彼女から「私とゲーム、どっちが大事なの?」と聞かれたので「ゲーム」と答えた話
俺、富士原咲也はいつになくテンションが上がっていた。今日は待ちに待った最新ゲーム機の発売日だからだ。
発売日には絶対に定時で帰ることを公言して、数日前から仕事を頑張ってきた。お陰で上司はもちろん同僚からも怪訝な目で見られたが、そんなことはどうでも良い。会社から出てしまえばこっちのもんなんだ。
「さてと、例のものは届いているかな?」
家路に着くと俺はウキウキしながら玄関に置かれた荷物を見る。予想通り注文していたゲーム機が届いていた。俺のテンションは最高潮となり、荷物を抱えて鍵を開けると大急ぎで着替える。
「ご開帳〜」
荷物を開封すると真新しいゲーム機のパッケージが丁寧に入れられていた。やはり子どもの頃から最新のゲーム機を手に入れるとワクワクしてしまう。俺はパッケージの中から説明書とゲーム機本体を取り出すと、設置の方法を入念にチェックする。説明書を読みながらニヤニヤしていると不意に玄関のベルが鳴った。
「誰だ?人の至福の時を邪魔しやがって。許さん!」
出鼻を挫かれた俺はあからさまに不機嫌になり、ドアホンのディスプレイを睨み付けた。すると画面には思いがけない人物が映っていた。
茶髪のツインテールに少し肌が黒めのギャルがドアホンのカメラに向かって満面の笑みでピースサインをしている。俺はギャルの顔を見ると、慌てて玄関のドアを開けた。
「ヤッホー、サックン。やっぱり居たんだ」
「お、お前…何で此処に?」
「何でって…サックンに会いに来たに決まってるじゃん」
「だとしても事前に連絡してくれてないじゃないか!?」
「えー?サプライズってやつ?」
玄関の前でギャルが悪びれずに答える。俺は溜め息を付くとギャルを家の中へ入れた。ギャルは慣れた様子で俺の部屋へとズケズケ入っていく。
ちなみにこのギャルは俺の彼女にあたる増井凪砂。俺とは高校の頃から付き合っているが、社会人になった今もなおギャルのスタイルを貫いている。俺としては嫌いじゃないが、そろそろ年相応に落ち着いてほしいところではある。
ちなみに何故オタク気質の俺とギャルである凪砂が付き合っているのか。俺たちを見た誰もが首を傾げているのだが、本人曰く「うーん、何か惹かれちゃった?」らしい。まあ、俺も偏見なく接してくれる凪砂の存在には大いに助けられているのだが。しかし今はそれとこれとは別だ。俺のプライベート、神聖な時間である。
「あー!!これ、今日出た最新のやつじゃん!」
「しまった!触るな!!」
凪砂は目ざとく開封したばかりゲーム機に手を伸ばす。俺は慌てて凪砂からゲーム機を奪い取ると、キッと睨み付けた。すると凪砂が不服そうに頬を膨らませた。
「何さ、サックンのケチ」
「ケチで結構。帰ってくれ」
「はあ?彼女が会いに来たのに追い返すの?!」
「俺は今から徹夜でゲームするの」
「信じられない!」
凪砂はそう言うとパッケージに同梱されていたゲームソフトを取り上げた。俺はハッとして凪砂からソフトを取り返そうとするが、凪砂はあっかんべーをしながら部屋の中を逃げ回る。
「凪砂、お前!ふざけるなよ!」
「へへーんだ。此処までおいでー、だ」
小学生じみた追いかけっこの末に俺は凪砂の手首を掴むと強引にソフトを取り上げた。俺が勝ち誇るのに対して凪砂は益々膨れっ面になる。
「さっ、分かったろ?今日のところは悪いけど、ずっと楽しみにしてたんだ」
「……ねえ。サックンはゲームと私、どっちが大事なの?」
「えっ?今はゲームだけど」
凪砂から質問に思わず正直に答えてしまった。俺からの返事に凪砂の悲しそうな表情を浮かべる。その姿を見た俺は一瞬にして冷静になった。しまった、取り返しのつかないことを言ってしまったか?
「えっ??あっ、いや…その…」
「もういいよ。サックン、早くゲームしたいんでしょ」
凪砂はハァ〜と溜め息を付くと、テレビの方へ進んだ。そして何やらテレビの裏側を見ている。凪砂の行動が読めず、俺は恐る恐る凪砂に話し掛けた。
「あ、あの凪砂さん?」
「ねえ、説明書貸して」
「えっ?あ、あいよ」
俺は思わず言われた通りゲーム機の説明書を凪砂へ渡す。凪砂はふむふむと説明書を読むと、手際良くゲーム機の接続を始めた。呆気にとられる内にいつの間にやらゲーム機の設置が完了していた。
「さっ、これで出来るよ」
「……へ?どうして??」
「ふー、何で私が今日此処に来たか分かる?」
「…ゴメン、全然分からない」
「サックンとゲームする為だよ。私も一緒にやりたかったの」
「ええ!!じゃ、尚更連絡くれよ!って何でゲーム機買ったこと知ってるんだよ?!」
「サックンのことだからきっと買ってるに違いないと思ってたんだよ。案の定手元にあったね」
ニヤリと笑う凪砂の告白に俺は腰を抜かしてしまった。何だそりゃ?呆然とすると俺を尻目にそそくさと凪砂はゲームを起動し始めた。
「やっぱり最新のゲーム機は性能が違うね」
「まったくそうだな。……ってちがーう!!何で勝手に始めてるんだ!」
「ふんだ!私よりもゲームを取った罰だよ」
凪砂はからかうように自分の隣を指差した。此処に座れということなのだろうか。
「さーて今日は徹夜だよ。お楽しみはこれからだからね」
「もちろん望むところだ」
俺は気を取り直すとコントローラを握って凪砂と対戦ゲームを始めた。
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「ふー、久しぶりに徹夜しちゃったね。こうして一夜を共にするのも悪くないね」
「色々語弊があるからやめて。あと何でそんなにゲーム強いんだよ?」
「何?私に負けて悔しがってる?」
結局俺と凪砂は翌朝までゲームをしてしまった。俺は一人でじっくりをモットーにしていたが、こうして二人で一緒にゲームするのも悪くない感じだ。俺は横で欠伸している凪砂を見ながらフッと微笑む。
「さてと、もう少ししたら帰るね。朝帰りだけど、まあ健全でしょう」
「どこがだよ。徹夜でゲームしといて」
「楽しかったからいいじゃん。でさ、またプレイしに来ていいかな?」
凪砂がニコニコしながら俺に尋ねる。だが俺はある考えの元、凪砂に対して首を横に振った。俺の思わぬ反応に凪砂が首を傾げる。
「ハッ?どうしてよ。減るもんじゃないし、デート気分でいいじゃん。それとも私も同じヤツを買えってこと?」
「違うよ。一々行ったり来たりや同じゲーム機を買ったりじゃ何か悪いだろ?」
「うーん…そうかな?」
「だから一緒に住めばいいだろ?」
俺からの提案に凪砂が固まる。凪砂はしばらく呆然としていたが、ようやく我に返ると顔を真っ赤にして俺の頭を叩いてきた。しかしその表情は満更でもない。
「いて!」
「このバカ!!一緒になりたいなら最初からそう言え!」
恥じらう凪砂から叩かれつつ、どうにもニヤニヤが止まらない。やれやれ、今日も徹夜になりそうだ。
ご一読ありがとうございました。Switch2欲しい…