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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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35/66

35:遠い約束


 語り始めようとしたリラがカミールの肩から顔を上げて、何故か冷めた表情に変わった。

 そしてそのスンとした表情のままカミールを見る。


「……引かない?」

「え?」

「何を聞いても引かない? 変わらずに好きでいてくれる?」

 リラがズイッとカミールに詰め寄る。


「……あ、あぁ……」

 カミールが圧に負けて頷いた。

 

 リラにとってはそれでも満足だったようで、安堵の表情を浮かべて、またコテンと肩に頭を置いた。

 カミールは彼女の中に〝カミールに好きでいて欲しい気持ち〟があることが分かって、ニヤついていた。




「昔むかしの人間だったころの私は……」

 リラが改めて語り始めた。

 けれどすぐさまカミールが水を差す。

「ちょっと聞いていいか? リラがよく〝人間だったころ〜〟って言うけど……今は何なんだ?」


 特に今回の出来事で、カミールが疑問に思った事だった。

 魔女?

 聖女?

 女神??

 ……いったい彼女は何者なんだろうと。


「…………何だと思う?」

 リラに質問を質問で返された。 

 本人も分かっていないようだった。


「ごめん、話を続けて」

「……昔はカミールたちみたいな普通の魔術師だったの。ファビエンヌ先生の元で教えを説いてもらっていた私は、困っている人のために魔法を使っていた。その代わりに食料やお金を貰って、生計を立てていた」

「…………」


「魔法の魅力にどっぷりはまり込んでいた私は、魔法薬を作ることにも夢中になった」

「……あの紫色のやつか」


「今は紫が多いけど、昔はもっといろんな色だったよ。それを……飲んだの。自分で。だってどんな効果があるのか調べたくなっちゃうよね?」


「…………え……うん」

 カミールは静かに引いた。

 あれほど〝引かないで〟と念を押されていたから、バレないように気を遣った。

 

 あんな怪しげな魔法薬、しかも正規の作り方が確立していない、個人オリジナルっぽい試薬を飲むなんて……

 

 それは危険な肉体改造。




「おかげで私は更に高い魔力を得たの。体温が高いのはその時の副作用」

「…………」


「そんな私を、その時の国王であるジークベルトがスカウトしてくれたんだ。王宮で思う存分研究しないかって。今思うと、人間離れしていた私を手の内に入れて、平和を保ちたかったんだろうね」

「…………」


「定期的に私が何をしているのか確認してくるジークベルトと話してる内に、好きになってしまって……」

 リラの声のトーンが落ちた。

 ついでにカミールの気持ちも沈む。


 好きなリラの……まだ未練が残ってそうな話を聞くのは、楽しい気分になるものじゃない。


「そんな時に、聖石と今では呼ばれるあの魔石がこの世界に誕生した。私はジークベルトの依頼を受けて、聖石を調べることにしたの」

「……張り切って?」


「よく分かったね。そう、聖石は調べれば調べるほど不思議なものだった。けれど普通の人には体の不調を及ぼす聖石。私は王宮から遠く離れた場所で、聖石と暮らすようになった」


 …………

 肉体改造の成果が現れたんじゃ……


 カミールは引きつりそうになる頬を、どうにかふんわりとした笑顔の形にとどめていた。


「聖石の光を浴び続けた私は……その力を自在に扱えるようになり、人を超越した存在になってしまった。すると、聖石が成長し始めたんだ」

「成長?」

「うん。大きくなって、その影響で世界に歪みが発生するほどだった…………」

 

 リラが説明を中断して、少しだけ物思いにふける。

 けれど小さく息を吸うと、また物語を紡ぎ始めた。

 



「…………世界の危機に、ジークベルトが私に()()した。『聖石をどうにかして欲しい』って」

「……どうにかって……」


「私が聖石の近くにいると、何故だか聖石の影響を薄めることが出来たの。だからジークベルトも、そんなことを言いだしたんだと思う…………」

 リラが悲しそうに眉をひそめて続けた。

「そこで私は出来るだけ遠くに、それこそ世界の果てに聖石と移り住むことにした。けれどその対価を求めた。ジークベルトと1日だけ一緒に居たいって」

「…………」

 

 カミールは当時のリラの心情を考えると胸が詰まった。


 国王も苦渋の選択だったのだろうか?

 世界を壊す元凶となる聖石と共に、居なくなって欲しいという命令。

 聖女リアリーンや女神ルゼワールが生贄のように語り継がれる節があるのは、この出来事が元になっているのだろう。


 そして、その命令を受けたリラ。


 ……どれほど切ない思いで承諾したのだろう。


 カミールは、自分の肩に身を寄せているリラに腕を回して優しく抱きしめた。

 リラも体を少し動かして寄り添い直す。


「私がある程度聖石の近くにいないと、世界の均衡を保つことが出来なかった。それで私とジークベルトは、聖石の近くで1日過ごすことにしたの。1日ぐらいなら大丈夫って思ってたから。けれど……」

 

 リラの瞳からポロリと涙が一雫落ちる。

 気付くと彼女は音も立てずに静かに泣いていた。


「ジークベルトはあまりにも耐性がなかった。普通の人の中で1番と言っていいほど。彼は…………死んでしまったわ」

「1日だけで?」


「……そうなの。ちなみにカミールと会ってる白い部屋は、だいぶ聖石の力が弱まるようになっているんだよ」

「……あそこにやっと慣れてきたのに?」

 カミールは青ざめた。


「隣の私の部屋で、聖石の力が半分ぐらいになってるかな? 他にも調合部屋や、それこそ聖石がある空間はもっと強いよ。あ、聖石の成長は今は止まっているから安心してね」

 リラが淡々と説明した。

「…………」

 カミールは複雑な心境になった。


 リラが言うように、少しずつ慣らしていかないと自分も死ぬ可能性があることと……

 聖石に全く平気な様子のリラに。


 適正が抜群にあったって考えたらいいのか?

 元々は人だったリラが聖石に平気になってるから、俺もそのうち平気になるだろうって思っていたけど……

 そんな簡単なものじゃなさそうだ。




「ジークベルトが亡くなって、ショックを受けてしまった私は……聖石と共に違う次元の世界へと渡ったの。もう誰も失いたくなかったから」

 リラの瞳から涙が次々と溢れた。

 

 カミールの肩を汚さないようにリラは体を起こす。

 そして(うつむ)いて泣いていると、隣から手が伸びてきた。

 カミールがリラの涙を拭おうとしていた。


「……取引の魔女の涙は〝リラージュラフィーリア〟の花にならないのか?」

 カミールがわざとらしく明るい調子で言った。

 そしてその雫を優しく指で掬い取る。


 リラがカミールを見つめ、眉を下げながらも少しだけ笑った。

 細めた目から涙がますます溢れる。




「当時は確かに涙がお花になったかも。そんな魔法薬を、ちょっとした出来心で作った気がする」


「…………」


 カミールはまたバレないように引いていた。

 

 

 

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