36:会う方法
リラの思い出話も終わったことだし、2人は屋根から降りることにした。
カミールの体の横からリラが抱きつき、魔法でふわりと浮き上がる。
そうしてフヨフヨと降下していき、地面に2人して立った。
カミールから体を離しながらリラが聞く。
「屋根の上から見てたら気付いたんだけど……何でこの奥まった場所に来たの? 明らかに帰る道じゃないよね?」
「そうだった。王族専用の書庫に用があるんだった。もうここに来なさそうだから、立ち寄らせてもらおうと……」
カミールがリラに背を向けて歩き始めた。
彼女はまた宙に浮いて、その後ろをフワフワとついていく。
「書庫? 何をするの?」
リラがカミールの背中に投げかけた。
「ちょっと調べ物……」
カミールがズンズン歩みを進めながら答える。
「何を調べるの?」
「…………ミニュについて」
「!?」
リラが後ろからカミールの両肩をガッシリと掴んだ。
「調べなくていいからっ!」
そう言って、カミールがこれ以上前に進むのを阻止した。
「好きな人については何でも知っときたいだろ?」
カミールが笑いながら、グググッとそのまま前に進もうとする。
後ろから必死なリラの声が上がった。
「私は相手が嫌がってることは聞かないよっ」
「リラがどんな魔法薬でも飲みたくなる気持ちと同じだって。探究心っていうの?」
「…………でもやっぱりやめてよ〜!」
「あははっ!」
リラの嫌がる様子を楽しんだカミールは、満足そうに笑顔を浮かべて振り返った。
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あれから王宮を出た2人は、ひとまずカミールの家へと向かった。
人通りの少ない道まで出ると、姿を消していたリラが魔法を解除してカミールの隣に並ぶ。
そして黒いワンピースに魔法で着替えた。
便利な魔法だなと思いながら、カミールがリラを上から下まで見る。
「え? 普通の服あるじゃん」
胸元がスクエアネックになっているその服は、彼女にしては珍しく谷間をなかなか隠していた。
ノースリーブの袖には控えめなフリルがついており、肩に少しだけかかっている。
シンプルで可愛い服装だった。
「エヘヘー。いいでしょ?」
リラがニヤニヤ笑うと、クルリと回った。
そして背中をカミールに見せつける。
「!? 何だこれ? 背中が腰まで開いてる?? 一応背中の真ん中にはリボンがあるけど……」
リラの背中に伸ばした手を震わせて、カミールが眉間に皺を寄せる。
その服は、脇の下から後ろに伸びている帯状の紐を、背中の中央でリボンにするタイプのものだった。
けれど……背中に本来あるべきものが無いっ!
「ブラは!? 下着はどこにあるんだ!?」
「あはは。言うと思ったー」
リラが笑いながら歩き始めた。
「え? 本当にどうなってるんだ?」
カミールは慌てて追いかけた。
それから2人でワーワー言いながら、手を繋いで仲良く歩いていた。
けれど、リラが歩くと言うことは……
「……カミール……疲れちゃった」
「やっぱりか」
立ち止まったリラに手を引かれたカミールは、振り返って彼女を見た。
リラは眠そうに目をトロンとさせて、赤い顔でポーっとしていた。
そしてその潤んだ瞳で、カミールを窺うように上目遣いで見る。
「どうしたんだ? 熱があるのか?」
カミールはフラフラして倒れそうなリラの肩を、抱いて支えた。
ちょっとだけ〝この魔女は相変わらず誘ってる?〟と思いながら。
「ふわぁぁ。もうこっちに居るのは限界みたい……」
リラが眠そうにうつらうつらすると、体がほのかに光り始めた。
「うわっ!? こんな街中で発光しないっ!」
カミールがあたふたしながら、路地裏にリラを押し込んだ。
「帰るのか?」
「……うん」
「そっか……」
カミールはリラを抱きしめた。
あの空間に徐々に慣らしていくしかないカミールは、リラと一緒に行くことが出来ない。
せっかくこうして気兼ねなく触れ合えるのに、リラと離れるのは寂しかった。
……次はいつ会えるかな?
リラが抗体と言っていた魔法薬を飲んだから、少しはマシにはなってる?
今までは4ヶ月間隔が限界だったから、2ヶ月後とか……??
長いな……
カミールが別れを悲しんで、リラをギュウっと抱きしめ直す。
薄っすら透け始めたリラが、腕の中でモゴモゴ喋った。
「そうだ。忘れる所だった……」
彼女は何かを、スカートのポケットから取り出した。
「??」
カミールがそれに気付いて、リラを抱きしめている腕を緩める。
「はい、どうぞ」
リラが目を閉じきってユラユラ揺れながら、カミールに鍵を渡してきた。
それはカミールの部屋にある、魔法の金庫の鍵だった。
「魔法で細工をしたから……金庫の扉と、あの白い空間への扉は……繋がってる…………」
夢現でリラが喋る。
「……金庫の扉は小さすぎない?」
「魔法で通るから、大きさは関係ないよ…………ふわぁ」
口に手を当てて彼女は大きなあくびをした。
そして瞬きを数回してから目を開けた。
リラの潤んだ瞳が、困惑したカミールを捉える。
「……俺が行きたい時に行っていいのか?」
鍵を握り締めながらカミールが聞くと、だいぶ透けて見えなくなってきたリラが、フフッと笑うのが分かった。
「いい? ゆっくり慣らしていこうね? 無理しちゃダメよ」
リラが子供に言い聞かせるように、慈しみながらカミールに忠告する。
そしていよいよ彼女の輪郭ぐらいしか分からなくなると、リラの柔らかい声だけがその場に残った。
「私の可愛い蜜蜂さん。これからはいつでもお花を求めにおいで…………フフフッ」
彼女がいた空間に、キラキラと儚げに輝く光が優しく舞い落ちた。




