専属侍女はひたすら祈る
恋愛要素ないし、ざまぁ…か?なのでタグつけてません。
どこまで固有名詞なしでいけるかな?チャレンジしているので全員名無しですご容赦ください。
どうかお嬢様が平穏な1日を暮らせますように…
私はお嬢様に仕えるようになってから目に見えぬ何かに対して日々祈っている。
✽ ✽ ✽ ✽
伯爵家に女児が誕生し当時弟を産んで間もない母が乳母に選ばれた、私が側仕えとしてお嬢様に仕えているのはその縁だ。
淡い薄紫のプラチナブロンドの髪にアメジスト色の瞳のお嬢様はお産まれになった直後から宝石の様に大事に扱われていた。
その日のことは母から聞いた話だがお嬢様が揺り籠の中で赤子特有の高い笑い声をあげた時突如4つの光る御柱が現れた。
一番近くにいた母は腰を抜かしたまま畏怖で動けなかったという。
4つの光柱は強く光ったり淡く光ったりを繰り返しながら揺り籠の周りをくるくる周りお嬢様に話しかけた。
『あぁ、何て愛らしい笑い声だ』
『あぁ、何て美しい髪だ』
『あぁ、何て柔らかい頰だ』
『あぁ、何て澄んだ瞳だ』
そして一段強く光り
『『『『あぁ、我らの愛し子に祝福を!』』』』
そうして、光柱は霧散した。
光の柱が見えなくなっても暫くの間、誰一人部屋に残された神気に当てられて身動きできなかったそうだ。
精霊は光の珠に見えることがあるようなので柱に見えるくらいの光となるとかなり上位のものだったと思われる。
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お嬢様に私が仕えるようになり不思議な体験をすることが起きるようになった。
雨上がりに空にかかった虹に向かいお嬢様が舌っ足らずな口調で「きれぇ」ただ一言笑いながら話しかけた瞬間だっだ。
虹が2つに増えた、ポンッ!って。
まぁ、虹が2つ出ることも有るよねと当時は流したが思えば最初の奇跡は多分これだと思う。
お嬢様がもたらす奇跡がとんでも無いと確証に至ったのはタンポポの綿毛が風に舞うのをみてお嬢様が声を出して笑った瞬間、ただの草原がタンポポの花畑状態になったのを見たときだ。
揺れる大量のタンポポを眺め目の前で起きたことをすぐには理解できなかった。
デザートのアップルパイが美味しいと言えば領内中の林檎の木が季節外にも関わらず宝石の様な赤い実をつけ、ディナーの白身魚のソテーが美味しいと言えば翌日近隣の港で同種の魚が豊漁になる。
欲があまりないのか流行りのドレスや豪華な宝石をお嬢様から強請ることはなかった。
お嬢様の誕生祝いに祖父母から色とりどりの小さな宝石が付いたブレスレットが贈られたことがありお嬢様が美しさに感動して大喜びした翌日…領内で広大な宝石の鉱脈がみつかった。
光柱のナニカ様はよほどお嬢様を喜ばせたいらしい。
私はただひたすら規格外の祝福が悪用されお嬢様が傷つかない事を祈った。
…が、このような規格外を王家が野放しにしてくれる訳はなかった。
✽ ✽ ✽ ✽
お嬢様が五歳を迎えた頃に王家、それも王妃様からお茶会への招待状がお嬢様に届いた。
第一王子のお披露目を兼ねたお茶会らしい、同世代の高位貴族子女が招待されているようだ。
神懸った生誕から5年声が掛からなかった方が奇跡かもしれない、タンポポ畑になった荒地はいまや立派な牧草地帯にかわり白身魚フィーバーした港は落ち着きを取り戻したがフィーバー以前より高い漁獲高を維持している。
あまり良い噂のない第一王子に気に入られなければ良いのだ、お嬢様が悲しい想いをしないよう出来る限りの事をしよう。
この時の私の判断があのような事態になるとは思わず降り注ぐ木漏れ日に私は目を細めた。
「当日はうんとおめかししましょう。(悪目立ちしない程度に。)」
私がガッツポーズをすると《むんっ》と私のポーズを真似た。
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色々不安を抱えたままお茶会当日を迎えた。
流石、王家の庭。
美しく良い香りを放つ薔薇の生垣、見事な装飾の噴水は澄んだ水を大量に使用し高く吹き上げている。
綺麗だ、この重圧さえなければ。
顔合わせの順になりお嬢様と第一王子は王城の庭にある四阿で気まずい沈黙のなか向かい合って座っていた。
第一王子の隣には王妃様が口元に扇をあてて横目で2人の様子をみている。
私はというと2人から離れたところで見守るしか出来ない状態だ。
耐え難い沈黙の中、目を逸らすと遠く離れた建物の窓から見えるブロンドの小さな子息が見えた…気がするのは第二王子かな?と私は現実逃避した。
お嬢様の前に第一王子と面会を済ませた子女は何があったか分からないが不機嫌だったり泣きじゃくっていたりどう考えても碌なことが起きていない雰囲気だった。
王妃よ、隣に座っているならフォローしてくれ!
