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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの カミール編

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26/66

26:王族の守護神 


 今日のカミールは、上質な魔術師の服に身を包み、澄まし顔で王宮内を歩いていた。

 そうしていると上辺(うわべ)だけは、純粋で大人しそうな青年に見える。


 けれど心の中では……

 

 フッフッフッ。

 今日も荒稼ぎするぞー!


 とほくそ笑んでおり、いつものカミールだった。


 ここへの来訪もだいぶ慣れた彼は、ツルツルに磨かれた立派な廊下を進む。

 向かうはもちろんテレージア王妃の部屋。

 

 ……部屋までの道のりも覚えたんだけどなぁ。


 カミールはそんなことを思いながら、前を行く従者の背中を見つめた。

 いつも同じ男性なので、彼とは顔見知りになってきていた。




 そうこうしていると王妃の部屋についた。

 従者の男性が扉を開けてくれると、カミールの目の前に煌びやかで良い匂いのする空間が広がる。


 その中心に佇む美しい王妃テレージア。

 ニッコリと艶やかに笑いながら、カミールを出迎えてくれた。


「よく来てくれましたね」


 …………

 

 カミールは笑顔を張り付けたまま、今までのテレージアとのやり取りを思い出していた。


 ……最近ちょっと様子がおかしいんだよな。

 デコルテ付近の際どい場所のホクロを取らせたり、ふとした時にボディタッチをしてくることが増えた気がする。

 

 多分……懐柔(かいじゅう)しようとしている。




「いつもありがとうございます。今日も僭越(せんえつ)ながら魔法を(ほどこ)させていただきます」

 カミールは気を引き締めながら、爽やかな笑みをテレージアに返した。

 



 今日の分の魔法をかけ終わると、テレージアが手鏡の中の自分をニコニコと見つめていた。

 けれど長くは続かず、急に表情を暗くする。


「はぁ。カミールのお陰でどんどん美しく、若返っておりますのに……こうなってくると、口元のホクロだけが悪目立ちしますわね……」


「…………」

 カミールは何も言えず、困り笑顔を浮かべ続けた。


「……ね? カミール」

 それを分かっていてなお、テレージアが同意を求めて妖艶に笑う。

 

 だからカミールはしょうがなく口を開いた。

「アレクシス国王に取るなと言われていますし……場所が場所なだけに畏れ多いです……」

 猫を被った彼がシュンと縮こまる。


「そうですわね……」

 テレージアが(うれ)えいながら、扇を広げて口元を隠した。




 カミールは話題を変えるために、聞きたかったことを切り出した。

「……あの……テレージア様?」

「何かしら?」


「以前に、何か特別な褒美を(たまわ)ってくれるとおっしゃっていましたが……」

「覚えているわ。カミールの素晴らしい功績を(たた)えたいの。何がいいかしら?」

 テレージアが扇をたたんでニッコリと笑った。


「ボク、本を読むのが好きなんで、王族専用の書庫に入らせてくれませんか?」

 カミールが眉を下げて笑うと首をかしげた。


「あら? そんなことでいいの?」

「ボクにとっては、これ以上に無い褒美になります。そこにある本を手に取る機会なんて、一生巡ってきませんから……」


「分かったわ。これからここへ来た帰りに、いつでも寄れるように手配しておきましょう。ただ持ち出すのはいけないわ。あくまでも書庫の中で読むように」


「はい! ありがとうございます!」

 カミールは眩しいほどの笑顔を浮かべた。




 ーーーーーー


 早速カミールは、王族専用の書庫に案内してもらうことにした。

 顔見知りの従者の男性についていくと、広くて自然豊かな中庭に出た。


 その真ん中には女性の白い像が置かれていた。

 四角い台座の上に立つ女性は、うつむきかげんに目を閉じて、穏やかにほほ笑んでいる。

 何かの女神様なのか、柔らかくて幾筋(いくすじ)もドレープが入った布をまとい、胸の下でアクセサリーみたいな金具で止めていた。

 そして、体の側面はがっつり開いて肌が見え隠れしている。


「え?」

 カミールは思わず像の前で立ち止まった。

 

 ーーそれは、リラが〝人間だったころの服〜〟と言って見せてくれたものによく似ていた。


 立ち止まって動かなくなったカミールを心配して従者が声をかけた。

「どうかしましたか?」

「……何でもないです」

 カミールは苦笑を浮かべると、少し急ぎ足で従者の元へ向かった。


 …………リラなのか?

