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3:カミールと魔女


 魔女の名前は分かったけれど、問題はこの花をどうやって手に入れるかだった。


 カミールはランプを手に取ると、今いる2階からバタバタと階段を駆け降りて、キッチンで家事をしている母親の背中に呼びかけた。


「お母さん! リラージュラフィーリアって花を知ってる?」

 

 母親は朝食の仕込みをしていた手を止めて、カミールの方へ振り向いた。

「え? リラ……何??」

「だから、リラージュラフィーリアって花!」

「…………あぁ! ボンボン花のことね」

 母親はニッコリ笑うと、前を向いて作業に戻った。


 カミールは目をまん丸にさせて、母親の背中を穴が開くほど見つめた。

「……ボンボン花って、もしかして……」

「そうそう。お母さんが好きな、あのまあるい花よ。確かそんな長ったらしい名前だった気がするわ」

 母親の背中から楽しそうな笑い声がきこえた。


「…………っそ」

 絶句しているカミールがやっと何か言おうとした時に、母親の呑気な声が先にした。

「庭にも生えてるでしょ? 好きな女の子にあげるなら、少しだけ取っていいわよ〜」

「そんなんじゃないからっ!!」

 カミールは真っ赤になって叫ぶと、逃げるように慌てて庭へと向かった。


「もう遅いから、取るなら明日にしなさいよ〜」

 

 裏口から庭に飛び出たカミールの耳に、相変わらずのんびりした母親の声が聞こえた。




 ーーーーーー


 カミールは庭にあったボンボン花を一輪つんで、部屋に持って帰って眺めていた。


「……これが??」

 ベッドの縁に腰掛けて、右手で握りしめている花に呟く。

 少し掲げて、窓から差し込む月明かりを頼りに下から見てみたりもした。


 目の前にはやっぱり見慣れたボンボン花が。

 確かに細長い花びらがドーム状になって咲いている。


 カミールは首をかしげながらも、ベッドに開きっぱなしになっている花の本に目を通した。

「……〝とても美しく品のある花〟……言われれば?」


 カミールはさっきとは反対側へと首をかしげた。


 とてつもない幸運が重なり、手に入れることが出来た魔女に会える鍵。

 庭に咲いていたリラージュラフィーリアと思われる花。

 

 ……もっと、険しい山の頂上に咲く花とか、モンスターが潜む洞窟の奥に咲く花を覚悟していたのに。

 こんなに簡単に手に入っていいのか?

 魔女に会うには至難の(わざ)って書いていたような……


 カミールは疑いの眼差しを花に向け続けていた。

 けれど気を取り直すと、姿勢を正してボンボン花を真剣に見つめた。


 ズボンのポケットに全財産がちゃんと入っているかを、花を持っていない方の手で確認する。

 それが終わると、一呼吸ついてからゆっくりと口を開いた。



「魔女のリラージュラフィーリアに、会わせてくださいっ!!」



 祈りを込めてそう唱えると、カミールはギュッと目を閉じた。




 ーーーーーー


「…………」

 カミールの大声が静まると、辺りは再び静寂に包まれた。

 いつまで経っても何も起こる気配が無いので〝やっぱりただの噂話だったかぁ〟と諦めながら、カミールは(まぶた)を持ち上げた。


「あれ?」

 けれど目の前には、自分の部屋とは違う光景が広がっていた。

 気付くと握っていたはずの花も無くなっている。


 白い壁、白い天井。

 どこかの部屋であることは確かだった。

 広くてどこまでも白い空間の中、カミールはフワフワな上質のソファに座っていた。

 白い革張りに焦茶色の曲線の木枠でデザインされたロングソファ。

 そこから見える壁には、変哲のない白いドアが1つ。

 

 そのドアを何気なくジッと見ていると、ガチャリと音がした。


「…………こんな時間にだぁれ?」

 小さな声と共に少しだけ開いたドアの隙間から、白くて細い手が伸びてきた。

 爪の先が薄いピンク色に塗られているのが目についた。

 

 すると、ドアの枠に手をついて顔を半分だけ覗かせた女性が現れた。

 ボンボン花のような淡い紫色の瞳が、ジイッとカミールを見つめる。

 ウェーブした長い黒髪も、かたむけた顔と一緒にチラリと覗いた。


 その女性がカミールと目を合わせたまま、ボソボソ言い始めた。

「……子供? 珍しいなぁ…………」

 そして目線を下に向けたりカミールに向けたりして何かを確認する。

「相手は子供だし、ギリオッケーかな…………」

 そう呟いて1人で頷くと、女性はやっと扉から部屋へと入って来た。


「!?」

 ずっと様子を(うかが)っていたカミールは、出てきた女性を見た途端に目を見張って赤くなった。

 慌てて近付いてくる女性から目を逸らす。


 女性は丈の短い黒のキャミソールワンピース姿で現れた。

 けれど目を凝らすと薄っすら透ける生地で、動きに合わせて中に着ているお揃いの黒い下着が見えたり見えなかったり……

 

 しかもすごく胸の大きな女性だった。

 それでいてほぼむき出しの足や腕はほっそりしている。

 カミールが出会った女性の中で、彼女は1番グラマーだった。

 

 

 え?

 え??

 なんでこの人は、下着姿なんだ……?

 

 服の知識に長けている訳ではないカミールは、ただただ混乱した。

 

 実は女性が身につけているのはルームウェアの一種だった。

 初対面の人に会う格好ではないけれど、カミールが子供なので〝まぁいっか〟とマイペースな彼女に判断されていた。

 

 そんな女性は平然とカミールの隣に座った。

 カミールは隣の女性に少しだけ視線を向ける。


 …………まぁ、まじまじと見なかったら服に……見える……?


 端にフリルがついたスカートから白い太ももが半分ぐらい覗いている。

 カミールは頬を赤くしてまた目を逸らした。


 ……ギリアウト……


 そんなカミールをよそに、あくびを手で押さえながら女性が喋った。

「ふわぁぁあ…………私の名前をよく言い当てたね。おめでとう」

 

 女性はやっぱり〝取引の魔女リラージュラフィーリア〟だった。


 カミールは思い切って魔女の方を見た。

 彼女の顔()()を見るようにして。

 魔女はカミールの視線を受け止めて、穏やかに目を細めた。


 大きくて神秘的な淡い紫の瞳。

 目鼻立ちはくっきりしているけど、どちらかと言うと愛らしい顔立ち。

 

 可愛いとは思うけど……


「絶世の美女の魔女……かなぁ?」

 カミールはイメージと違ったので、思わず感想を口からこぼしてしまった。

 魔女は一瞬目を見開くと、すぐさま楽しそうに肩を揺らして笑った。


「あはは! もしかしてそんな噂があるの? 残念だけど違ったねー。けど、私が魔女なのは本当よ」

 魔女は、顔にかかった自分の髪をかきあげて後ろに流した。

 カミールは自然とその動きを目で追ってしまい、揺れる髪先を見つめていると、彼女の豊かな胸も目に入ってきてしまった。

 もちろん、柔らかそうな深い谷間も。


 …………

 でかい。

 絶世の美女とかは分からないけど、存在がエロいお姉さん……


 いたいけな少年カミールは、また目を逸らしながら強くそう思った。


 


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