47:レアアイテム
カミールはあれから、暇さえあれば〝リラージュラフィーリア様〟の布教活動……
もとい慈善活動に努めた。
ソフィの傷跡を治したことで、レナータがカミールの魔法に痛く感動してくれた。
そんな彼女に、他の孤児院でも魔法を施して欲しいと、熱くお願いされたのがきっかけだった。
基本的に心優しいカミールにとって、未来ある子供達のために何かをするのは苦では無い。
魔法を沢山使える条件にも当てはまってくるし、何より多くの人に〝リラージュラフィーリア〟を覚えてもらういい機会になる。
今日もカミールは、レナータが斡旋してくれた孤児院に来ていた。
天気が良かったので、庭に椅子とテーブルを無造作に並べる。
そんな何とも簡素な場所で、カミールは子供達に魔法をかけた。
対象者のどこかに唇で触れて、例えカミールに見えていなくても念じることにより、傷跡が治せるようになった。
だからこんな風に、外でも気軽に行えるのはありがたい。
開放的な空間で魔法をかけた方が、子供たちも怖がらない気がした。
ーーーーーー
「わぁ! 本当に頬にあった傷が治ったよ!」
カミールの目の前に座る女の子は、そばの机に置かれた鏡を覗き込んでいた。
そこには、長年頬にあった傷が綺麗に無くなっている自分の笑顔があり、大はしゃぎしながら笑い合う。
カミールはニッコリ笑って語り始めた。
「これこそが、リラージュラフィーリア様の力なんだよ。いいかい? リラージュラフィーリア様は慈悲深い女神様なんだ。毎日祈りを捧げていれば、きっと君を幸せに導いてくれるよ」
「……はい!!」
女の子はカミールを見つめて、元気よく返事をした。
その返事に満足した彼は立ち上がると、さっきからずっと群がっている子供達の方を向いた。
「みんなもいいかい? リラージュラフィーリア様は同じ名前のお花の化身なんだ。淡い紫色の美しく品のある花」
カミールは熱心に続ける。
「女神様も美しくて…………包容力のある女性なんだ。はい、そのお花の名前は?」
「「リラージュラフィーリア!」」
猫被りカミールが腰に両手を当てて、自分の適当な教えに感じ入っているかのように、うんうん頷く。
「……なんで私のスピーチをしてるの?」
その時、カミールのすぐそばで声がした。
すぐさま声の主を見ると、困惑した表情のリラが立っていた。
リラはこちらの世界に来ると、カミールの魔力で居場所が分かるらしい。
以前に座標がどうのこうのと言っていたが、カミールにはさっぱりだった。
けれどその能力のお陰で、こうやってすぐに会えるのは嬉しい。
カミールはニヤつきながらリラを見た。
「なっ!?」
そして彼女の服を見て動揺した。
今日のリラは、白いシンプルなブラウスに、ウエスト部分がコルセットのようになった、黒いハイウエストスカートを着ていた。
膝下までのフレアスカートで下は問題なかった。
下は。
上は……まさかのオフショルダー!!
