33:悪巧みは偶発的に
リラが仕切り直すように「コホン」と咳払いをした。
「私は調和の女神ルゼ…………」
リラが言葉に詰まったので、カミールがコソコソと教える。
「(ルゼワール)」
「女神ルゼワール。ラインハルツのかの国王と〝誓約〟し、この世界の調和を保っております……なのに、私の力を継ぐ者を蔑ろにするなんて、誓約を違えたいのでしょうか?」
リラがカミールをかき抱く。
突然胸を顔に押し当てられたカミールは、思わずニヤニヤしてしまった。
幸いみんなは女神しか見ておらず、カミールの緩み切った表情は怪しまれずに済んだ。
血相を変えたアレクシスが叫ぶ。
「いいえ! そんなつもりは一切ございません! 魔術師カミールが貴方様の力を継ぐ者とは知らなかったもので……」
「では、彼を自由にさせることに異論はありませんね」
「…………はい」
国王が小さく返事をした。
けれどテレージアが声を上げる。
「待ってアレク。カミールは私に酷いことをしたのよ」
「レジィ! 言葉を慎むように」
アレクシスが青ざめながら王妃の方を向き、必死に顔を左右に振った。
「……そんな……」
いつもは優しい国王にキツめの言葉を言われたからか、テレージアがムッとした表情をさらす。
それを見ていたリラが、目を細めて慈悲深い笑みを浮かべた。
「王妃テレ…………」
またリラが言葉に詰まったので、カミールがコソコソと教えた。
「(テレージア)」
「王妃テレージア。私は貴方の悪巧みを全て知っております。よくもカミールを拐かしましたね」
リラが語気を強めた。
テレージアがビクッと体を震わせる。
アレクシスはそんな王妃の様子を見逃さなかった。
「レジィ、悪巧みって何?」
「えっと、その……」
テレージアがモゴモゴとどもる。
リラが不意にカミールから離れると、王妃のそばにフワリと飛んでいき、音もなく地面に降り立った。
そしてテレージアの前に堂々と立つ。
「いいですか。よく覚えといて下さい。肌の黒い所を消せると言うことは……作ることも出来るのですよ」
リラがニコニコと無邪気に笑いながら、王妃を盛大に脅した。
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「あー楽しかった」
仰向けにフヨフヨ飛んでいるリラが、腕を真横に伸ばした。
隣を歩くカミールは〝泳いでいるみたい〟と思いながら、演技をひとしきり楽しんだ魔女を見つめる。
2人は今、国王たちから無事に解放されて、帰るために庭園内を移動していた。
「それにしても、リラは女神ルゼワールだったんだ。てっきり聖女リアリーンだと思ってたけど……」
「あー、両方私がモデルのはずだよ。私はずっとリラージュラフィーリアなんだけど、語り継がれる間にだいぶキャラ付けされたみたい」
「!? じゃあそのさっ…………」
カミールは続く言葉を言ってもいいか少し悩んだ。
1番気になっているジークベルト国王との関係について、聞いてみたかったのだ。
けれどリラの今までの話と、語り継がれている彼女の逸話が示しているのは、愛したジークベルト国王との死別。
その悲しい思い出を掘り返すのは憚られた。
彼女はその時のトラウマから、人を愛することを長いあいだ放棄してしまっていたから。
この気まぐれな魔女が、何を気に入ってカミールの告白を、激甘判定の末に受け入れてくれたのかが分からない。
カミールはリラを手放したくなくて慎重になっていた。
そうやってカミールが思い悩んでいるうちに、白い女性像が立つあの中庭についた。
「あ、これ……私?」
リラも気付いたらしく、浮き上がって像の女性と目線を合わせるようにして顔を眺めた。
そして悲しげに笑って、誰に言う訳でもない小さな声をこぼす。
「……約束を……守ってくれてるんだね」
「…………」
カミールは彼女の過去がますます気になったけれど、感傷に浸る悲しそうなリラを見ると胸が痛んだ。
代わりに、違う気になることを確かめようと思い立つ。
「リラ、ちょっと隣に同じように立ってみてよ」
「?? ……こう?」
リラがふわりと移動して、像の右隣に立った。
像が台座に立っている分の高さは、地面から浮いて合わせてくれている。
「ふーむ…………」
カミールが鋭い目つきでリラと像を交互に見た。
やっぱり、本物の方が胸が大きい。
確認が終わったカミールが、目を閉じてうんうん頷いた時だった。
前にも聞いた声が近くで上がる。
「め、女神様!? もしや女神様をずっとお慕いしているわたしのために、神が遣わしてくれたのか!?」
「げっ、ややこしい相手に見つかった……」
げんなりしたカミールの目線の先には、第二王子のエレンフリートがいた。
彼は鼻息荒くズンズンこちらに向かってくると、浮かんでいるリラの前で跪いた。
「そこの美しい女神様。ひとめ見た時から貴方が運命の人だと感じました。どうかわたしの妃になって下さい」
真剣な表情で右手を差し出す王子。
突然行われたプロポーズだった。




