64:最後のその前に
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「カミールくん。もう大丈夫だよ」
肩をトントンと叩かれてカミールが顔を上げると、クルトをはじめとするみんなに取り囲まれていた。
「……イルゼは!?」
カミールがハッとして腕の中のイルゼを見ると、気を失った彼女が目を閉じて眠りについていた。
安らかな表情のイルゼの頬からは、紋様が綺麗に無くなっていた。
腕の紋様も見る限り消え去っている。
けれど……悪魔と融合した魂がどうなったかは分からない。
「クルトさん、あとはお願いします……」
カミールは警備隊たちにイルゼを引き渡した。
簡易的な担架が用意されており、眠ったままのイルゼを優しく横たわらせる。
そこに、今まで宙に浮いていたリラが舞い降りた。
「ちょっと待ってくれる? 戦っている時に思い出したんだけど……」
リラは言い終わらない内に、担架に横たわるイルゼの右手を握った。
1度目を閉じて大きく深呼吸してから、ギュッと手に力を込める。
そしてーーーー
リラが全身から聖力を発した。
「っ!?」
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
カミールやクルト、そしてレーニィと言った魔術師たちが思わず身構える。
リラの力の圧をもろに受け、底知れぬ恐怖を感じたからだ。
レーニィが後ろによろけながら、思わずといったように呟く。
「……すごい。さすがリラ様……」
するとイルゼの体が一瞬黒く光った。
かと思うと、胸のあたりからポンッと黒くて丸い光が飛び出す。
それをすかさずリラが手で掴んだ。
ちょうど丸い光には尻尾みたいな所があり、そこを掴まれたからか、光はブルブル震えて困っているように見えた。
リラは力を発することをやめて、その丸い光に向かって目を細めて美しく笑う。
「フフッ。圧倒的な力の差を見せつけると、逃げようとするのはどの悪魔も変わらないのね」
その妖艶な笑みと、先ほどまでの人離れした力の強さに一同はドキリとした。
過去に悪魔と何があったんだろう?
と気になるものの、誰も言葉に出して聞ける雰囲気じゃない…………
「………………」
時が止まったかのように誰も動けずにいたけれど、イルゼの「ぅう゛……」というくぐもった声に、みんなの金縛りが解けた。
「大丈夫か?」
「ひとまず安静に出来る場所に運ぼう」
「警備隊の方、イルゼをお願いします!」
「カミールやったな!」
「これでもうイルゼの寿命は元通り?」
「多分……」
そんなこんなで、警備隊はこの場から撤収する作業を進めた。
幼馴染たちはイルゼの寿命について知りたくて、頼りの魔女を一斉に見る。
するとリラは、魔法で悪魔の光をどこかに転移させると、みんなに向かってトロンとさせた眠そうな目を向けた。
頬を赤く染めてフニャりと魔女が笑う。
「うん。大丈夫だと思うよぉ……」
「リラッ!」
カミールがフラリとしたリラを慌てて支えた。
「……こっちにいるのが限界なんだな?」
「…………うん」
カミールがリラの顔を覗き込むと、彼女は潤んだ瞳で眉を下げて頷いた。
窺うようにカミールを上目遣いで見る様子は、相変わらず誘っているようにしか見えない。
そんなリラの体がほのかに光り始めた。
カミールが慌てて彼女を抱きしめる。
「お、俺もそっちに行く! やっと一緒に過ごせるのに、リラに突然会えなくなって辛かったから!!」
カミールがその時の不安を打ち消すかのように、リラをぎゅうぎゅう抱きしめた。
彼の胸の中でリラがクスクス笑った。
そしてカミールの背中に手を回し、抱きしめ返す。
「じゃあおいで。聖石の本体の気配を探ってみて。そこに移動したいと願えば、今のカミールなら次元を移動出来るよ。その前に…………」
リラがゆっくりと体を離して横を向いた。
もう薄っすら消え始めた彼女の視線の先に、カミールも顔を向ける。
そこには驚きながらも、カミールたちを見守る幼馴染たちがいた。
「せっかくだから、大事な人たちに挨拶してきたら? 私の世界で過ごし出すと、会える回数が減っちゃうから……」
リラが穏やかにカミールを見つめた。
彼女はたくさん別れの辛さを経験してきた。
だからそれが少しでもマシになるように、カミールにいつも心を砕いてくれる。
カミールはそんなリラの優しさが嬉しくて、愛おしくて、彼女の頭を撫でた。
本当は抱きしめてキスをして……溢れる気持ちをもっと伝えたかったけれど、幼馴染たちの前なのでセーブした。
リラは気持ちよさそうに目を閉じてニコニコしている。
「……そうするよ。ありがとう」
消える寸前のリラに向けて、カミールが静かに告げた。
「私は先に戻って待ってるね」
コクリと頷いたリラは、それを最後に光と共に姿を消した。
しばらくリラが居なくなった空間を眺めていたカミールが、みんなの方へ振り向いた。
そして自慢げにニッと笑いながら、高らかに宣言する。
「俺、やっとあの魔法が使えるようになったんだぜ!」




