4 あの日の記憶
リディアは一年前、公爵邸にあの手紙が届いた日の事を一人静かに思い出していた。
朝の澄んだ光が公爵邸二階にあるリディアの部屋の窓から差し込み、鳥達の囀りが聞こえる中、リディアは机に置かれた白い封筒をじっと見つめていた。封蝋には見慣れた皇室の紋章——蒼い月と輝く光の女神が描かれている。
リディアの指が慎重かつ丁寧に封を切ると、中からは上品な筆跡で綴られた手紙が現れた。
「親愛なるリディア・サンダルウッド・ハレス殿
このたび、貴女を未来の皇太子妃に任命します。あなたの類まれなる魔法の才能と美しい品格は、この国の未来を輝かせる光そのものでございます。
皇室一同は未来の皇太子妃に貴女様を迎え入れる事を大変嬉しく思います。そして、貴女様がその事をいつまでも誇っていられます様皇室一同はサポートに尽力する事をここに約束します。
皇帝 アルベルツナー」
リディアの瞳に一筋の涙が滲んだ。貴族令嬢なら誰もが夢見る『皇太子妃の座』。その立ち位置につける事は決して重荷なんかではなく、リディアにとっては喜ぶべき光栄な事なのだ。
生まれてから一年が経つ前に言語を話せる様になったリディアは、その時から皇太子妃に選ばれるべく両親が雇った家庭教師と皇太子妃教育に励んできたのだ。それがどんなに過酷な事でも子供であるリディアは反抗する事さえ許されていなかった。そんな日々を送ってきたリディアにとってこの手紙は努力が報われたという証なのだ。
「私が未来の皇太子妃・・・・・。何だか実感があまりないのだけど、どうしたものかしら・・・・。」
(勿論、その為に頑張ってきたんだけど・・・。)
喜びが湧き上がってくるのと同時に不安が募る。
(だって、私は『汚れた血』に値する二属性・・・・。この事が知られてしまっては婚約破棄され今までの努力が水の泡になってしまう。例え、私と皇太子殿下がどれだけ思い合っていたとしても、皇帝陛下が私の事を気に入ってくださっても、決まりがあるから・・・・・。)
「何としてでも隠し通さないと。」
そう呟くと、彼女は手紙を胸に抱きしめた。
両親がこの事を知った時、子供みたいに大喜びしてくれたのを今でも覚えている。