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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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46:順調な仕上がり


 カミールが連れて来られたのは、孤児院の中にある保健室のような所だった。

 そこにはすでに話で聞いていた子供が来ており、部屋にあるベッドに座っていた。


 その子は10歳ぐらいの女の子で、浮かない顔で下を向いている。

 カミール達が部屋に入っても、女の子は何も反応を示さず、ただただ自分の足元の床を見ていた。

 そんな彼女のそばには、ここの職員である女性が付き添いで立っている。


 レナータがカミールに向かって説明した。

「彼女はソフィ。3年前にこの孤児院に来たんです。体のあちこちに傷跡があるんですが、背中が1番酷くて……」

 

 レナータがそう言いながら、マティアスにアイコンタクトを送った。

 マティアスはゆっくり頷いてから部屋を出て行った。


 それを見届けた女性の職員が、ソフィに優しく語りかける。

「この魔術師さんに背中の傷を治してもらうから、見せてくれるかな?」


「…………」

 

 うつむいたままのソフィが顔を左右に振った。




 それからも職員さんが何度も説得を試みるけれど、ソフィは一向に顔を縦に振らなかった。


 痛ましそうにソフィを見つめるレナータが、(かたく)なな彼女の態度を弁明する。

「ソフィはその……男性が苦手で、背中を見せるのが嫌みたいです」

「……それは困りましたね。ボクの魔法は目で見て、その傷を消したいと念じながら唇で触れないといけませんから」


「…………ララシェルン様の祝福……ですものね」

 レナータも貴族の一員なので、カミールの通り名を知っているようだった。


 カミールは〝なんでこの魔法はキス縛りなんだ?〟と、何度目か分からない難癖をつけた。

 そのせいで、ソフィのようなただでさえ嫌がる人に、魔法をかける難易度が上がる。


 せめて、手で触れると消えるとかならいいのに。

 

 苦心するカミールの頭の内で、能天気な魔女が『ノリで作ったからなー。エヘヘ』と笑った。




 カミールはソフィにゆっくりと近付き、彼女の目の前でしゃがみ込んだ。

 ソフィより低い目線になると、彼女の顔を見上げながら伝える。


「無理強いはしないよ。今日はボクに慣れて欲しいな。また会いに来るから、いつか大丈夫だと思ったら治させて」

 カミールは爽やかに笑いかけた。


 貴族に対して猫を被り続けた演技力が、ここで活かされた瞬間だった。

 カミールはオリバーが言うように、言動に気を付ければ誠実で無害そうな人なのだ。


 ソフィがゆっくりと顔を上げて、カミールを見る。

「…………大人なの?」

 そして首をかしげてカミールに聞いた。


「あはは。たまに言われる。一応大人だよ」

「……そう。……本当にララシェルン様の使いなの?」

 ソフィがまた質問してきた。


 ララシェルン様はとっても有名な女神様なので、庶民の間でも知れ渡っていた。

 だから子供のソフィでも知っているのだろう。

 

 彼女は先ほどのレナータとの会話に、耳を澄ましていたようだ。

 興味は持ってくれているらしい。


「……実は違ってさ、リラージュラフィーリア様の使いだよ」

 カミールは正直に伝えた。

 何故だかこの少女に嘘をつきたくなかった。


「リラージュラフィーリアって……あのお花の?」

「知ってるんだ。そうそう、あのボンボン花の化身の神様なんだよ」

「ふーん……」


 それまで静かに見守っていたレナータが、2人の会話に参加する。

「ソフィはお花が大好きなんです。ね?」

 レナータの問いかけに、ソフィはコクリと頷いた。


 ちょっとだけ、打ち解けてくれた?


 そう感じたカミールは、思い切ってソフィに提案してみた。

「女神様の祝福を授けるためには、キスをしなきゃいけないんだ。今日は友達になった印に手の甲にしてもいい?」


 カミールはさっきソフィに言ったように、自分に徐々に慣れて欲しかった。

 いつかは背中の酷い傷を消してあげたい。

 だからまずは手の甲で。


 彼は小さな女の子を安心させるために、穏やかに笑った。


「…………」

 ソフィがポッと頬を赤くして照れた。


 それから職員やレナータを順番に見る。

 

 それぞれの女性が〝大丈夫だよ〟というように頷くと、ソフィはおずおずと右手を差し出した。

 

 カミールがその手を優しく取った。

 可愛らしい小さな手だ。


「ありがとう」

 カミールはソフィを怖がらせないように、素早く手の甲にキスをした。


 いつかソフィの傷が消えますようにと、願いを込めながらーー




 すると不思議なことが起こった。

 ソフィの体がほのかに光り始めたのだ。


「え??」

 驚いたソフィが思わずベッドから立ち上がる。

 キョロキョロと自分の体を見渡しながら、カミールと繋いでいる手を(すが)るように両手で握りしめた。

 そうしている間に光りがより一層強くなり、パッと瞬時に消えた。


 ソフィがカミールを見つめてポツリと呟く。

「…………魔法なの?」

「みたいだね……」

 カミールも呆然としながら答えた。


「ビックリした…………っ!?」

 恐怖のあまりカミールの両手を握りしめていたことに気付いたソフィが、赤くなりながら慌てて手を離した。


 カミール達のそばでは、レナータが職員の女性と顔を見合わせて、頷き合っていた。

 そして、しゃがんでいるカミールの肩をポンポンと叩く。


「ソフィの背中を確認するので、外に出てくれますか?」

「え? あぁ、はい……」

 

 カミールは言われた通り部屋から出た。




 外へ出た彼は、パタンと扉を閉めると廊下でぼんやり立ち尽くす。

 カミールも突然の出来事に驚いていた。

 

 すぐそばにある窓際までフラフラと歩いていき、何となしに外に目を向ける。

 青く晴れ渡った空を見つめていると、徐々に頭が動き出した。


 さっきのは……?

 もしかして……


 その時に部屋の中から歓声が聞こえた。

 レナータと職員の声が外まで響いてきたのだ。


「すごいわ! 体の傷跡が全て消えているのよ!!」

「ソフィ、良かったわね! こちらの鏡で背中を見てみる?」


 …………


 思ったとおり、手の甲にキスをしただけで、全身の傷跡を消すことが出来たようだ。

 そのことは喜ばしいけど、こんなに魔法の威力が上がった原因をカミールは考えてしまう。


「……リラの魔法薬? 聖石??」


 1人でブツブツ言っていると、部屋からレナータが出てきた。


「カミールさん! 本当にありがとうございます! ソフィの傷跡が全て消えました! マティアス様に報告してきますね!」

 満面の笑みを浮かべたレナータが、言い終わらない内にパタパタと駆けていく。


 その背中を見送りながら、カミールは物思いにふけった。


 順調に肉体改造が進んでるって、喜んでいいのかなー。

 とりあえず、仕事を引き受けられる条件は広がりそうだけど。

 

 ……俺もリラみたいに何か副作用が起こるのかな……




「魔術師さん」

 沈んでいるカミールの背後から、誰かに呼びかけられる。

 振り向くと、部屋から出てきたソフィが立っていた。


「あの……その……ありがとう」

 少女はモジモジしながら笑顔を浮かべる。

 出会った時と比べると、随分明るい表情になったソフィは、もうどこにでもいる普通の女の子だった。


「どういたしまして」

 カミールは作り物じゃない、心からの笑みを返した。



 

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