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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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45/66

45:大切な人にはカッコよく見せたい


 カミールは白い部屋に出来るだけ通うことで、地道に聖石の影響から体を慣らしていた。

 向こうで長時間過ごせるようになると、2日ぐらいは姿を消してしまうようになった。

 けれど2週間はずっとこちらにいる期間がある。

 リラが向こうの世界で眠っている時間だ。


 1人で白い部屋で過ごせば訓練にはなるんだけど……

 それは流石にやるせない。


 なんとも手持ち無沙汰な期間だ。


 覇気の無い息子を心配してか、母親から言われたこともあった。

『長いことこっちに居るけど、ケンカでもしたの?』と。


 リラとの交際に理解のある母親で嬉しい反面、毎回その期間に〝振られたの?〟という顔で見てくるのは止めて欲しい。


 カミールは、4ヶ月おきにしか会えなかった時からしたら、2週間なんて余裕だと思っていた。

 でも自由にリラの所に行けるようになったから、彼はよけいに寂しさを感じるように。


 そんな時はリラの部屋にこっそり入って、眠っている彼女を眺めては帰ってきていた。

 それはもう、速攻で。


 リラの部屋の聖石の影響はまだ怖い。

 いきなりくる。

 寝ているリラにイタズラしたいけど、1度倒れた恐怖からそれどころじゃなかった。




 ーーーーーー


「もっと慣れて、リラの部屋でも一緒に過ごせるようになりたいんだけどなぁ……」


 カミールがそんな独り言を言いながら街を歩いている時だった。 


 歩道の横を駆け抜ける馬車の一台が、いきなりカミールの横で急停車した。

 かと思ったら、中から伸びて来た手に腕を掴まれて、強引に中に引き摺り込まれる。


「うわっ!! この感じは……」

 馬車の中で身構えながら相手を見ると、やっぱりマティアスが居た。


「……普通に声かけてくれません?」

 カミールは掴まれていた腕をさすりながら、マティアスの向かいに座る。


「カミールは一時(いっとき)のゴタゴタで、エステン公爵家専属の魔術師として認識されているからな。所有者の僕がどのように扱っても、外野からは何も言われない」

 マティアスが腕を組みながら淡々と述べた。


 すると馬車がゆっくりと動き始めた。

 またカミールはどこかに連れていかれるらしい。


「暴論だっ! ……で、今日は何を?」

 この人に逆らうと面倒なことが分かっているカミールは、早々に諦めて切り替えた。


「まずはヘレミーナと無事に婚約解消出来た。感謝する」


 マティアスの言葉に、カミールは〝あのゴリラか〟と心の中である意味(しの)んだ。


 そのゴリラの元婚約者は、何も感情を乗せていない表情をしている。

 けれど少しだけ口元を緩めると話を続けた。


「それから、レナータという令嬢と新たに婚約を結ぶ運びとなった」

「それはおめでとうございます」


「レナータは慈悲深い人なんだ。彼女の家がサポートしている孤児院の子供に、気掛かりな者がいるそうだ。自分がゆくゆくは離れてしまうことに、心を痛めている」

「…………」


「そこで、何やらオリバーの商会で医者もどきを始めたカミールの出番だ」

「……というと、傷跡があるんですか?」


「そうだ。虐待されていた孤児らしく、背中に酷い傷跡があるんだ」

「それは可哀想ですね…………けどーー」


 カミールは途端にスンとしてマティアスを見た。

 その様子に気付いたマティアスが、眉をひそめる。


「どうしたんだ?」

「……どうせ婚約者にカッコつけて『僕が治してみせる』とか何とか言ったんじゃないですかー??」


「…………」

 図星だったのかマティアスが目を逸らす。

 心なしか、頬がほんのり赤くなっている気もした。


 その珍しい反応に楽しくなったカミールが、ますます悪ノリした。


「俺の力を利用して『マティアス様、素敵!』って言われたいんでしょ!? いやー、マティアス様にもそんな気持ちがあったんですねー!!」

 



「……カミール」

 マティアスの地を這うような低い声が、空気を揺らした。


「…………はい」

「ちょうどカミールのような……少年らしさを残した若い男性を好む、貴族のご婦人を知っている。会ってみるか?」


「…………っ!」

 

 カミールは顔を左右にブンブン振った。

 マティアスが睨みつけながら、口端をあげる。


「カミールは庶民だからな……そのご婦人の屋敷から出られなくなっても、誰も文句が言えなーー」

「調子に乗って申し訳ございませんでしたっ!」

 カミールはひたすら頭を低くして謝った。




 そうこうしている内に、目的地についた馬車が速度を緩める。

 頭を下げ続けているカミールは、馬車の揺れが穏やかになっていくのを感じた。


「レナータが先に来ているから、変なこと言うなよ」

 マティアスの言葉がだいぶ上の方から聞こえた。

 どうやら彼は立ち上がったようだ。


 それに気付いたカミールが顔を上げると、馬車は完全に止まっており、マティアスが先に降りようとしていた。


「あ、待って下さいよっ」

 カミールも慌てて彼に続いた。




 ーーーーーー


「こんにちは。私はレナータ・アイスリッヒと申します」

 孤児院の建物に向かうと、入り口で女性が待ち受けていた。


 物腰柔らかな彼女は、どうやらマティアスの言っていた婚約者らしい。

 ニッコリ柔らかく笑い、顔をかしげるレナータはほんわかした女性だった。


「こんにちは。ボクは魔術師のカミールです」

 物腰が柔らかいレナータに、カミールは猫被りバージョンで接する。


「マティアス様からお聞きしておりましたわ。ここまで出向いて下さり、ありがとうございます」

 嬉しそうに顔を綻ばせるレナータは、こっちまでほっこりした気分になるような、朗らかな空気をまとっていた。


「マティアス様、わたくしの我儘に付き合わせてしまい申し訳ございません」

「このぐらい大したことないよ。それよりーー」


 マティアスとレナータが喋り始めた。

 その間に、カミールは2人を交互に見て〝ふむふむ〟と納得しながら頷いていた。


 マティアス様は、こんな感じのふんわりした女性が好みだったんだな。

 随分ヘルミーナ様とはタイプが違う……


「おい、カミール。行くぞ」

 考え込んでいたカミールは、マティアスの声で我に返った。

 ハッとしてマティアスを見ると、怪訝(けげん)な表情を向けられていた。

 カミールが何を考えているのか、彼にはお見通しのようだ。


「あ、はい。行きますっ!」

 後ろめたさを隠すように元気に返事をしたカミールは、また慌ててついて行った。

 




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