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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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52/66

52:君と……


 深い深いカミールの意識の底で、リラの声がわずかに聞こえていた。

 

 彼女の小さくてか細い声。

 初めは途切れ途切れ聞こえるその声が、歌っているようにも聞こえた。


 けれどよく耳を澄ますと、それが泣き声だということに気付く。


 リラはクスンクスンと静かに泣いていた。

 彼女は声を押し殺して泣くのがクセのようで、その様子は見る者の胸を余計に締め付ける。


 ……リラが泣いてる……


 


 カミールは意識が戻ってきた。

 鉛のように重い体は、背中側がベッドに沈み込んでいるのを感じた。

 すると、ずっと続いている胸苦しさや頭の痛さが、改めて主張してくる。

 

 痛みに耐えながら目を開けると、そこは自分の部屋のベッドだった。


 窓から見える外は暗くなっており、部屋のランプが辺りを照らしている。

 (かたわ)らにはリラが椅子に座っていて、カミールの横に突っ伏していた。


 そんな彼女の頭を撫でて名前を呼んだ。


「……リラ」

 

 ガバッと顔を上げたリラが、泣き濡れた瞳にカミールを映す。


「……ぅぅ。カミール……死なないで」

 そして顔を歪めて泣き崩れた。

 

 リラの手元には血で汚れたタオルがあった。

 意識を失っていた間も吐血していたようで、カミールの口の中は鉄の味がした。


 彼は手をゆっくり上げて、リラの涙を指で拭う。

 大丈夫だからと気持ちを込めて、口の端を弱々しく上げた。

 けれど苦しさに耐えられなくて、早々に目を閉じて手を下ろした。

 

 

 パタリと力無くおちたカミールの手を、リラが呆然と見つめていた。

 固まっていた表情が、切なげに眉をひそめて奥歯を噛みしめるものに変わる。


「……もう……もうやめよっか。聖石による影響が強すぎるから。このままじゃカミールが死んじゃう……」

 なんとか絞り出した彼女の涙声が部屋に響く。

 そしてカミールの耳から、聖石のイヤーカフを外した。


 目を閉じたままのカミールは、イヤーカフを握ったリラの手を手探りで掴んだ。


「……取る……な……」

「……こんな小さな聖石で、こんなに影響が出るなら無理なんだよ」

 リラはカミールに聖石を渡すまいと、更に手を握りしめた。

 それでもカミールは諦めずに、彼女の手を掴み続けている。

 

 リラは恋人のために意を決して告げた。


「どれだけ時間をかけても、カミールの体が私の次元に慣れることは出来ないの」

 

 

 彼女の告白の後、部屋が静まり返った。




 リラの小さなため息と共に、彼女の悲しげな声が続く。


「それでもいいよね。違う世界で生きて、今までみたいに会えれば……」


 そこまで言うと、彼女はうつむいて(まばた)きをした。

 綺麗な雫がポロポロと落ちていく。

 

 カミールはゆっくり目を開けてリラを見つめた。

「……でもそれだと……俺は普通に寿命を迎えるんだろ? リラの時間で……2年もしないうちに」


「…………」

 リラがそろそろと目線を上げて、カミールを見つめ返した。


「俺は……不老にはなっているけど……ただそれだけだから」


「…………」

 リラは何も言わずにまた目を伏せた。

 

 それが何よりの肯定だった。




「ゴホゴホッ!!」

 カミールが横を向いて咳き込んだ。

 口から飛び出た鮮血がシーツを赤く染める。


 …………

 

 彼は体が弱り切っていくのを感じていた。

 命の(ともしび)が確実に消えていっている。


 

 カミールはどうすればいいのか分かっていた。

 ずっと分かっていた。


 そして今がーー


 その時だと。

 

 




 カミールは力を振り絞って、リラの手からイヤーカフを奪い取った。


「!? 何するの!?」

 

 不意をつかれたリラが、取り戻そうと必死に手を伸ばす。

 けれどもう遅かった。

 

 カミールは聖石をイヤーカフごと飲み込んだ。


「カミール!?」

 リラが悲鳴をあげる。


「……リラの、真似……」

 カミールがおどけて笑おうとした。

 けれどすぐに苦痛で顔を歪めてしまう。


「っなんてことを!? 体内に無理矢理取り入れるなんて、死ぬのを早めるだけだよ!!」

 リラが大泣きしながら怒りをあらわにした。

 聞き分けの無い子供のように、わんわんと泣きじゃくる。

 

 けれどカミールの次の言葉を聞いて、リラはピタリと泣くのをやめた。




「……リラ…………リラージュラフィーリア。〝誓約〟を結ぼうか……」




 **===========**


 カミールは7歳の時にリラと出会ってから、ずっと疑問に思っていることがあった。

 

〝どうしてリラが、聖石のそばにいる必要があるんだろう?〟と。


 リラの住む世界には人がいなかった。

 そのため、いくら聖石が暴走しようがこの世界内に影響が留まるなら、放っておいてもいいことになる。

 だからリラがそばに居なくもいいはず。


〝……たとえリラが不老不死でも、俺たちと同じ時間を過ごした方が、人との繋がりが出来るのに〟

〝2年で知ってる人が総入れ替えするより、60年で入れ替わる方がいいんじゃ……?〟

〝けれど、大事な人を見送り続けた過去が辛くて、人と距離を置きたいのかな?〟


 そう思った少年のカミールは、注意深く彼女を観察するようになった。


 すると段々分かってきた。

 リラは、自ら望んで聖石のそばにいる訳ではないことが。




 じゃあそうなった理由は?

 

 答えは女神ルゼワールの本の中にあった。

 

『ジークベルト国王は女神と誓約を交わす』

『その御身の命と引き換えに』

『女神はジークベルト国王の願いを叶え、世界の歪みを消滅させた』


 ……ジークベルト国王は、リラと〝誓約〟を交わしたんだ。

 おそらく当時の2人はそんなつもりは無かった。

 たまたま条件が揃ってしまった……




 リラが以前にした発言もある。


『私に〝願い〟を叶えてもらおうとするなら、お金より大切なものを差し出さなきゃいけない』

 

 リラと〝取引〟をする時は、彼女が差し出すメニュー表……彼女が提示したものから選ぶ。

 けれど取引よりも上の存在である〝誓約〟

 それは……命と引き換えに願いを叶えることが出来る。




 リラが自分の過去の話をしてくれた時に、あきらかにカミールに詳しく話さなかったことがあった。

 それは、ジークベルト国王が亡くなったその後。


『…………ジークベルトが亡くなって、ショックを受けてしまった私は……聖石と違う次元の世界へと渡ったの。もう誰も失いたくなかったから』


 国王が亡くなる前は〝世界の果てに行く〟はずだった。

 けれど違う次元の世界へと渡っている。

 それほどの力が身についた出来事が、彼女に起こったのだ。

 

 


 ……そして、リラがこの話をカミールに伝えなかった理由……


 リラと交わす〝誓約〟の内容は自由なのだ。

 彼女はどんな内容でも(あらが)えない。


 リラはカミールのために秘密にしていたのだ。

 

 いざという時に、命をかけてしまわないように……



 


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