神様、仏様、大精霊様…どうかお嬢様に何事もなくタイムアップで次に行きますように!
…私の祈りは残念ながら何かに届かなったようだ。
第一王子は元々目つきの悪い目を細め。
「白髪のババァかよ!」
…と、見事なお嬢様のプラチナブロンドを全否定した。
お嬢様の大きな瞳が見開かれて悲しそうに歪む。
慌て駆け寄ろうとしたが王城の侍女に止められた。
声に出したら不敬だ、しかし第一王子に心の中で叫ばせて欲しい『薄馬鹿野郎!』と。
私は天を仰いだ。
…ざわり。
不意に王城を吹く風が変わり重く淀んだ空気が包む。
見回すと美しかった薔薇の生垣は色褪せ萎萎とし、
噴水の水は淀み涸れかけている。
王妃様が細く悲鳴を上げた。
長い付き合いだから言えることだがお嬢様の嘆きは破滅しかよばない。。
発熱した際に飲ませた薬が苦すぎて泣き出した時、庭木の葉が全て落ちた。
池の畔で転倒してお気に入りのドレスをダメにした時は領内の池全ての水源が涸れた。
元の状態に戻すのにどれだけ手間と時間がかかったか…。
これ以上2人を側に置くことは得策と思えず王城の侍女を振り切って動こうとした際、第一王子が悲しむお嬢様の顔を見ながら愉悦を含んだ笑みを浮かべオウンゴールを決めた。
「紫の瞳など気持ち悪い、消えてしまえ。」
お嬢様の足元から芝生がどんどん枯れてゆくのが見える。
…終わったっていうか王妃何のためにいるの?そう思った時だった。
いつの間にここに来たのだろうか。
ぴょん、と視界に入ったのはふわふわしたブロンドの髪。
お嬢様に抱きつきながら目を輝かせて第一王子に話しかけた。
「兄様!兄様がいらないなら、私に。」
第一王子の一つ下、側妃が産んだ第二王子だ。
「紫の瞳、私は綺麗だと思います。母上の好きな菫の花のようだ。」
ぴょこぴょこ抱きつく姿に吃驚していたお嬢様が第二王子に向けて微笑み返したその時だった。
2人の足元から菫の花が湧き上がるように咲き広がるのが合図だった。
涸れ淀んだ噴水は目覚めたように澄んだ水を噴き上げ萎れた薔薇の生垣は生気を取り戻した。
…そして、王妃様が悲鳴を上げて失神した。
「あぶぅ。」
第一王子が先ほどまで座っていた椅子にやたら目つきの悪い乳幼児が第一王子が着ていた服に包まれていた。
王城の侍女や騎士が小さくなった第一王子と王妃様を抱え大騒ぎしている。
…どうやらお嬢様を守護するナニカの逆鱗に触れたのだろう、名残惜しそうにする第二王子と別れ地獄のお茶会はここでお開きになった。
第二王子とお嬢様の今後は伯爵と王家がそのうちどうにかするだろう。
「今夜はお嬢様の好きなクリームと白身魚のパイ包にしてもらいましょう。」
私が微笑みかけるとお嬢様が嬉しそうに抱きついてきた。
どうか、お嬢様が幸せでありますように。
私はひたすら祈る。
私は気づいていない、お嬢様は私が側にいることが何より安心できること。
私が階段を踏み外して転げ落ちても怪我しないし大きな病気をしないことが丈夫な身体と思っているがお嬢様が悲しまないようナニカの加護が一番働いているということを。
余裕ができたら第二王子のスピンオフをかけるといいな。
固有名詞思いつくといいな。