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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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54/66

54:逢えない


 倒れるようにして眠ったカミールは、3日目の朝にしてようやく目覚めた。


 眩しい日差しの中、ムクリと起き上がった彼は、伸びをしながらリラを探して視線をめぐらせる。

 当然、彼女の姿はどこにも無かった。


「さすがに帰ってるか……」


 次にカミールは自分の体を見下ろした。

 リラが魔法をかけてくれたのか、血であんなに汚れていたはずの服や寝具が綺麗になっている。

 まるで何事も無かったかのようだ。


 けれど〝誓約〟をリラと交わしたのは確かだった。

 体の奥底に感じる()()()

 カミールの体の中に聖石が根付いている証拠だった。


 何だか暖かい物を飲み込んで詰まっているような……

 とりあえずまだ慣れない。

 

 カミールはベッドから立ち上がった。

 他にどこか変わった所は無いかと、キョロキョロと自分の体をくまなく見る。

 以前と変わらない彼の体は、痛む所も無く、穏やかな力がみなぎっているようにさえ感じた。


 こうしてカミールは〝誓約〟のおかげで一命を取り止め、これを機に聖石の影響で体調を崩すことは無くなった。




 **===========**


 これでようやくリラの隣に並ぶことが出来た。


 そう思っていた矢先に、大変な事態になっていることにカミールは気付いた。

 魔法の金庫の鍵を使っても、リラが住む世界へ行けなくなっていたのだ。


「…………拒否……されてる?」

 カミールは何も反応しなくなった鍵を思わずじっと見つめる。

 

 うーん、別れ際のリラはすごく怒っていたけど……

 せっかく一緒に過ごせる体になったのに、機嫌を損ねてるのか??


 彼は〝誓約〟が結べた時の自分の浮かれようがまずかったかなと少し後悔し、鍵に向かって半笑いを浮かべていた。


 


 ーーーーーー


 それからも鍵は全く反応せず、焦るカミールを嘲笑(あざわら)うかのように時間だけが過ぎていった。

 そして気付けば、リラと会えなくなって1ヶ月半が過ぎようとしていた。


 カミールがリラの世界に行けなくなってしまうと、彼女から会いに来てくれない限り、他に会える(すべ)がない。


 彼は不安な自分を必死に励ました。

「落ち着け、カミール。リラの1日はこっちで40日。きっと爆睡しているだけだ……」


「ここずっと、お前の独り言が多くて不気味なんだけど」

 執務机に向かって仕事に勤しんでいるオリバーが、顔も見ずに言ってきた。


 カミールはオリバーの商会の館に来ていた。

 今はオリバーの執務室で、カミールのお客様が到着するのを待っている時間だった。


 そんな暇な時にどうしてもリラのことを考えてしまうカミールは、心の声を全て言葉に出していたようだ。

 しかも今日だけで無くだいぶ前から。


「だってリラが会いに来てくれないんだぞ」

「それを世間では〝愛想を尽かされた〟って言うんだ」

 またオリバーから顔も見ずに鋭い指摘をされた。


「…………」

 カミールは黙り込んでしまった。


 仕事場だけでなく、家でも心配されていた。

 以前は2、3週間連続してカミールが家にいると「リラさんとケンカしたの?」と尋ねてくれていた母親も、1ヶ月半にもなると何も言わなくなった。

 その気遣いが逆に心苦しい。


「はぁ。怒ってるだけならいいけど……向こうで何かあったのかな……」

 カミールがまたブツブツ言っていると、執務室にオリバーの部下が入ってきた。

 彼がオリバーに耳打ちして何かを伝える。


「……分かった。通してくれ」

 オリバーは小さく頷くと部下に指示を出した。

 それからカミールをジッと睨むように見る。


「お前に会いたい奴が訪ねてきたそうだ。教会の関係者でややこしそうだから、カミールがすぐに対応してくれ」

 オリバーは、カミールが接客に使っている隣の部屋への扉を、あごで指し示した。


 オリバーはあまり信仰については興味が無く、どちらかというとそっち界隈の人たちを煙たがっていた。

 だから教会の関係者が来たと聞いて、彼の機嫌が悪くなっている。


「……りょーかい。それにしても誰だろう?」

 沈んだままのカミールはのろのろと立ち上がると、気持ちを切り替えて隣の部屋へと向かっていった。




 カミールが扉を開けて部屋に入ると、ちょうど向こうもお客用の扉から入ってきた。

 お互いの視線がバチっとぶつかる。


 一瞬の緊張の後に、カミールはフッと緊張を解いた。

「俺に会いたいってレーニィだったのか。どうしたんだ?」

 カミールはひとまずソファに座った。

 レーニィにも座ることを勧めたけれど、彼女はフルフルと三つ編みを左右に揺らして、扉の前から微動だにしなかった。

 そして大きな丸メガネの奥から、ジロリとカミールを見る。


「リアリーン様のことで、新しく分かったことがあるの」

 レーニィは立ったまま、カミールに話しかけた。

 どうやらこのまま話を進めるようだ。


「え?」

「カミール、知っといた方がいい。聖なる力のことだから」

 

 半ば説得するようなレーニィの言いように違和感を感じながらも、カミールは考えてみた。


 もう特にリラの過去について詳しく知る必要は無いし、何なら本人に聞けばいいんだよなぁ。

 

 って、その本人に会えないか……


 はぁ。


 思考が違う方向に進み始め、カミールが一気に暗くなる。


「??」

 レーニィが不思議そうに首をかしげた。

 カミールはそんな彼女の丸メガネをぼんやり見つめながら更に考える。

 

 待てよ…………もしかしたら、現状を変えられる何かを知れる……かも?


 そう思い直したカミールは、少しだけ清々しい心持ちでレーニィに返事をした。

「ありがとう。それは気になるから教えて欲しい」

「……古い書物だから、教会で。特別に見せてあげる」

 そう言って何故かうつむいたレーニィは、浮かない顔をしているようにも見えた。


 けれど無表情にも見える彼女の表情からは、それ以上読み取ることは出来なかった。

 

「じゃあ今日のここでの仕事が終わったら、リアリーン教会に行くよ」

 段々と元気が出てきたカミールは、古いその書物が〝もしかしたらリラの先生が書いたものかもしれない〟と期待を膨らませる。

 

「…………分かった」

 レーニィは頷くと、くるりと背中を向けて足早に部屋を出ていってしまった。


 相変わらず淡々とした様子のレーニィに、カミールは苦笑を浮かべて見送った。

 



「あれ? それにしても何でここにわざわざ来たんだろう?」

 カミールは首をひねった。

  

 まぁレーニィは俺の家の場所とか知らないし、俺がここで働いている噂でも聞いたのかな?


 なかなか有名になったもんだなぁ。



 

 何も知らないこの時のカミールは、呑気にそんなことを考えていた。


 


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