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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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43/66

43:想いの強さ


 白い部屋の白くて広いソファ。


 そこの背もたれに沈み込むように、もたれているカミール。

 彼の膝には仰向けに寝転がっている魔女がいた。

 

 猫みたいな彼女の柔らかい髪の毛を、カミールは何となしに撫でている。

 リラはそれこそ毛繕いをしてもらっている猫のように、目を閉じて気持ちよさそうにしていた。


 2人でまったりしている時間。

 カミールがふと気付いたことをリラに聞く。

 

「それにしても、ミニュといい、取引の魔女についてといい、誰がそんなに細かいリラの特徴を書いたんだろう……」


「うーん、私も気になってたんだけど……取引の魔女については、どうやら師匠であるファビエンヌ先生が書いたみたいだよ」

 リラが少しだけ悲しそうに笑った。

「…………何で?」

 カミールが髪を撫でていた手をピタリと止める。


「きっと……私がカミールたちの世界に行きやすいように……」

「??」


「何故だか分からないんだけど、私の概念が強くなるとカミールの世界に居やすくなるの」

「それってどういう意味?」

 カミールが下を向いてリラの顔を覗き込んだ。


 リラがクスクス笑いながらカミールに向かって右手を伸ばした。

「実はね、リラージュラフィーリアを知っている人がそのことを考えている時間は、カミールの世界で私が形を取れる時間に応じているの」

 穏やかな目で笑うリラが、カミールの頬にそっと触れた。

 カミールは無意識にリラの手に自分の手を重ねる。


「……って言うことは……?」

「カミールが私のことを考えてくれればくれるほど、そっちの世界で居られる時間が長くなるんだ。まぁ今は、私の存在を再び認知する人が増えたから、もうカミールだけの想いじゃないけど」


「〜〜〜〜っ!!」

 カミールは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 反動でリラの手が跳ね除けられる。


 顔を背けたままの彼が、ボソボソと不満を口にした。

「じゃあ結局、言葉にしなくてもリラは俺の気持ちを分かっていたのかよ」

「あははっ」

 リラは嬉しそうに笑いながら体を起こした。

 そしてむくれた可愛い恋人の顔を覗き込む。


「ごめんね。そっちの世界で長く居られたことに気付いたのは、私を買いたいって告白された時。……だからカミールが私の胸だけじゃなくて、私を好きだってちゃんと分かってたよ」


「…………」

 そっぽを向き続けているカミールが、目だけをリラに向けた。

 リラは「機嫌直して」と言いながら、カミールの頬にキスを落とす。


 以前にもこんなやり取りがあって、同じように機嫌が直ってしまったカミールは、なんて単純なんだろうと少し落ち込んだ。


「それでね、みんなから私が忘れられないように、ファビエンヌ先生は書物にして残してくれたんだと思うよ」

 リラが三角座りをした。

 ももに押し付けられた胸や、丸見えの足が目の毒になる。

 

 カミールは「そっか」と言いながら、リラの背中と膝の裏側に手を回した。

 そして少しだけ抱き上げて、自分の目の前に横向きになるように彼女を移動させる。

 ギュッと抱きしめると、腕の中でリラが楽しそうに笑った。


 カミールが彼女の耳元で囁くように聞く。

「もしその本が無くなって、誰にも知られなくなったら……もう次元の横断は出来ないのか?」

「うーん。出来るけど滞在時間がすごく短くなると思う」

「聖女リアリーンや女神ルゼワールとしての概念は?」

「……感覚的にノーカウントかな? ふわぁぁ」

 

 リラが大きなあくびをした。

 



 ーーーーーー


 まだ白い部屋に滞在出来るカミールは、彼女の希望で少しのあいだ一緒に眠ることにした。

 

 リラがソファを魔法で広くすると、2人で横になるには十分なものになった。

 枕やブランケットも魔法で出現させて、楽しそうに配置していく。


 それが終わった所で2人は寝具にくるまった。


 けれど「あっ」と何かに気付いたリラが起き上がって、そばにサイドテーブルと目覚まし時計を設置した。


 準備を終えたリラが、眠い目をこすりながらも、いそいそとカミールの隣に潜り込んでくる。


「エヘヘ。誰かと一緒に眠れるなんて、いつぶりかな」

 リラが本当に嬉しいようで、横向きになっているカミールにギュッと抱きついてきた。

 彼の胸元に顔を埋めて、満足そうにため息をつく。


 カミールはそんなリラの様子に、長い時を独りで過ごすしかない彼女の心情を推し量った。

 

 なんて孤独で寂しい境遇なんだろう。

 人知れず世界の調和を保ちながら、ひっそりと暮らしているなんて。


 カミールはそんな可哀想な魔女と、これからは一緒に居てあげたいと改めて思い、優しく抱きしめ返した。


「そのためには肉体改造かぁ……」

 考え込むあまり、思わず声が出た。


「肉体?」

 リラが不思議そうにカミールを見上げる。

「えーと……こっちに慣れるために、した方がいいこととかある?」

 カミールはリラの前髪を撫でるようにかき上げると、おでこにキスをした。


 くすぐったそうに笑ってからリラが答える。

「んー、魔法をいっぱい使うことかなぁ?」

「魔法を?」

「カミールの体には聖石の力が徐々に貯まるから、それを魔法を使うことで消費させて……体の中を循環させるの」

「なるほど」


「そう言えば、私もよく飛んでるのはそのためだった」

「疲れやすいからじゃなくて?」

 カミールは少し笑いながらリラに聞く。

〝疲れたー〟と言って飛んでいる彼女しか、思い浮かばないからだ。


「フフッ、それもあるねー。だからたくさん眠ってね。今日はあと2時間ぐらいかな? 目覚ましかけたから、鳴ったら無理せず元の世界に戻ろうね」

 リラが子供に言い聞かせるかのようにカミールに告げた。

 子供扱いされると嫌なカミールだったけれど、彼女が心配している証拠だと分かってきたから、静かに頷くだけにする。

 

 リラが良い子のカミールにニッコリと笑いかけた。 

「おやすみなさい」

 そして目を閉じると、頬をカミールの胸元にピッタリとくっつける。

 ギュッとカミールに抱きついて眠るその様子は、リラの方が幼い子供のようだった。


「おやすみ」


 カミールが穏やかな気持ちで目を閉じると、急に睡魔に襲われた。


 彼は気付かないうちに、聖石の影響を受けていたのだ。

 今までで1番、白い部屋で長く過ごしているからかもしれない。


 リラが疲れやすいって言ってたのは、こんな感じ……?


 …………

 

 そしてまもなく、心地よい眠りの世界へと(いざな)われていった。




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