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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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64/66

64:最後のその前に 


 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー



「カミールくん。もう大丈夫だよ」

 肩をトントンと叩かれてカミールが顔を上げると、クルトをはじめとするみんなに取り囲まれていた。


「……イルゼは!?」

 カミールがハッとして腕の中のイルゼを見ると、気を失った彼女が目を閉じて眠りについていた。

 安らかな表情のイルゼの頬からは、紋様が綺麗に無くなっていた。

 腕の紋様も見る限り消え去っている。


 けれど……悪魔と融合した魂がどうなったかは分からない。


「クルトさん、あとはお願いします……」

 カミールは警備隊たちにイルゼを引き渡した。

 簡易的な担架が用意されており、眠ったままのイルゼを優しく横たわらせる。


 そこに、今まで宙に浮いていたリラが舞い降りた。

「ちょっと待ってくれる? 戦っている時に思い出したんだけど……」

 リラは言い終わらない内に、担架に横たわるイルゼの右手を握った。


 1度目を閉じて大きく深呼吸してから、ギュッと手に力を込める。

 

 そしてーーーー


 リラが全身から聖力を発した。


「っ!?」

「うわっ!?」

「きゃっ!!」


 カミールやクルト、そしてレーニィと言った魔術師たちが思わず身構える。

 リラの力の圧をもろに受け、底知れぬ恐怖を感じたからだ。


 レーニィが後ろによろけながら、思わずといったように呟く。

「……すごい。さすがリラ様……」

 

 するとイルゼの体が一瞬黒く光った。

 かと思うと、胸のあたりからポンッと黒くて丸い光が飛び出す。


 それをすかさずリラが手で掴んだ。

 ちょうど丸い光には尻尾みたいな所があり、そこを掴まれたからか、光はブルブル震えて困っているように見えた。

 

 リラは力を発することをやめて、その丸い光に向かって目を細めて美しく笑う。


「フフッ。圧倒的な力の差を見せつけると、逃げようとするのはどの悪魔も変わらないのね」

 

 その妖艶な笑みと、先ほどまでの人離れした力の強さに一同はドキリとした。


 過去に悪魔と何があったんだろう?

 と気になるものの、誰も言葉に出して聞ける雰囲気じゃない…………




「………………」


 時が止まったかのように誰も動けずにいたけれど、イルゼの「ぅう゛……」というくぐもった声に、みんなの金縛りが解けた。


「大丈夫か?」

「ひとまず安静に出来る場所に運ぼう」

「警備隊の方、イルゼをお願いします!」

「カミールやったな!」

「これでもうイルゼの寿命は元通り?」

「多分……」

 

 そんなこんなで、警備隊はこの場から撤収する作業を進めた。

 幼馴染たちはイルゼの寿命について知りたくて、頼りの魔女を一斉に見る。


 するとリラは、魔法で悪魔の光をどこかに転移させると、みんなに向かってトロンとさせた眠そうな目を向けた。

 頬を赤く染めてフニャりと魔女が笑う。


「うん。大丈夫だと思うよぉ……」

「リラッ!」

 カミールがフラリとしたリラを慌てて支えた。


「……こっちにいるのが限界なんだな?」

「…………うん」

 カミールがリラの顔を覗き込むと、彼女は潤んだ瞳で眉を下げて頷いた。

 窺うようにカミールを上目遣いで見る様子は、相変わらず誘っているようにしか見えない。


 そんなリラの体がほのかに光り始めた。

 カミールが慌てて彼女を抱きしめる。


「お、俺もそっちに行く! やっと一緒に過ごせるのに、リラに突然会えなくなって辛かったから!!」

 カミールがその時の不安を打ち消すかのように、リラをぎゅうぎゅう抱きしめた。

 彼の胸の中でリラがクスクス笑った。

 そしてカミールの背中に手を回し、抱きしめ返す。


「じゃあおいで。聖石の本体の気配を探ってみて。そこに移動したいと願えば、今のカミールなら次元を移動出来るよ。その前に…………」

 リラがゆっくりと体を離して横を向いた。

 もう薄っすら消え始めた彼女の視線の先に、カミールも顔を向ける。


 そこには驚きながらも、カミールたちを見守る幼馴染たちがいた。


「せっかくだから、大事な人たちに挨拶してきたら? 私の世界で過ごし出すと、会える回数が減っちゃうから……」

 リラが穏やかにカミールを見つめた。

 

 彼女はたくさん別れの辛さを経験してきた。

 だからそれが少しでもマシになるように、カミールにいつも心を砕いてくれる。


 カミールはそんなリラの優しさが嬉しくて、愛おしくて、彼女の頭を撫でた。

 本当は抱きしめてキスをして……溢れる気持ちをもっと伝えたかったけれど、幼馴染たちの前なのでセーブした。

 リラは気持ちよさそうに目を閉じてニコニコしている。



「……そうするよ。ありがとう」

 消える寸前のリラに向けて、カミールが静かに告げた。


「私は先に戻って待ってるね」

 コクリと頷いたリラは、それを最後に光と共に姿を消した。

 





 しばらくリラが居なくなった空間を眺めていたカミールが、みんなの方へ振り向いた。


 そして自慢げにニッと笑いながら、高らかに宣言する。


「俺、やっとあの魔法が使えるようになったんだぜ!」



 


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