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転生侯爵令息の「法と産業」革命 ~法務大臣の父を持つ僕は、腐敗した領地を「万能工場」と「新法」で立て直す~  作者: Nami


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第11話 貴族の陰謀と、食料先物取引



 アークライト王都本店の開店から一週間。

 王都はかつてない熱狂に包まれていた。

 連日、開店前から長蛇の列ができ、商品は飛ぶように売れる。私の店が吐き出す莫大な税収予測に、王宮の文官たちは嬉しい悲鳴を上げていた。


 だが、光が強ければ影も濃くなる。

 急速すぎる成功は、既得権益を持つ者たちの逆鱗げきりんに触れた。


          ◇


「……忌々しい小僧だ。アークライト家の放蕩息子が、ここまでやるとはな」


 王都の貴族街、その一角にある重厚な屋敷。

 財務大臣、ザイス公爵は、ワイングラスを壁に投げつけた。

 彼は国内の流通ギルドを裏で牛耳り、王国の経済を支配してきた保守派の筆頭だ。


「公爵様、ご安心を。手は打ってあります」


 影から現れたのは、ゴロンディ商会の会頭だ。彼は邪悪な笑みを浮かべている。


「奴の店は確かに人気ですが、所詮は『嗜好品』。人は服や化粧品がなくても死にませんが……『これ』がなければ生きていけません」

「ふん。手筈通りに進めておるか?」

「へい。すでに王都周辺の穀倉地帯からの輸送ルートは、我々が全て押さえました。主要な卸売業者にも手を回し、小麦の出荷を停止させております」


 ザイス公爵はニヤリと笑った。


「よろしい。『アークライト商会が参入して以来、王都の物価が乱れた』……そう噂を流せ。民衆の怒りを奴に向けさせ、暴動を起こさせるのだ」

「御意。……飢えた民衆が、あの豪華なデパートを襲撃する様が目に浮かびますなぁ」


          ◇


 翌日。

 王都に異変が起きた。

 市場から小麦粉が消えたのだ。パン屋の棚は空になり、わずかに残ったパンも、昨日の五倍の値段で売られている。


「おい、パンがねぇぞ!」

「子供が腹を空かせてるんだ!」

「聞いたか? 新しいデパートが物資を買い占めてるせいで、俺たちの食い扶持がなくなったらしいぞ!」


 デパートの前には、昨日までの客とは違う、殺気立った群衆が集まり始めていた。

 手にはプラカードや石が握られている。


 最上階の執務室。

 眼下の騒動を見下ろすシルヴィアが、焦燥の色を浮かべた。


「リアム! まずいぞ、暴動寸前だ! 『アークライト商会が食料を独占している』というデマが流れている!」

「……典型的な『兵糧攻め』だな。民衆の不満を煽り、物理的に店を潰す気か。ザイス公爵も、やり口が古い」


 私は優雅にコーヒーを啜る。

 隣に控えるクラウスも、涼しい顔で書類を整理している。


「り、リアム? なぜそんなに落ち着いているんだ? このままでは店が……」

「シルヴィア。私は『経営者』だと言っただろう? 競合他社からの妨害工作サボタージュなど、事業計画のリスク要因ファクターに入っている」


 私は立ち上がり、壁の世界地図を指差した。


「彼らは王都周辺の供給ルートを断った。だが、それは『現在』の物流を止めたに過ぎない。……私は、三ヶ月前から『未来』を買っていたんだよ」


「未来を……買う?」


 私はクラウスに合図を送る。

 執事が恭しく広げたのは、隣国との国境付近にある穀倉地帯の地図と、大量の契約書だった。


「『先物取引フューチャーズ』だ」


 私の言葉に、シルヴィアが首を傾げる。


「サキモノ?」

「簡単に言えば、『まだ収穫されていない作物』を、あらかじめ決めた価格で買い取る契約だ。私は三ヶ月前、豊作すぎて値崩れを起こしていた隣国の農家たちと契約し、今年の収穫分すべての購入権を格安で手に入れていた」


 そう。ザイス公爵たちが王都周辺の買い占めに奔走している間に、私は国外から、安価で大量の小麦を確保していたのだ。

 そして輸送には、アークライト領で整備した『高速道路』と、私が開発した『大型魔導トラック(ゴーレム牽引車)』を使用する。


「クラウス、時間は?」

「予定通りです。……ほら、聞こえてきましたよ」


 ブオオオオオオオッ!!


