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5:カミールと魔女 


「……っ全部飲んだんだけど!?」

 飲み終えたカミールが青ざめながら、リラに問い詰め続ける。

「言い忘れたことって何!?」


「別に大したことじゃないんだけど……」

 バツの悪そうにしたリラが、言い寄るカミールの手から空になったグラスを抜き取った。

 そして魔法で瞬く間に消し去ってから話す。

「いつも先に、渡す魔法の使い方を説明してたから……」

 カミールに責められてシュンとしたリラが、うつむいてから上目遣いでカミールを見た。


「っ〜〜!? ……まぁそれくらいなら……」

 魅惑的な視線を受けたカミールは、胸が更に高鳴った。

 勘付かれないように、ソファに深く座り直して冷静な振りをする。

 

 するとリラは気持ちを切り替えて、淡々と説明した。

「この魔法は簡単だよ。ホクロやシミが消えますようにって願いながら、そこにキスすればいいから」

「へ!? ……だ、誰かにかける時に必ずキスするのか?? 恥ずかしいんだけど……」

「ノリで作った魔法だからなー。エヘヘ」

 

 リラが照れ笑いしながら、カミールの右手を掴み上げた。

 そして彼の長袖を脇まで下げて、腕をむき出しにする。


「っぎゃー!?」

「大丈夫。怖いことしないから。実演するだけ……あったあった」

 ケラケラ笑う魔女が、カミールの二の腕にあるホクロに目を閉じてキスをした。

 カミールはくすぐったくて、なんだかむず痒い気持ちになる。

 



 目を開いたリラが、カミールの腕からほくろが消えたのが分かると、無邪気に顔を(ほころ)ばせた。

「ね、消えたでしょ?」

 

 カミールは、自分ばっかり動揺しているのを悔しく感じ、何か仕返しめいたものがしたくなった。

「……お、俺もそのホクロを消してみたい!」

 気付くとそう言って、リラの首元にあるホクロを指差していた。


「んー? ここら辺にホクロがあるの?」

 リラは手のひらの上に白い手鏡を出現させると、それを使ってホクロの位置を確認していた。

 

「ほんとだ。いいよ。はい、どうぞ」

 そして自身の長い黒髪をホクロとは反対側の肩にかき集めて、首すじをカミールに向けてきた。


 カミールは状況についていけず、内心慌てふためきながらも必死に考えた。


 何この状況?

 さっきから触れてみたいのを我慢してるのがバレてる?

 それで遠回しに誘われてるのか!?

 ……大人の駆け引きはよく分からない。


 カミールはリラの肩に手をかけて、そっと首元にキスをした。

「フフッ。くすぐったーい」

 妖艶なお姉さんが楽しそうに笑う。


「…………」

「どう? ホクロは消えた?」

「うん……」

「上手く出来て良かったね」

 どこまでも無邪気に笑うリラに、(よこしま)な心を抱いているカミールは、恥ずかしくなって彼女の肩から手を離した。


「じゃあ悩める女性をこの魔法で救ってあげて、お金を貰っておいで〜」

 楽しそうにそう言って、リラがカミールに顔を近付けた。

 そして内緒話のように、耳元で囁く。


「お金が貯まったら、またおいで」

 

 カミールがリラを見ると、彼女はクスクス笑っていた。




**===========**

  

「っていう、7歳の少年にしては超絶エロい体験をさせられて、大いに歪んだよなぁ〜」

 カミールは眺めていたドレスショップから目を逸らした。


 それからブツブツ言いながらも、また通りを歩き始める。

「あの時頼み込んで、押し倒しとけば胸ぐらいは触らしてくれたかも。惜しいことしたよなぁ〜」

 カミールは過去の自分に決断力が無かったことを嘆いた。

 



 そうやって気を抜いている時だった。

 歩道の横を駆け抜ける馬車の一台が、いきなりカミールの横で急停車した。

 かと思ったら、中から伸びて来た手に腕を掴まれて、強引に中に引きずり込まれた。


「うわっ!!」

 カミールが身構えながら馬車の中にいる相手に目を向けると、それは最近知り合ったエステン公爵家のマティアスだった。

 

 カミールより3歳年上の彼は、気品にあふれ、いつも堂々としていた。

 庶民のカミールが威圧感を覚えるほどに。

 マティアスは、良くも悪くも貴族らしい雰囲気をまとった青年だった。

 しかもおまけに見目も良かった。


「妹のマリアンネが世話になった時以来だな。あれから妹はうれい事が無くなり、毎日笑顔で過ごしている。礼を言う」

 馬車の椅子に優雅に座るマティアスが、呆然としているカミールに告げた。

 それから向かいの席に視線をうつす。

 彼はカミールに目線だけで〝座れ〟と指示をしていた。


「…………お礼を言うためにわざわざ手荒な真似を?」

 カミールは営業スマイルを浮かべながら身なりを正し、(うなが)された席についた。

 

 すると見計らったように馬車が動き出した。

 カミールは窓から見える外をチラリと見てから、マティアスに視線をうつした。


 マティアスはニヤリと口の端を上げて笑うと、ゆっくりと語り出した。

「……魔術師カミール、君のことは調べ上げている。僕の前では猫を被らなくていい」


「…………」

 カミールは笑顔をやめて、マティアスをジッと見るだけに(とど)めた。

 調べていると言っても、どこまで調べられているか分からない。


「君の友人である商会の息子……オリバーがいろいろ教えてくれたよ。情報料をたんまり支払ったらね」

 警戒しているカミールをマティアスが鼻で笑う。

「っ!! オリバーのやつ……」

 カミールは、情報料をたらふく貰いふんぞり返っている友人を思い浮かべて、思わず(いきどお)った。


「……で、俺の本性を知ってどうするつもりです?」

 開き直ったカミールが、力を抜いて椅子の背もたれに寄りかかった。

「ビジネスの話がしたくてね。君を調べた上で適任だと思ったんだ」

「…………」

 カミールは眉をひそめてマティアスを見た。

 マティアスは、相変わらず口元に胡散臭い笑みを浮かべている。

 



 ーーすると思ってもいない依頼をされた。


「カミールの特殊な魔法を使って、ヘルミーナとの婚約を解消させて欲しいんだ」


 カミールは途端にスンとした表情で言い返した。

「よく分かりませんが、野郎にキスしたくないので男性のお客様はお断りしております。料金3倍なら涙を飲んで引き受けます!!」


「…………」

 マティアスが、呆れ返った冷めた目をカミールに向けた。


 

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