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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの カミール編

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27/66

27:言い伝え 


 【取引の魔女】


 対価を払えば、望み通りの魔法の力を授けてくれる魔女。

 

 絶世の美女である彼女は、お金といった価値ある物にしか反応を示さない。

 高額であればある程、取引は確実になるだろう。

 

 特別な時空に住む魔女は、俗世との関わりを絶ち、1人で過ごすことを好む。

 そのことから、彼女に会いに行くのは至難の(わざ)とされている。


 取引の魔女に会う方法はたった一つ。

 彼女の名前を言い当てることだ。


 手がかりは花の名前にある。


 遠い昔、魔女は愛する者を失い、悲しみに暮れて涙した。

 瞳からこぼれ落ちた雫が地面に触れると、次々に美しい花が咲いたと言われる。


 その時の花は、いつしか魔女の名前で呼ばれるようになった。

 

 花を手に持ち、魔女の名前を唱えて会いたいと強く念じること。

 そうすれば、彼女に会う為の扉が開かれるだろう。

 

 花言葉はーーーー


 「裏切り」「憎しみ」「深い絶望」

 



 **===========**



 【夢うつつの世界】


 気がつくと、目の前には豊満な体をした美しい女性がいた。

 惜しげもなく、大きな胸の谷間を(あらわ)にしているその姿に、目眩を覚えるほどだった。

 白く柔らかそうな2つの山の間に、顔を埋めたい衝動に駆られる。


「求めるものは何かしら?」

 ソファに妖美に座る女性が、足をおもむろに組み替えた。

 そこにも白くて柔らかそうな、太ももという名の膨らみがあり、組まれたその部分に顔を埋めたい衝動に駆られる。


 魅惑のラビリンスに迷い込んでしまったのだろうか?

 気がつけば、彼女こそが求めるものですとこうべを垂れていた。

 ほとばしる情熱を口から叫んでいた。


 けれど女性は、無情な現実を突きつける。


「気持ちはいらないの。私が欲しいならこの金額を払ってくれる?」

 そう言って金額を告げられた。


「なんて金額だ! 国でも買えるんじゃないか?」

「払えないなら諦めて?」

「なんだと!? 君の名を探し当てて、ここまで来たのに!?」

 

 今までの苦労を返して欲しくて、女性に手を伸ばした。

 途端に視界が暗転し、体から力も抜けていく。


 魅惑の彼女の嘲笑(あざわら)う声だけが、いつまでも耳に残っていた。




 **===========**



 【魔女の生態】


 次に紹介するのは、実在している3人目の魔女だ。

 いろいろな魔女の伝承を研究してきたが、これほど不可思議な魔女は彼女だけだった。

 今年58歳になる私は、人生の中でただ1度だけ、その魔女に会いに行ったことがある。

 対価を求めるその魔女は、ある程度のお金を支払うと、彼女の時間を私に割くことを了承してくれた。

 それで沢山のことを質問し、回答を得られることが出来た。


 まずは魔女の住む空間。

 魔女が言うには、異次元の空間に居住スペースのようなものを、魔法で生み出しているらしい。

 

 そしてそこに住む理由。

 魔女はこの空間にある魔石の力を得て、自分の物にしているそうだ。

 だが一般人には有害であり、私も少しだけ息苦しさを感じていた。

 魔女はある人とした約束によって、魔石から離れることが出来ないとも言っていた。

 魔石の力によって、長い時を生きることが出来るこの魔女は、その悠久の時の大部分を独りで過ごす。

 寂しくないのかと尋ねると、親しくなった人を見送る方が寂しいから、独りがいいと言っていた。

 何とも悲しい生態だ。


 次に、こうやって会える方法がある理由について聞いてみた。

 単なる暇つぶしらしい。

 そんな気まぐれな部分がある点は、他の魔女たちと共通していた。


 特筆すべきは、魔女の住む場所と我々の住む場所の、時の流れの違いだった。

 魔女が言うには、彼女の1日が我々の40日相応に値するらしい。

 それもこれも、魔石のお陰なんだそうだが……


 魔女の元から帰った直後の私は、また必ず話を聞きに行こうと思っていた。

 けれど、その願いは叶うことが無かった。

 なぜなら帰った翌日から、酷い熱と吐き気に襲われたのだ。

 それが1週間続き、回復してきたころに気付く。

 魔石の影響だということに。


 あんな辛い経験をするのは、もうこりごりだった。

 



 **===========**


 『魔女の生態』という本を手に取っていたカミールが、パタンとそれを閉じた。

 そして本棚の元あった場所に丁寧に戻す。

 

 彼の部屋は、2面に渡る壁を本棚が占領しており、集めている本が隙間なく並んでいた。


 大半(たいはん)が、取引の魔女について何かしら触れている本だった。

 魔女についての本はまだ分かりやすいが、人の日記のような本の中にも出てくることもある。

 カミールはそれらを少しずつ集めていたのだ。


「……いざと言う時に、弱みに付け込めないかなと思って集めたんだけど……」


 思わず呟いたセリフの後に、心の中で軽口をたたく。

 

 あとは他の誰かに、魔女と会う方法を分からせないためだったりして……


 カミールは思わず苦笑した。

 そして本棚を見回し、ラインナップに目を通す。


 取引の魔女について。

 聖女リアリーンについて。

 特殊な魔石についてーー


 気付けばすごい量になっていた。

 

 ……もう少しで、この山積みの本も必要無くなるかもな。


 カミールはそんな思いを乗せて、本棚から魔法の金庫に眼差しを向けた。




「ーーーーーーコンコンッ」


 誰かが訪ねてきたことを知らせる、ドアノッカーの音が玄関から聞こえた。

 ちょうど家にはカミール以外に誰もおらず、彼は対応しようと部屋を出る。


「…………」


 けれど胸騒ぎがして部屋に舞い戻り、窓から外を確認した。


 ……王宮の……馬車?


 紋章こそないが、カミールがよく利用させてもらっているシンプルな馬車だった。

 いつもなら、家から少し歩いた大通りで乗り降りするのに、今日は家の前に止まっている。


 何だろう?

 テレージア様の急ぎの用事か?

 ってことは……荒稼ぎのチャンス!?

 

 途端に元気になったカミールは、ポケットにボンボン花が入った小瓶を忍ばせた。

 

 もしかしたら、いつもより大金をくれるかもしれない!

 もしかしたら、目標金額を達成できるかもしれない!?

 もしそうなったら、速攻で〝取引〟しに行くしかないよな!?

 

 浮かれきった彼は、急いで部屋を出て玄関へと向かった。






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