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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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36/66

36:会う方法


 リラの思い出話も終わったことだし、2人は屋根から降りることにした。


 カミールの体の横からリラが抱きつき、魔法でふわりと浮き上がる。

 そうしてフヨフヨと降下していき、地面に2人して立った。


 カミールから体を離しながらリラが聞く。

「屋根の上から見てたら気付いたんだけど……何でこの奥まった場所に来たの? 明らかに帰る道じゃないよね?」


「そうだった。王族専用の書庫に用があるんだった。もうここに来なさそうだから、立ち寄らせてもらおうと……」

 カミールがリラに背を向けて歩き始めた。

 彼女はまた宙に浮いて、その後ろをフワフワとついていく。


「書庫? 何をするの?」

 リラがカミールの背中に投げかけた。

「ちょっと調べ物……」

 カミールがズンズン歩みを進めながら答える。


「何を調べるの?」

「…………ミニュについて」

「!?」

 

 リラが後ろからカミールの両肩をガッシリと掴んだ。

「調べなくていいからっ!」

 そう言って、カミールがこれ以上前に進むのを阻止した。


「好きな人については何でも知っときたいだろ?」

 カミールが笑いながら、グググッとそのまま前に進もうとする。

 後ろから必死なリラの声が上がった。


「私は相手が嫌がってることは聞かないよっ」

「リラがどんな魔法薬でも飲みたくなる気持ちと同じだって。探究心っていうの?」

「…………でもやっぱりやめてよ〜!」

「あははっ!」


 リラの嫌がる様子を楽しんだカミールは、満足そうに笑顔を浮かべて振り返った。




 **===========**


 あれから王宮を出た2人は、ひとまずカミールの家へと向かった。

 

 人通りの少ない道まで出ると、姿を消していたリラが魔法を解除してカミールの隣に並ぶ。

 そして黒いワンピースに魔法で着替えた。

 

 便利な魔法だなと思いながら、カミールがリラを上から下まで見る。

「え? 普通の服あるじゃん」

 

 胸元がスクエアネックになっているその服は、彼女にしては珍しく谷間をなかなか隠していた。

 ノースリーブの袖には控えめなフリルがついており、肩に少しだけかかっている。

 シンプルで可愛い服装だった。

 

「エヘヘー。いいでしょ?」

 リラがニヤニヤ笑うと、クルリと回った。

 そして背中をカミールに見せつける。


「!? 何だこれ? 背中が腰まで開いてる?? 一応背中の真ん中にはリボンがあるけど……」

 リラの背中に伸ばした手を震わせて、カミールが眉間に皺を寄せる。


 その服は、脇の下から後ろに伸びている帯状の紐を、背中の中央でリボンにするタイプのものだった。

 

 けれど……背中に本来あるべきものが無いっ!


「ブラは!? 下着はどこにあるんだ!?」

「あはは。言うと思ったー」

 リラが笑いながら歩き始めた。


「え? 本当にどうなってるんだ?」

 カミールは慌てて追いかけた。




 それから2人でワーワー言いながら、手を繋いで仲良く歩いていた。


 けれど、リラが歩くと言うことは……


「……カミール……疲れちゃった」

「やっぱりか」

 立ち止まったリラに手を引かれたカミールは、振り返って彼女を見た。


 リラは眠そうに目をトロンとさせて、赤い顔でポーっとしていた。

 そしてその潤んだ瞳で、カミールを窺うように上目遣いで見る。

 

「どうしたんだ? 熱があるのか?」

 カミールはフラフラして倒れそうなリラの肩を、抱いて支えた。

 ちょっとだけ〝この魔女は相変わらず誘ってる?〟と思いながら。


「ふわぁぁ。もうこっちに居るのは限界みたい……」

 リラが眠そうにうつらうつらすると、体がほのかに光り始めた。


「うわっ!? こんな街中で発光しないっ!」

 カミールがあたふたしながら、路地裏にリラを押し込んだ。




「帰るのか?」

「……うん」

「そっか……」

 カミールはリラを抱きしめた。

 

 あの空間に徐々に慣らしていくしかないカミールは、リラと一緒に行くことが出来ない。

 せっかくこうして気兼ねなく触れ合えるのに、リラと離れるのは寂しかった。


 ……次はいつ会えるかな?

 リラが抗体と言っていた魔法薬を飲んだから、少しはマシにはなってる?

 今までは4ヶ月間隔が限界だったから、2ヶ月後とか……??


 長いな……

 



 カミールが別れを悲しんで、リラをギュウっと抱きしめ直す。

 薄っすら透け始めたリラが、腕の中でモゴモゴ喋った。

「そうだ。忘れる所だった……」

 彼女は何かを、スカートのポケットから取り出した。


「??」

 カミールがそれに気付いて、リラを抱きしめている腕を緩める。

「はい、どうぞ」

 リラが目を閉じきってユラユラ揺れながら、カミールに鍵を渡してきた。

 それはカミールの部屋にある、魔法の金庫の鍵だった。


「魔法で細工をしたから……金庫の扉と、あの白い空間への扉は……繋がってる…………」

 夢現(ゆめうつつ)でリラが喋る。


「……金庫の扉は小さすぎない?」

「魔法で通るから、大きさは関係ないよ…………ふわぁ」

 口に手を当てて彼女は大きなあくびをした。

 そして(まばた)きを数回してから目を開けた。

 リラの潤んだ瞳が、困惑したカミールを捉える。


「……俺が行きたい時に行っていいのか?」

 鍵を握り締めながらカミールが聞くと、だいぶ透けて見えなくなってきたリラが、フフッと笑うのが分かった。


「いい? ゆっくり慣らしていこうね? 無理しちゃダメよ」

 リラが子供に言い聞かせるように、慈しみながらカミールに忠告する。

 



 そしていよいよ彼女の輪郭ぐらいしか分からなくなると、リラの柔らかい声だけがその場に残った。


「私の可愛い蜜蜂さん。これからはいつでも(リラージュ)(ラフィーリア)を求めにおいで…………フフフッ」




 彼女がいた空間に、キラキラと儚げに輝く光が優しく舞い落ちた。




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