表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/66

37:ミニュ


「いつでも来ていいって言われたけど……行っても自分の部屋に引っ込んで寝てるだけだし……部屋には入れないから結局会えないし」

 

 カミールは、ビールの入ったグラスの持ち手を握り締めて続けた。


「まぁけど短時間の滞在になるから、慣らす練習にはなってるんだけど」

 そして長い愚痴を一気に言い終わると、ビールを飲んだ。

 

 向かいの席に座るオリバーが、冷ややかな目でカミールを見つめ、手に持ったグラスに口をつけた。

 そして一口飲むと、低い声で喋り始める。


「そんな現実味のない話をいきなりされて、信じろって言うのか?」

「本当なんだってば。オリバー以外の奴にこんな話をしてみろ、頭がおかしい奴だと思われるだろ!?」


 カミールは今まで秘密にしていたリラとの出来事を、オリバーに洗いざらい打ち明けていた。

 

 久しぶりに友人と飲んでほろ酔いになり、長年の想いが実った嬉しさからか、堰を切ったようにベラベラと喋った。

 最近の不満に至るまで。


 そんなマシンガントークを繰り広げるカミールに対し、オリバーはずっと冷たい視線を向けている。


「オレも頭がおかしい奴だと思ってるけど」

「オリバーは前からそう思ってるだろー? 何を今更……」

「何その返しにくいリアクション」

 

 オリバーが薄焼きのピザのようなものを口へ運んだ。

 それをモグモグとしばらく咀嚼してから、続きを喋る。


「で、絶世の美女と付き合うことが出来た代わりに、目が眩むような大金を巻き上げられて、遊びに行ったら寝てて相手にしてくれないって??」

「すっげー悪意のある話の切り取り方……でもだいたい合ってるから笑えない」

 

 カミールがヘラリと笑ってビールを飲んだ。

 そしてこの店の定番のおつまみである、ポテトのフライを口へと投げ込む。


「今度会わせろよ。その魔女に」

「……えー」

「そしたら信じてやるよ」

 オリバーがフッと鼻で笑った。


 カミールの話は突拍子がなさ過ぎて、オリバーからしたら半信半疑でしかない。

 けれど長年の友人の言うことだから、寛大に見てあげていた。


「機会があればなー」

 カミールがまたビールを一口飲む。

 飲み慣れた味が口の中に広がり、余韻の苦味を味わった。




「仕事の方はこれからどうするんだ?」

 オリバーが何気なく聞く。

「……もう貴族相手に仕事したくないし、単発のバイトでもすっかなー」

「あんなに儲かるのに勿体無いな」

 心底残念そうな友人が、ため息をついた。


「だったらマージン取っていいから、商会で抱えてくれない? その代わり、俺が顔出した時しか仕事が出来ない不定期になるけど」

「……うーん、ちょっと考えてみるよ」


 オリバーが真剣な顔つきになって、遠くを鋭く睨む。

 商売っ気の強い彼は、最小限の苦労で最大限の利益を得る方法を考え始めたようだ。


 カミールは〝根っからの仕事好きだなぁ〟と感心しながらオリバーを見守った。

 けれど途中である事に気付いて、慌てて伝える。


「あ、襲いかかってくる系のお客さんの依頼は受けないぞ。あと野郎」

「…………襲いかかってくる系?」

「貴族って肉食系が案外多くって……もうこりごりだよ、本当に」

 カミールが肩を落として気落ちする。


 そしてまた思い出したことを友人に伝えた。

「あと最近分かったんだけど、俺の特殊な魔法は古い傷跡も消せるぞ。〝肌の黒い所を消す魔法〟だから、黒色に近いものなら大丈夫そうだ」

「なるほどな」

 何かを閃いたようで、オリバーがニヤリと笑った。

 そしてグラスに入ったビールを飲み干し、そばを歩く店員に追加を頼む。


 カミールも同じく追加を頼むと、グイッとグラスの残りを飲み干した。


「……オリバーは〝ミニュ〟って知ってるか?」

「ミニュ?」

「歴史上とか、古くから伝わる人物だとは思うんだけど……」


 カミールは結局リラが言っていた〝ミニュ〟のことを、まだ調べることが出来ていなかった。

 いろいろな伝承とかを読み漁っているカミールが、聞いたことの無い名前なので、普通に本で調べても効率が悪そうだ。

 そう判断した彼は、こうして会う人に地道に聞くことにしていた。




「ミニュ……それってミニュートのことか?」

「ミニュートって……あの!?」

「聞いてきたカミールが驚くなよ」

 オリバーが、今日何度目か分からない冷たい目線をカミールに向けた。


 ミニュートとは昔から噂として語られている、イタズラ好きの妖精だった。


「なんか寝てる間に、物にイタズラする妖精だっけ?」

 カミールが首をかしげながらオリバーに聞く。


 その時、追加で注文したビールが届けられた。

 カミールとオリバーがそれぞれを受け取って、また飲み始める。


「そうそう。何でも食べる妖精で、特に硬い鉱物が大好きらしい。だからオレたちが仕事で取引相手と喋る時に、よくネタとして名前が出るんだよ」

「……硬い……鉱物……」


「宝石なんかの貴重品を『ミニュートに食べられないように大事に運びましょう』って」

「…………」


「北の地方のお客と喋った時に〝ミニュ〟と呼んでたことがある。地域によって呼び名が違うのかもな」

「…………」


「さっきから青い顔してどうしたんだ?」

 様子のおかしくなったカミールに気づいたオリバーが、不思議そうに聞いてきた。


「何でもない」


 カミールは咄嗟に首を振りながらも、頭の中では一つの可能性に行きついていた。


 もし〝ミニュート〟のモデルがリラなら……

 彼女は聖石を取り込んだ?


 聖女リアリーンの言い伝えも『聖石を自分の中に収めた』ってあるし……



 カミールの脳裏には、手のひらサイズの淡い紫色の石を「あーん」と頬張るリラが浮かんだ。

 

 小動物のようにほっぺを膨らませた妄想のリラが、モグモグ口を動かしながら、カミールに満面の笑みを向けていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