 地響きのような重低音が、王都の大通りに響き渡った。

 暴徒と化しかけていた群衆が、驚いて振り返る。


 現れたのは、巨大なコンテナを積んだ、十台の大型輸送車団だった。

 車体には『アークライト物流』のロゴ。


「な、なんだあの巨大な馬車は!?」

「積荷が……パン? いや、小麦粉だ!」


 私はテラスに出て、マイクを握った。


「王都の皆さんに告ぐ! アークライト商会は、不当な価格高騰に苦しむ皆さんのために、緊急支援物資を用意した!」


 輸送車のコンテナが開かれる。

 そこには、山のように積まれた真っ白な小麦粉の袋。そして、木箱に入った新鮮な野菜。さらには――。


「こ、これは……肉の缶詰か!?」

「『陸海老』の加工肉だ! 栄養満点だぞ!」


 私の合図と共に、店員たちが手際よく販売を開始する。


「価格は『先週の相場』と同じだ! 転売防止のため一人二袋までだが、在庫は山ほどある! 焦らず並んでくれ!」


 一瞬の静寂の後。

 ワァアアアアアアッ!! と歓声が爆発した。


「アークライト様万歳!」

「やっぱりデマだったんだ!リアム様は俺たちの味方だ!」


 殺気立っていた群衆は、一転して感謝の涙を流し、我先にと小麦粉や缶詰を買い求めた。

 暴動の危機は去り、逆に私への支持率は不動のものとなった。


          ◇


 一方その頃。ザイス公爵の屋敷。


「こ、公爵様! 大変です! アークライト商会が、大量の安売り穀物を市場に放出しました!」

「な、なんだと!? 馬鹿な、物流は封鎖したはずだぞ!?」


 部下の報告に、ザイス公爵の手からグラスが滑り落ちた。

 さらに追い打ちがかかる。


「そ、それに……市場の価格が大暴落しています! 我々が高値で買い占めた穀物が、タダ同然の値段に……!」


 これこそが、私の狙いだった。

 私が安値で大量供給すれば、市場価格は暴落する。

 高値で買い占め(コーナーリング)を行っていたザイス公爵たちは、暴落した価格で在庫を売ることもできず、抱え込んだまま破産するしかない。


「お、おのれぇぇぇ! アークライトォォォ!」


          ◇


 その日の夕方。

 デパートの執務室で、私は勝利の美酒(極上のワイン)を開けていた。


「すごいな、リアム。お前は剣だけでなく、金でも人を斬れるのか」


 シルヴィアが呆れたように、しかし尊敬の眼差しで私を見ている。


「簡単な理屈さ。欲をかいた者が負ける。それが市場だ」


 私はグラスを傾けながら、次の計画を口にした。


「これで保守派の資金源は断たれた。ザイス公爵も失脚するだろう。……だが、王都での基盤が固まった今こそ、外に目を向けるべき時だ」

「外?」

「ああ。今回の件で、隣国とのパイプの重要性を再確認した。……それに、アークライト領の北、未開の地に眠る『資源』にも興味がある」


 私は北の壁にかけてある地図――アークライト領のさらに北、極寒の未開拓領域を指差した。


「そこには、ミスリル以上の『魔力資源』が眠っているという伝承がある。……そろそろ、冒険の時間だと思わないか?」


 経済戦争の次は、領土拡大と資源開発。

 私の野望は留まるところを知らない。



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