が自然と彼女の頭を撫でると、ルナは「ひゃぅっ!?」と奇声を上げ、茹でダコのように顔を赤くした。

 ……褒められ慣れていないのか。反応が新鮮だ。


          ◇


 翌日から、王都の市場に異変が起きた。

 アークライト商会の動きが、あまりにも早すぎるのだ。


 例えば、南方の港町で「香辛料」が入荷したとする。

 従来の商人たちは、早馬や伝書鳩を使い、数日かけてその情報を王都へ伝える。

 だが、アークライト商会は違う。


 現地の支店員が『魔導通信機』で王都本店へ連絡。

 「今、胡椒が入荷しました。価格は銀貨十枚」

 「了解。王都では品薄で銀貨三十枚まで高騰している。全量買い占めろ」


 このやり取りは、わずか数十秒で完結する。

 他の商会が情報を得る頃には、すでにアークライト商会が商品を買い占め、王都での販売準備すら整えている状態だ。


「な、なぜだ!? なぜアークライトの連中は、今日の朝に港に着いた船の荷物を、昼には知っているんだ!?」

「スパイか!? それとも予知能力か!?」


 ライバル商会が疑心暗鬼に陥る中、私は執務室で優雅に紅茶を飲みながら、受話器片手に指示を飛ばす。

 情報の速度差。それはすなわち、利益の差だ。

 もはや誰も、私のスピードには追いつけない。


          ◇


 そんなある日の午後。

 開発室でルナと次なる改良――小型化(携帯電話化)の議論をしていた時のことだ。


「ここをもっと小型の魔石にすれば……でも出力が……」

「なら、回路を積層構造にすればいい。君ならできるだろう?」

「うぅ、リアム様の無茶振り……でも、やってみます……!」


 私とルナが机上の図面を覗き込み、互いの肩が触れ合う距離で熱中していると。


 バンッ!


 研究室の扉が勢いよく開かれた。

 立っていたのは、バスケットを持ったセシリアと、竹刀を持ったシルヴィアだ。

 二人とも、目が笑っていない。


「……リアム様? 最近、お部屋に篭りきりだと伺いましたので、お夜食を持ってきましたわ。あら、随分と……『親密』な距離感ですこと」

「おいリアム。研究もいいが、適度な運動も必要だぞ。……まさか、そのネズミのような小娘と、朝まで『実験』していたわけではないだろうな?」


 室内の温度が氷点下まで下がった気がした。

 ルナが「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、私の背後に隠れる。


「誤解だ。我々は純粋に技術的な議論を……」

「問答無用です! さあ、休憩にしましょう! 私の特製サンドイッチを食べてください!」

「いや、まずは稽古だ! 私の剣を受けて目を覚ませ!」


 左右から迫る聖女と女騎士。

 どうやら、新入り(ルナ)に私が構いすぎたせいで、古株の彼女たちの嫉妬心に火をつけてしまったらしい。

 やれやれ、これも『人材管理』の一環か。


「分かった、分かったから。……二人とも、私のためにありがとう」


 私が苦笑しながら礼を言うと、二人はパッと顔を輝かせ、今度は「私が先に!」「いや私だ!」とサンドイッチを口に押し込もうとする争いを始めた。

 背中ではルナが、眼鏡をズレさせながら「り、リアム様って、実は女たらし……?」と小声で呟いている。聞こえているぞ。


 平和なドタバタ劇。

 だが、この幸せな光景の裏で、世界は確実に動き始めていた。


          ◇


 王都、とある路地裏。

 灰色のマントを目深に被った男が、空を見上げていた。

 彼の手には、一羽の伝書鳩が握られている。だが、その鳩は矢で射抜かれ、死んでいた。


「……またか。最近、我々の『鳩』が届かない」


 男は隣国、軍事帝国ガレリアの密偵だ。

 彼は懐から望遠鏡を取り出し、街の中心にそびえ立つアークライト王都本店、その屋上に設置されたアンテナのような装置を睨みつけた。


「見えない『糸』が張り巡らされている……。アークライト侯爵家、恐るべき技術力だ」


 男は影に溶け込むように姿を消した。


「報告せねばなるまい。……この国を攻め落とすには、まずあの男――リアム・フォン・アークライトを消さねばならない、と」


 見えざる情報網は、同時に見えざる敵をも引き寄せようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