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中編 猫に連れられて、停戦のための会議に参加させられた話

 それから三日間、タケルのもとににゃっちが現れることはなかった。しかし、にゃっちと話してからというもの、タケルは猫を見ると、何か話しかけてくるのではないかと構えるようになった。


 猫の国の戦争なんて、正直なことを言えば、タケルの生活に影響がないことである。なぜ自分がそんなことに関わらなくてはいけないのか。


 タケルにとっての日常と、野良猫の日常はまるで別の世界だった。あのときにゃっちにフランクフルトを分け与えさえしなければ、タケルはおそらく一生関わることのない世界の話だった。


 約束の日が近づくにつれ、タケルの足取りも重くなっていく。根が真面目なだけに、自分のせいで両国の関係がさらにこじれてしまったらどうしようという不安が日に日に大きくなり、タケルの両足にからみついていた。


「タケル様、お迎えにあがりました」


 塾帰りのタケルを待ち構えていたにゃっちが、小さな前足を揃えて座っていた。またも例のコンビニの前のことだった。タケルは思わず、一歩あとずさった。


「こちらです」

「にゃっちさん、やっぱり俺、無理だよ」

「何がご不安ですか?」

「何もかもだよ。そもそも猫同士の戦争なんて、俺が出て行ってどうこうできることじゃないでしょ」

「大丈夫です。第三者に居ていただくことが大事なのです」

「犬とかカラスじゃだめなの?」

「犬もカラスもただの動物ですからね」


 にゃっちが笑った。まるで犬もカラスも猫のように話せると思っているのかと言いたげな笑い方だった。タケルはまだいくらでも自分が不適格である理由を挙げ続けようとしたが、それをさえぎるように、にゃっちが歩き出した。


 タケルがついて行くのをためらっていると、どこからか無数の猫の鳴き声が聞こえてきた。姿が見えないぶん、恐ろしい。

 こうなればどうにでもなれと思い、タケルもついににゃっちの後を追った。無言で夜道を歩く一匹と一人。


「こちらです。すでに、お二匹様がお待ちです」


 にゃっちが到着した場所は、団地の角にある駐輪場だった。古い団地で、この時間になるとあまり出入りもない。住人たちからの死角にもなっている。


 タケルを挟んで左右に風格のある猫が二匹鎮座していた。おつきの猫も、それぞれ一匹ずつその後ろにいる。二匹のボス猫はタケルを見ても頭を下げない。


「こんばんは。よろしくお願いします」


 どちらのボス猫も軽く会釈をして返した。タケルになど全く興味を示していない目をしていた。にゃっちは両ボス猫の間に座り、話を始めた。


「これより、茶国と大ひげ国間の停戦にむけた話し合いを行います。なお、これはあくまで非公式会談ということで、内容の記録はとりません。ただ、両国に属さない第三者として、人族である山下タケル様にこの話し合いを見届けてもらいます。そのため、人間が分かる言葉でお話しください」


 わざわざ自分に分かるようようにだなんて、タケルはなんだか気を使ってもらっているようで居心地が悪かった。少し体を小さくして、膝を抱えて体育座りをする。


「双方の被害が拡大し、国民の犠牲も甚大であり、両国にとってこの戦争を継続させることは益がないということは明らかであります。そこで、一定の停戦期間を設け、その期間中に終戦にむけた講和条約の締結を目指すものとします」


 にゃっちがやけに難しい単語を並べたてて、話し合いが始まった。こんな難しい言葉を流ちょうに話すことできる人間なんて、そうそういない。


 タケルはまたも居心地の悪さを感じた。


 にゃっちが二匹のボス猫に確認したことは、大きく三点だった。一つ目が停戦の境界線。三丁目のスーパー山田を非武装中立地帯とし、今後の会談はここのゴミ捨て場で行われることとなった。二つ目は、停戦の期間。これは十二月二十二日、にゃんにゃんの日までとなった。そして、三つ目。現在、茶国のえさ場の一つであった田中さんのおばあちゃんの家に駐留している大ひげ国軍の即時撤退。


 この三つ目の条件が提示されたとき、両国のボス猫の目つきが変わった。大ひげ国国王ゴン三郎がまず口火を切った。


「あの地域は、もともと黒猫が住んでいた地域であり、茶国がその歴史を無視し、かねてより占領していた地域である。我が大ひげ国はその占領に対する独立運動に、人道的支援として軍を派遣したまでよ」


 これに茶国首相とら子が反論する。


「それは違います。確かに、全住民の八割が茶とらである本国にとって、田中さんのおばあちゃんの家をえさ場とする住民は我が国のマイノリティである黒猫です。しかし、黒猫の居住地域には高度な自治権を認め、われらは一つの共同体として平和に暮らしていました」

「ふん。現実が見えていない理想主義者め」

「暴力を正当化するのは常に独裁者と決まっていますね」


 ゴン三郎は、眉間にしわを寄せてのどを鳴らした。尻尾を上げ、頭を下げ、いつでも飛びかかることができる体勢に入る。とら子は全く微動だにせず、ゴン三郎を睨みつけている。

 膠着状態とはまさにこのことで、しばし沈黙の時間とともに夜が更けていった。

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