34:遠い約束
「ちょーっと待ったー!! リラは俺の恋人なんだ! 勝手なことをするな!」
カミールがエレンフリートの前に大の字で立ち、王子とリラの間に割り込んだ。
「ムッ。君は魔術師カミール。王子のわたしに対して不敬だぞ」
「あぁ? リラは女神ルゼワール様なんだぞ。その恋人の俺に向かって不敬なのはどっちだ!?」
カミールが負けじと言い返した。
リラは絶賛威嚇中の恋人のそばに、ストンと降り立った。
そして呆れ返りながらカミールに伝える。
「人の権威を借りて威張るの、上手だね」
プロポーズを一旦中断したエレンフリートが、素早く立ち上がってリラに尋ねた。
「女神様、カミールが恋人とは本当なのですか?」
「うん。本当。巨額の大金を払ってくれたの」
リラが嬉しそうにニコニコ笑った。
「え、お金?」
驚いたエレンフリートが思わずカミールを見る。
「めちゃくちゃ要約されたけど、そういうこと」
カミールがプイッと顔を背けた。
……リラがそんな気が無いのは分かってるけど、その言い方だとお金だけの関係みたいで嫌だな。
あれ?
もしかして、リラ的にはその延長だったり?
カミールがすぐさまリラを見ると、彼女はエレンフリートに耳打ちをしていた。
初めは近付いてきたリラにデレデレしていた王子は、彼女の言葉を聞くと固まった。
「…………そんな大金を……?」
「フフフッ。貴方も用意してくれる?」
「……い、今すぐには無理だけど、いつか必ずっ!!」
王子がそう言って、リラの両手を自身の両手で包み込むように握った。
リラは珍しく驚いており、熱心に見つめる王子の瞳を覗き込んでいた。
そして目線を下げてから、口だけでニコリと笑う。
「……いつか……必ず……ね」
カミールが2人の間に再び割り込んだ。
「もうこれ以上はダメだ!」
エレンフリートの手を振り払い、リラを自分の背後に隠す。
けれど王子はカミールが見えていないかのように、リラに対して愛を伝え続けた。
「女神様、一生貴方だけを愛します。こんなに誰かを欲したのは初めてなんです。カミールより絶対幸せにすると誓いますから、待っていて下さい!」
王子の宣言を聞いたリラが、頬をポッと赤くさせた。
彼女のこんな様子は初めてなので、カミールは非常にムカついてきた。
「リラ、騙されるなよ。エレンフリート王子は、その白い女性像に子供の頃から欲情していたんだ。下心からくる熱心さなんだよ! その証拠にさっきからチラチラとリラの胸を何度も見ているぞ!」
「っな! よくもわたしをあぶない人かのように……わたしは彼女の美しさを愛でているだけだ!」
「俺の恋人をいやらしい目で見ないで下さいよー!」
言い合っている2人が騒がしいからか、段々と周りに人が集まってきた。
リラとカミールを発見しても遠巻きに様子を見るだけだった人たちも、他の人が行くならと近付いてくる。
まだまだ言い合いを続けているカミールの背後で、リラがポツリと呟いた。
「終わらなさそうだね」
そして、カミールの背中にギュッと抱きつくと、素早く呪文を唱えた。
途端にカミールとリラの体が光を発し、まばゆい白色が辺りを染め上げた。
周りの人々は目をつぶったり、手で光を遮りながら顔を背けたりして、思わず動きを止める。
そして光が収まり目を元の場所へ向けた時には……
2人の姿は忽然と消えていた。
「え? 消えた!? 女神様!!」
エレンフリートがキョロキョロしながら騒ぎ始める。
それをきっかけに周りの人々も響めきだした。
けれども居ないものは探し出すことも出来ず、時間が経つにつれてその場は落ち着いていった。
最後にはエレンフリートも諦めたのか、どこかに去って行ってしまう……
消えたはずのリラとカミールは、近くの建物の屋根に座り、一部始終を見守っていた。
「フフッ。ビックリしたね」
カミールの隣でリラが笑いながら話しかけた。
「…………」
カミールはムスッとしたまま前を向いている。
「……カミール?」
「俺だって、リラだけを愛してる。ずっとずっと好きだったんだ。けれど気持ちを向けられるのを嫌がっていたから、言葉にするのは我慢していたのに……」
カミールがむくれたままリラに目を向けて続けた。
「なんであんな奴の言葉には靡くんだよ」
「…………」
リラが淡い紫色の目を大きく見開く。
それから少し経つと、白い歯を見せながらはにかんだ。
「カミール可愛いね」
「……子供扱いしないでくれよ」
カミールは不機嫌に顔を逸らして俯く。
さっきまでいた場所が視界に入り、もう誰も人が居なくなっているのが見て取れた。
「ごめんね。機嫌直して?」
クスリと笑いながら、リラがカミールの頬にキスをした。
単純なもので、実際にそれだけで少し機嫌が直る。
カミールが仕方なくリラを見ると、それを待っていた彼女が穏やかに笑った。
「……あの王子様にドキッとしていたんじゃないの。ジークベルトに似ていたから……」
リラの口から3代目の国王の名前が飛び出した。
そして切なげに目を伏せて前を向く。
「……どうしても、ここに来ると辛い記憶を思い出しちゃう。もう大丈夫かなって思ってたんだけど…………」
リラの声が段々と小さくなる。
どうやら彼女は、カミールを助けるために無理して来てくれたみたいだった。
大事にされていることが分かったカミールは、意を決して聞いてみた。
「ジークベルト様と何があったんだ?」
「…………」
チラリとカミールを見たリラが、体を傾けてきた。
カミールの肩の上に顔を置くようにして、ピッタリくっついてくる。
こんなに甘える彼女は珍しい。
カミールはドキッとしながらも、リラの返事を静かに待った。
ゆっくり息を吐いたリラが言葉を紡ぐ。
「ーーーーあのね」
彼女の遠い遠い思い出話が始まった。