申し訳程度のフワッとした袖がついてるのに、肩はむき出しだ。
カミールはリラの耳元で小さく騒いだ。
「これ、胸がこぼれ落ちそうなんだけど!?」
リラが吹き出しながら返す。
「大丈夫だってば。大人っぽいのがダメだったから、可愛い系にしてみたよ」
リラがスカートを両手で横に広げながら、クルリと軽やかに回った。
「あぁぁ。……可愛いのは分かったからそんなに動かないでくれ! こぼれそうで不安で仕方がないっ」
カミールが顔面蒼白で叫ぶ。
その時、たまたま通りかかったレナータが見慣れない女性がいることに気付き、カミールに声をかけた。
「カミールさん、その方は……?」
「えーっと……この方はリラージュラフィーリア様の子孫です!」
「まぁ! 通りで綺麗なお方だわ!」
レナータはすっかりリラージュラフィーリア教の信者の一員であり、リラを見て両手を組み合わせてウットリした。
すると周りにいた子供たちがヒソヒソと噂をし合う。
「子孫ってなあに?」
「女神様の子供のことだよ」
「じゃあこの人もお花の女神様?」
「あたし、ギュッてしてもらいたい!」
そして「わーっ!」とリラめがけて幼い子供達が駆け寄ってくる。
囲まれたリラが、子供たちの頭をヨシヨシ撫でてあげたり、ギュッとハグしてあげたりしていた。
賑やかで優しい時間の中、1人だけ取り乱して叫ぶ人がいた。
もちろんカミールだ。
「待て待て! こぼれるからっ。こぼれるからー!!」
「こぼれるって何が?」
「何がー?」
キャッキャと騒ぐ子供らが口々に言う。
「何がって……あー! そこの少年! 君はNGだ。お触り禁止!!」
反射的にビクッとする少年。
その隣にいた小さな子供がカミールに聞く。
「何でー?」
「何でって邪な心が芽生える年頃だからだっ!」
「カミール……」
リラが呆れた目線を恋人に向ける。
そこにレナータもそろりと近付いてきた。
「わたくしも素敵なお方と、記念にハグしておこうかしら」
みんながしてるから私もぉ……みたいなノリで、レナータが子供たちの真似をしてリラにハグをした。
「……?」
リラは不思議そうにしながらも、ギューッと抱きしめ返す。
……レナータとリラの共演……
それを見たカミールが、何故か高らかに宣言した。
「……これはこれで……良い!」
ーーーーーー
騒ぎが落ち着くと、カミールとリラは孤児院の屋根の上に寄り添って座った。
リラに「大事な用があって来たんだ」と言われて、人に邪魔されない場所として、2人で見上げたのがこの屋根だった。
そして互いに頷きあうと、誰にも見られていない隙に、彼女の魔法でフワリと浮いて移動した。
庭を走り回る子供達を見下ろしながら、カミールが自然にリラの肩を抱く。
「ぅわっ! ……肩から首にかけて何もないから、脳が裸かと混乱した」
「…………相変わらずカミールはカミールだね」
呆れながらもリラが続ける。
「さっきのスピーチは何? 何で〝リラージュラフィーリア〟を広めてるの? まさか……」
彼女はカミールの真意に気付き始めていた。
カミールはリラを見つめ、ニヤリとイタズラっぽく笑う。
「そうさ。リラがこっちの世界で長く居られるように広めてる。〝リラージュラフィーリア〟を知ってる人を増やせばいいんだろ?」
「うん、そうだけど……やり過ぎじゃない? このままだと、とうとう私の本名が歴史に残りそうなんだけど……」
リラが眉をひそめて聞くと、いきなりカミールにガバッと抱きしめられた。
「だって、出来るだけ長い時間会っていたいじゃん? ……本当は俺が、早くリラの世界に慣れればいいんだけどな」
「フフフッ。カミールらしいね。私が長く居られるようにしてくれたお返しに……」
リラがスカートのポケットから、ゴソゴソと何かを取り出そうとした。
カミールは抱きしめていた力を緩めて、彼女を見守る。
「はい。これあげるね」
そう言ったリラが、カミールの手をとって何かを渡してきた。
カミールが手の中を覗くと、そこには指輪のような細さのシルバーのイヤーカフが。
さらによく見ると、紫色の石がついていた。
「これって……」
「うん。聖石のかけらだよ。これを身につけて慣れる練習を、こっちでもしてみて」
リラがニコニコしながら続ける。
「けれど聖石がむき出しの状態だから、他の人に影響が出ないように気を付けて。普通の人とずっと一緒にいるとその人が危ないよ。私の時は体内に取り込んだから、周りには影響なかったけど」
彼女は小さな声で「だから食べたんだった。忘れてた」と付け足した。
カミールはさっそく耳にイヤーカフをつけてみた。
そして〝どう?〟って感じでリラに耳を向ける。
リラは笑顔で「似合ってるよ」というと、そっとカミールの耳に触れて、カフの具合を確かめながら伝えた。
「えーっと……〝出来るだけ長い時間会っていたいじゃん?〟」
リラがカミールのセリフの真似をして、首をかしげる。
嬉しさや愛しさが溢れたカミールは、また彼女をガバッと抱きしめた。




