65:子供の頃の、なんて事のない約束を
ーーあの魔法が使えるようになった。
それを聞いたみんなの空気が緩む。
「あの魔法って何だよ?」
ヨハンがカミールに突っ込んだ。
分かってはいるけど、ヨハンはわざと聞いてくれていた。
カミールは意気揚々とみんなに近付く。
「もちろん〝消える魔法〟だ!!」
カミールが悪ガキのように歯を見せて笑った。
子供の彼がリラに会ってから、幼馴染にはずっと宣言していた願い。
〝消える魔法を手に入れる!〟
本当は〝魔女のリラを手に入れる!〟だったのを、流石に照れ臭いから代わりに言っていた熱い想い。
けれど本当に『魔女のリラを手に入れた』ことで『消える魔法も使えるようになった』なんて……
カミールは嬉しくてほほ笑んだ。
自分が長年願っていたことがついに叶って。
それをバタバタが収まったからやっと実感出来て。
すごい偉業を成し遂げたことを、幼馴染たちに〝消える魔法が使えるようになった〟と言って、ちょっとだけ誇示したくなってしまった。
「あはは! 子供の時からそんなこと言ってたね」
ユリアが楽しそうに大笑いした。
カミールも釣られて笑いながら答える。
「そうそう。初めは〝消える魔法〟が使えるって見栄を張って言っちゃったんだよな」
「カミールいつもそんな感じだったからなぁ。他にもいろいろ大袈裟に言っていたよねぇ」
ユリアの隣にいたカトリナが正直に答える。
他の幼馴染もうんうんと頷く。
昔の懐かしい雰囲気にカミールは楽しくなってきた。
「フフッ。カトリナの言う通り、よく出来もしないことを偉そうに言ってたなぁ……けど〝消える魔法〟だけは…………本当に出来るようになったんだ……」
けれど言い終わらない内に、切なげな表情を浮かべてしまった。
この中で唯一全ての事情を知っているオリバーが、しんみりし始めたカミールに声をかける。
「……ついにあっちに行くのか?」
カミールはオリバーをゆっくり見返して頷いた。
「あぁ。けど最低1年に1回は戻ってくるつもりだし……お前の商会が大きくなっているか、その度に確かめに行くからな!」
カミールはそう言って笑った。
するとそれを聞いたフランツが不安そうに聞く。
「…………カミール、どこかに行って帰ってこないのか? もしかして、あの魔女さん関係?」
「そうなんだ。リラの所に行くと、なかなか戻ってこれないから……」
カミールがそう言うと、今度はハンスが声を上げた。
「俺とユリアの結婚式に招待したかったんだけど、カミールは来れないのか?」
「え、あー……気を付けたら行けるはず! てか絶対参加したい! ちなみにいつ頃?」
「半年後のーー」
カミールとハンスが具体的に打ち合わせを始めた。
すると他の幼馴染たちが各自で喋り始める。
「しっかし、ビックリしたよなー」
「本当だよね。でもイルゼが助かって良かった」
「あ、リアリーン教会の人たちが建物から出て来てるぞ」
「野次馬も解散したし、騒ぎは完全に終わった感じだな」
わいわいガヤガヤと騒がしくなる中、ハンスと話し終えたカミールが、ふと遠くで見守っているマティアスに目を向けた。
彼は従者に何かを告げられると立ち上がり、チラリとカミールの方を見た。
ほんのちょっとだけ目を合わすと、立ち去りながらもカミールに向けて右手を挙げる。
カミールは頭を下げてマティアスを見送った。
そんな2人のやり取りが密かに終わると、カミールが声を張った。
「と、言うことだから。会える回数が減るけど、みんな元気でな! そして特別に君たちに〝消える魔法〟を見せてあげよう」
カミールが「フッフッフッ」とわざとらしく笑って両手を腰に当てた。
他のみんなも笑いながらヤジを飛ばす。
「えー?」
「本当かよ!?」
「大袈裟に言うと、後で恥かくぞー」
「「あはははは!」」
ひとしきり笑い終わったあと、カミールはゆっくりと手を下ろして視線を少し下に向けた。
リラに言われた通り、聖石の本体の気配を探る。
リアリーン教会で捕まっていた時に、聖石の力を放出させたことが役に立った。
その時に聖石の力の波長はすでに掴めていた。
あとはその力の源を集中して探る。
…………
あった。
近くに……リラのものも感じる。
カミールは穏やかな笑みを浮かべて目を閉じた。
彼の体が暖かい光に包まれる。
その暖かい何かが、体の奥から隅々に巡り渡っていく。
上手く転移する流れに乗れたカミールは、そっと目を開けた。
自分の両手を見てみると、リラが転移する時のように薄っすら透け始めている。
彼を包む光もますます強さを増しており、ここに留まれる時間があと少しであることを示していた。
カミールは顔を上げてみんなに向けて笑った。
「な? すごいだろ?」
幼馴染たちは驚いていたり、感激していたり、それぞれの反応をしていたけれど、カミールの呼びかけに笑いながら頷いてくれた。
あの頃となんら変わらない、優しくて賑やかな空気が流れる。
カミールは感傷にひたって泣きそうになった。
けれど涙をグッとこらえて笑顔を浮かべ続ける。
たとえ強烈な光に包まれて、辺りが見えなくなってしまっても。
「覚えておいてくれよ! 俺は……〝消える魔法を今度絶対見せてやる〟って言った、子供の頃の約束を守ったぞ!」
カミールが大声で想いを伝えると同時に、強烈な光が収まった。
…………
こうして無事に、カミールはみんなの前から姿を消した。




