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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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44/66

44:図太さも時には必要


『魔法をいっぱい使ってね』


 リラにそう言われたカミールは、早く彼女の世界に慣れるために実践していた。

 普通の一般魔法はもちろん〝肌の黒い所を消す魔法〟を使うために、積極的にオリバーの商会に顔を出す。


 ありがたいことに噂が噂を呼んで、カミールの魔法を受けたいというお客が殺到していた。

 

 カミールの仕事は不定期にしか行えないため、まずは彼女たちに順番待ちをしてもらう。

 商会にカミールが出勤すると、オリバーが順に連絡をし、来れる人から来てもらう方法だった。

 それでもお客は心待ちにしているようで、連絡が入ると大抵はすぐに来てくれた。

 



 今日も商会の館の一室で、カミールは仕事を開始しようとしていた。

 ソファに座り営業スマイルを顔に乗せて、お客に話しかけようと口を開く。

 

「…………」

 けれどカミールは、向かいのソファに品よく座る女性を見つめて押し黙った。


「…………」

 相手は気まずそうに目をキョロキョロさせてはいるものの、沈黙を貫いている。


 どこかの貴婦人のようなドレスに薄っすら透けるストールを羽織り、ツバの広い帽子を被った女性は……


 テレージア王妃だった。


 オリバーからは、最近商会を懇意にしてくれている〝テレサさん〟という女性だと聞いていたのだけれど……


 カミールは困惑して眉をひそめた。

 1度監禁された相手なだけあって、恐怖の感情が頭をもたげる。


 ……また捕まえに来たのか?

 けど身分を偽ってまで会いに来たのだから、純粋に魔法をかけてもらいたいだけ……?


「案外、図太いんですね」

 何だか呆れてしまったカミールが、気の抜けた声を出す。

「まぁ! 失礼ですわね。不敬罪になりますわよ」

 テレージアがすぐさまむくれた。


「俺が相手をしているのは貴族でもない、いち市民の〝テレサさん〟なんですけどねー。不敬罪とはおっかしいなー」

 

 カミールが大袈裟に肩をすくめた。

 そして王妃の後ろに控えているメイドを盗み見る。

 お付きの者の格好をしているが、こちらも見覚えのある人だった。

 魔術師メイドでは無いことを念のために確認したカミールは、嘆き始めた王妃に目線を戻した。


「うぅ……そうですわ。わたくしは〝テレサ〟です。カミールがあの後、この商会で働いているのを突き止めた訳では無いのですわ。今日は肩に出来た傷跡を治して欲しいのです」


「傷跡?」

 内情をざっくり喋ってくれたことはスルーして、カミールは質問した。

 王妃様が傷を負うとは珍しい。


 テレージアがまとっていたストールを取り、服の襟ぐりをちょっとだけずらして、鎖骨付近を見せてくれた。

 そこには茶色くなった何かの跡があった。

 形はシミとかに似ているけれど、大きな範囲に広がっている。


「これは……?」

「湿疹が出来て……その跡です」

「そのうち治るんじゃ……」

「治りません。随分長いこと治っておりませんわ」

 テレージアが傷跡だと言い張った。


 カミールは思わず苦笑する。

「分かりました。傷跡ですね。けれど湿疹の跡は初めてなんで、上手くいくか分かりませんよ」

「……分かりましたわ」

 テレージアは真剣な顔で頷いた。

 

 女性の美への飽くなき追求は、本当にすごいな。

 

 カミールはフッと息をもらしながら失笑した。

 目線の先には、魔法が受けれそうな雰囲気に顔を綻ばせた王妃がいた。




 ーーーーーー


「ありがとう。カミール」

「どういたしまして」


 魔法によって無事に鎖骨あたりが綺麗になったテレージアが、ソファから立ち上がり部屋を出て行った。 

 メイドも王妃に続いて出て行ったのを見送ったカミールは、オリバーの事務室へと急いで駆け込む。


「オリバー!」

「慌ただしいな。どうしたんだ? さっきのお客様が美人過ぎて驚いたのか?」

 オリバーが帳簿か何かに向かったまま、カミールに答えた。


「その美人な客は、王妃様だ!」

「!?」


 流石に驚いたオリバーが、顔を上げて停止した。

 そんな友人に向かってカミールは叫ぶ。


「上顧客だ! 今から売り付けタイムだろ? 美容関係は食い付くぞ。肌への効果がなかっても俺の魔法でカバーするから、大袈裟に言って売り付けろよ」

 

 その言葉を受けて、オリバーが口を引き結ぶ。

 真剣な眼差しには闘志が浮かんでいるようにも見えた。

 すると戦闘(商談)モードになった彼が、衿を正しながら立ち上がった。

 相手が王族でも物怖じせずにカモにしようとする姿勢は、見ていて清々しさを感じる。


「カミール。人はそれを詐欺と呼ぶんだぞ。オレの商会は……表向きはホワイトだ!」

「〝表向き〟って付けなきゃいいのに……」

 自慢気に言い放つオリバーに、カミールは思わず突っ込む。

 

 オリバーはニヤッと悪どく笑うと、事務室から外へ繋がる扉へと向かい始めた。

 カミールの魔法を受けに来たお客の商談は、普段なら部下に任せているオリバー。

 けれど今日は、自分が直々に向かうようだ。

 

 そんなオリバーに、カミールが慌てて声をかける。


「気をつけろよ。王妃様は襲いかかって来る系だぞ」

「…………」

 オリバー行き先を見つめたまま、ピタリと立ち止まる。


「なのに機嫌を損ねると、国王様に告げ口されるぞ」

「…………まぁ、何とかなるだろう」


「おぉ! さすが次期商会の社長! かっこいい! 王妃をおびき寄せた暁にボーナスくだーー」

「いってくる」


 カミールが茶化し始めたため、時間の無駄だと判断したオリバーは、さっさと行ってしまった。




 

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