51:どっちにしろ騒ぐ
しばらくするとリラは無事に見つかった。
リアリーン教会からだいぶ進んだ広場のベンチに、彼女は座っていた。
リラはカミールが教会前で立ち止まったことに気付かず、1人で先に進んでいたのだ。
はぐれてしまったことに気付いた彼女は、姿を消す魔法を解除して大人しく待つことにした。
カミールが彼女を探して広場に到着した時、リラはぼんやり空を眺めていた。
そんな彼女の近くには、話しかけるか迷っている男性が。
チラチラとリラを見てはタイミングを狙っている。
けれどあまりにもリラがボーっとしているものだから、動けずにいるようだった。
カミールが慌てて彼女を呼ぶ。
「リラッ!」
「あ、カミールどこに居たの?」
リラがベンチから立ち上がって、彼の元に駆け寄った。
今日のリラは、旅用の服装と言って見せてくれた、1番無難な服装だった。
シンプルな白いギャザーブラウスに、ウエストはビスチェのようなレザーベルト、それに膝上丈のフレアスカート。
それに、膝より上まである長いソックスを合わせている。
薄っすら透ける素材の黒いソックスは少しエロかったけど、カミールはまぁ良しとした。
「今日の服は、あんまり刺激しないからいいな。あいかわらず胸の存在感はすごいけど」
「…………やっぱりこれが合格なのね。カミールが騒がない服を探してみてるんだけど、難しいな」
リラは、格好によってカミールがいちいち反応することが面白いようで、楽しそうに笑っていた。
それから2人は腕を組んで歩き始めた。
今日はリラが魔法薬に使う薬草を買い求めに来ていた。
薬草を専門に扱う店を目指して、ゆっくりと歩く。
そう、歩く。
案の定リラが疲れてきたのか、ペースダウンし始める。
「……カミール、疲れちゃった」
ついには立ち止まってしまい、リラは自分の膝に手をついて前屈みになり、カミールを見上げる。
…………
このぐらいの谷間アピールなら、負けなくなってきたぞ!
カミールは勝手に何かと戦っていた。
「もう少しなんだけどなー……」
彼はそう言いながら店がある方角へと視線を向ける。
すると、その先にいる遠くの男性の行動が目についた。
彼が何もない所で、突然しゃがんだからだった。
その男性の目線は……リラのちょっと突き出したお尻らへん……
「リラ、ちゃんと真っ直ぐ立って!」
「え??」
カミールの剣幕に驚いたリラは素直に立った。
「次は俺に背中を向けて。そう」
「??」
リラは不思議そうにしながらも、カミールの言うことに従った。
「あー、靴の紐が解けたー」
カミールがわざとらしく、しゃがみ込む。
恋人としてのパンチラ度チェックだった。
……今日のスカートは確かに短めだけど。
そんなことを思っている時だった。
フワリと風が吹いて、リラのスカートを少しだけはためかせた。
「!?」
カミールは舞い上がったスカートの裾からチラリと見えた物に驚愕した。
慌てて立ち上がり、リラのスカートを押さえる。
「わぁっ!? いきなりお尻を触らないでよ」
驚いたリラが、後ろ手で自分の腰の下の方に両手をつきながら、くるりとカミールの方へ振り向いた。
するとリラの目の前には、わなわなと震えているカミールが……
「カミール、どうしたの??」
心配そうにリラが見つめる。
「っなんて物を身に付けてるんだっ!?」
「え? 何のこと??」
「あれは何て言うんだ……ソックスを留めている紐みたいなエロいアイテム……」
何故かショックを受けて唖然としているカミールが、震える声で喋った。
「あぁ。ガーターベルトね。別に普通の下着だよ?」
リラがそう言ってピラリとスカートの裾をめくった。
絶妙にソックスの端とそこを留めている留め具だけを見せてくれる。
「!? こんな往来でくっそエロい物を見せるなって! はっ! あいつこれを覗こうとしたんだな!?」
カミールがさっきまで不自然にしゃがみ込んでいた男性がいた場所を睨んだ。
けれどもうそこには誰もいなかった。
「……カミール、落ち着いて。こんな丈の長いソックスを履く時は、みんなこんなベルトをつけるよ。でないと履き口が緩くてずり落ちちゃうの」
「…………早く帰ろう。そんな物を外でチラ見せしないで。そして部屋でじっくり見せてくれ!」
カミールが欲望のままに叫ぶと、リラの手を握った。
そして目的の店へと足早に歩く。
引っ張られるようにして歩き出したリラは、彼に渋々ついていった。
さっき疲れたと申告したはずなのに、カミールの騒ぎ様に黙っておくしかない空気になっている。
「……足を出しすぎると騒ぐから、隠してみたのに……どっちにしても騒ぐんだ」
カミールの背後から、リラのクスクス笑う声が聞こえた。
「カミールって可愛いよね」
カミールが〝子供扱いするなよ〟と言おうとして振り返った時だった。
「………っ! ゴホッ! ゲホゴホッ!!」
いきなり喉につかえを感じ、激しく咳き込んだ。
思わず立ち止まって手で口を覆う。
「大丈夫?」
リラがカミールの背中をさすりながら、横から寄り添った。
「コホッ……ありがとう。だいじょうーーーー」
なんとか咳が止まったカミールは、リラに返事をしながら自身の手のひらを見て固まった。
そこにはベッタリと血が。
「カミール!?」
リラも驚いて大声を出す。
吐血した?
え?
やばくない?
なんか体がおかしいし。
咳き込みだしてから、胸が痛い……
カミールは痛みに耐えて目をギュッと閉じた。
「いきなりどうしたの!? ……まさか聖石が!?」
リラの言葉を聞いてカミールは納得した。
あぁ、そうか。
これが聖石の体に及ぼす影響……
必死にカミールを呼ぶリラを安心させようと、目を開いて彼女を見た。
けれど何かを言う前に景色がぐるりと回転し、意識がいきなり途切れてしまう。
「カミール!!」
リラがカミールの倒れていく体を支えながら叫んだ。
この世界のニーハイソックス(よりちょっと丈長め)は、履き口が緩くてベルトが必要という設定です。
現代では当てはまりません。




