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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの リラ編

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33/66

33:悪巧みは偶発的に


 リラが仕切り直すように「コホン」と咳払いをした。


「私は調和の女神ルゼ…………」

 リラが言葉に詰まったので、カミールがコソコソと教える。

「(ルゼワール)」


「女神ルゼワール。ラインハルツのかの国王と〝誓約〟し、この世界の調和を保っております……なのに、私の力を継ぐ者を(ないがし)ろにするなんて、誓約を(たが)えたいのでしょうか?」

 

 リラがカミールをかき抱く。

 突然胸を顔に押し当てられたカミールは、思わずニヤニヤしてしまった。

 幸いみんなは女神(リラ)しか見ておらず、カミールの緩み切った表情は怪しまれずに済んだ。


 血相を変えたアレクシスが叫ぶ。

「いいえ! そんなつもりは一切ございません! 魔術師カミールが貴方様の力を継ぐ者とは知らなかったもので……」

「では、彼を自由にさせることに異論はありませんね」

「…………はい」

 国王が小さく返事をした。

 

 けれどテレージアが声を上げる。

「待ってアレク。カミールは私に酷いことをしたのよ」

「レジィ! 言葉を慎むように」

 アレクシスが青ざめながら王妃の方を向き、必死に顔を左右に振った。


「……そんな……」

 いつもは優しい国王にキツめの言葉を言われたからか、テレージアがムッとした表情をさらす。


 それを見ていたリラが、目を細めて慈悲深い笑みを浮かべた。


「王妃テレ…………」

 またリラが言葉に詰まったので、カミールがコソコソと教えた。

「(テレージア)」


「王妃テレージア。私は貴方の悪巧みを全て知っております。よくもカミールを(かどわ)かしましたね」

 リラが語気を強めた。

 

 テレージアがビクッと体を震わせる。

 アレクシスはそんな王妃の様子を見逃さなかった。

「レジィ、悪巧みって何?」

「えっと、その……」


 テレージアがモゴモゴとどもる。

 リラが不意にカミールから離れると、王妃のそばにフワリと飛んでいき、音もなく地面に降り立った。

 そしてテレージアの前に堂々と立つ。


「いいですか。よく覚えといて下さい。肌の黒い所を消せると言うことは……作ることも出来るのですよ」

 

 リラがニコニコと無邪気に笑いながら、王妃を盛大に脅した。





 **===========**


「あー楽しかった」


 仰向けにフヨフヨ飛んでいるリラが、腕を真横に伸ばした。

 隣を歩くカミールは〝泳いでいるみたい〟と思いながら、演技をひとしきり楽しんだ魔女を見つめる。

 2人は今、国王たちから無事に解放されて、帰るために庭園内を移動していた。


「それにしても、リラは女神ルゼワールだったんだ。てっきり聖女リアリーンだと思ってたけど……」

「あー、両方私がモデルのはずだよ。私はずっとリラージュラフィーリアなんだけど、語り継がれる間にだいぶキャラ付けされたみたい」


「!? じゃあそのさっ…………」

 

 カミールは続く言葉を言ってもいいか少し悩んだ。

 1番気になっているジークベルト国王との関係について、聞いてみたかったのだ。


 けれどリラの今までの話と、語り継がれている彼女の逸話が示しているのは、愛したジークベルト国王との死別。

 その悲しい思い出を掘り返すのは(はばか)られた。

 彼女はその時のトラウマから、人を愛することを長いあいだ放棄してしまっていたから。


 この気まぐれな魔女が、何を気に入ってカミールの告白を、激甘判定の末に受け入れてくれたのかが分からない。

 カミールはリラを手放したくなくて慎重になっていた。




 そうやってカミールが思い悩んでいるうちに、白い女性像が立つあの中庭についた。


「あ、これ……私?」

 リラも気付いたらしく、浮き上がって像の女性と目線を合わせるようにして顔を眺めた。


 そして悲しげに笑って、誰に言う訳でもない小さな声をこぼす。

「……約束を……守ってくれてるんだね」

「…………」

 カミールは彼女の過去がますます気になったけれど、感傷に浸る悲しそうなリラを見ると胸が痛んだ。


 代わりに、違う気になることを確かめようと思い立つ。

「リラ、ちょっと隣に同じように立ってみてよ」

「?? ……こう?」

 

 リラがふわりと移動して、像の右隣に立った。

 像が台座に立っている分の高さは、地面から浮いて合わせてくれている。


「ふーむ…………」

 カミールが鋭い目つきでリラと像を交互に見た。

  

 やっぱり、本物の方が胸が大きい。


 確認が終わったカミールが、目を閉じてうんうん頷いた時だった。

 前にも聞いた声が近くで上がる。


「め、女神様!? もしや女神様をずっとお慕いしているわたしのために、神が遣わしてくれたのか!?」

「げっ、ややこしい相手に見つかった……」


 げんなりしたカミールの目線の先には、第二王子のエレンフリートがいた。

 彼は鼻息荒くズンズンこちらに向かってくると、浮かんでいるリラの前で(ひざまず)いた。

 

「そこの美しい女神様。ひとめ見た時から貴方が運命の人だと感じました。どうかわたしの妃になって下さい」

 

 真剣な表情で右手を差し出す王子。


 突然行われたプロポーズだった。




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