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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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53/66

53:君と……


「……リラ…………リラージュラフィーリア。〝誓約〟を結ぼうか……」


 カミールの弱々しい声の呼びかけに、リラはこぼれんばかりに目を見開いて彼を見つめた。

 そして「いや……やめて……」と小さく呟きながら顔を横に振る。

 



 ジークベルト国王が【聖石】の近くでリラと【誓約】した。

 その代償に【命】を捧げて。

 そして永遠に続く時を、聖石のそばに縛り付けられてしまった哀れで健気な魔女ーー


 カミールは痛みに悲鳴をあげている体を落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸をした。


 それが終わると、穏やかにリラを見つめて語り始める。


「……俺は……ずっとリラを解放してあげたかった……聖石のそばから……」

「…………カミール、やめて」

 リラが横たわるカミールの顔を上から覗き込みながら、必死に顔を振る。


「〝誓約〟の存在を知ってから…………ずっと、考えてたんだ……リラが縛られている誓約を……どうにかしたかった」


「……誓約は私にとって強制的なの。命を対価にするの。そんな誓約、結ばないで……」

 リラの瞳から涙が次から次へと溢れた。

 そしてこの状況をどうにかしようと、顔をあげて辺りを見渡す。


 けれど結局何も出来なかった。

 彼女はどうすればいいか分からなくなって、ただただ涙を流した。


 カミールを死なせたくない気持ちと、〝誓約〟を結ばないためにこの場から離れたい気持ちがせめぎ合う。

 

 けれどもし今カミールから離れてしまったら……

 

 次に会う彼は、息をしていないかもしれない。




 カミールは痛みに耐えながらも続けた。

「……くぅぅ。…………もう……俺の体は無理なようだから…………リラのために使いたい……」

「っ!! そんなの全然嬉しくない!」


「これからは、もう独りじゃない…………俺は、リラージュラフィーリアと〝誓約〟をーー」


「カミールッ!!」

 リラは思わずカミールにキスをして口を塞いだ。

 彼女の涙がカミールの頬を濡らし、リラはほんのり血の味を感じた。




 ゆっくりとリラが顔を離すと、泣きながらカミールに懇願する。


「お願い。それ以上何も言わないで……」

 

 けれどカミールは優しくほほ笑むと、無情にも続きを口にした。


「俺は〝誓約〟を結ぶ……! リラージュラフィーリアと同じ時を過ごし、一生添い遂げることを! 対価は……俺の命だ!!」


「…………えええぇ!?」



 リラは間の抜けた絶叫を上げた。

 それと同時に、カミールの体がほのかに光り始めた。

 体の中で聖石が輝いているかのように、カミールは淡い紫色をした暖かい光に包まれる。


 それが徐々に真っ白なものに変わり、光も強さを増していく。

 

 カミールは自然と目を閉じた。

 体の内から何やら暖かい物が湧き出し、体中を巡っていく感覚が心地良い。

 

 大きな流れに身を任せるように、彼は不思議と落ち着いた気持ちで変化を受け入れた。

 体を蝕んでいた痛みや苦しさもいつの間にか無くなっており、体が元の状態に戻ったこともなんとなく感じた。


 ーーーーーー


 そうして光が収まった頃にカミールが目を開けると、リラが両手をお皿にした上に、ほわっと輝く光の玉を乗せていた。


 それを訳もわからず見つめているリラは、もう泣いてはいなかった。

 変わりに眉を下げて困惑している。


「…………まぁいっか」

 リラがポツリと呟くと、その光をゆっくりと自分の胸に押し当てた。

 すると光が徐々にリラの体の中に入っていき、全て入りきると彼女の全身がほわっと優しく光った。


 カミールがそれを見ながら感心する。

「ふーん。〝誓約〟で俺の体がリラと同じ体質に変化した代わりに〝命〟がリラ預かりになったのか。リラが死ぬ時は俺も死ぬ……みたいな? けどリラは不老不死だからな〜」


「……カミール……元々こうする予定だったの?」

 リラが呆れながらカミールを見た。


「?? どういうこと? あー、命を対価にするのに、逆説的に不死を願ったことが賭けすぎるって? まぁやってみないと分からないし〜」

 カミールはニコニコしながら起き上がった。

 自分の考えが上手くいって嬉しくなっている彼は、怪訝(けげん)な表情のままのリラを勢いよく抱きしめる。


 リラはカミールの腕の中で、モゴモゴと不平を言った。

「途中まではカミールの命と引き換えに、私の前の誓約を無効にするみたいな話してたじゃん」


「んー? そうか?? ……けどそれなら俺が死んで終わりだろ? 残ったリラが可哀想過ぎる。聖石の近くでいなきゃいけないけど、永遠の時を一緒にいれる方が断然いいよなー」

 1人浮かれ切っているカミールが、ムギュムギュとリラを抱きしめた。


「最初からちゃんと言ってよ!」

 リラが力を入れずにポコポコとカミールを叩いて叫ぶ。

「心配したんだからっ!! 死んじゃうって本気で思ったんだからっ!!」


「あははっ! いてっ。いてっ」

 カミールは甘んじて叩かれながらも、幸せそうに笑い続けた。

「あははははっ…………あれー……いきなり目眩が……」

 けれど、体の急激な変化に疲れた彼は、フラリと倒れるようにベッドに横たわった。

 力も入りづらくなっており、起き上がれそうにない。


「……はしゃぎ過ぎたかな……」

 カミールはリラに向かってニコリとほほ笑むと、重くなった(まぶた)が自然に下がっていった。


「もう……知らないっ」


 眠りにつく前にカミールが最後に見たのは、むくれて顔をプイッと背けるリラの姿だった。 





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