 顔は……まぁリラにも見えるような?

 でも……


 胸が控えめだった。


 カミールは難しい顔をして、しきりに首をひねっていた。




 書庫に着くと、特定の人しか入れない場所のためか、従者は部屋の外で待っていてくれた。

 カミールは薄暗い部屋の中をランプ片手に歩く。

 彼の他には誰もいないようで、カミールがたてる物音だけが辺りに響いた。


「えーっと……確か3代目の時だったはず……」

 カミールはまず初めに、3代目国王について調べることにした。


 聖女リアリーンを認めて国をあげて(たた)えたのは、3代目国王のジークベルト様だ。

 言い伝えではそうなっている。


 カミールは目当ての本を数冊見つけると、近くにあった机に積み上げた。

 その机と対になっている椅子に座り、ランプを手元に置く。

 積み上げた1番上の本を手に取ると、黙々と読み始めた。


 どんどん読み進めては、目的の内容から大きく逸れたのを感じると次の本に移る。

 そうして3冊目の本に差し掛かった時に、ページを(めく)る手が少し震えた。


「……どういう事だ?」

 本には偉大な国王様を賞賛した、武勇伝みたいなものが書かれていた。

 


 *ーー 守護神ルゼワール ーー*


 民の幸せを心から案じていたジークベルト国王の治世で、ある日世界の歪みが生じた。

 その歪みのそばに降り立ったのは、調和の女神〝ルゼワール〟


 ジークベルト国王は女神と誓約を交わす。

 その御身の命と引き換えに。


 女神はジークベルト国王の願いを叶え、世界の歪みを消滅させた。


 そのことから、ラインハルツ王族の守護神はルゼワールになり、(まつ)(たた)えられている。


 *ーーーーーーーー*



「…………ジークベルト様も命を落としている。聖女リアリーンが命を落としたあとに、違う世界の危機が来て、今度はジークベルト様が?」

 

 カミールはよく分からなくて頭を抱えた。




 ーーーーーー


 書庫からの帰り道、カミールは中庭でまた女性の白い像を眺めた。

 考え事をしながら熱心に見ていたためか、彼はそばに人が来ても気付かなかった。


「この像が気になるのかい?」


 カミールがハッとして隣の人物を見ると、第二王子であるエレンフリートが立っていた。


「も、申し訳ございません。ボクは魔術師のカミールと申します。テレージア様の許可を得て、ここに入らせてもらっております」

 カミールは慌てて礼を取った。


「フフッ。知ってるよ。ララシェルン様の申し子だよね? 顔を上げて良いよ」

 エレンフリートの柔らかい声が、頭を下げているカミールに掛けられる。


 カミールがそっと顔を上げると、ニッコリと笑うエレンフリートがいた。

 カミールと年が近そうな彼は、アレクシス国王にどことなく雰囲気が似た、穏やかな青年だった。


「この像の女性は、わたしも小さな頃から好きなんだよ」

 像に視線を移したエレンフリートが、静かに続ける。

「優しくてそれでいて可憐な女性。この王国の守護神さ」

 

 ……やっぱり。

 

 この白い像は調和の女神ルゼワールを模している。


「あぁ、それにしても最高だね。彼女のこの曲線美! 像を作らせた当時の国王の趣味を、反映させたに違いないっ!!」

 エレンフリートが頬を染めウットリした。

 恍惚の表情を像の女性に向け、勝手にヒートアップする第二王子は若干怖かった。


 ……なんだこいつ。


 カミールは冷ややかな目で見つめた。


「なんて儚げな表情! 現実にこんな女性がいたらゾッコンだよね。………………けれど」

 勝手にクールダウンしたエレンフリートが、今度は切なげに像の女性を見る。

「この国のために命を落とさせた女性……とも聞く。我々王族は戒めもこめて、ここに彼女を(まつ)っているらしい」


「…………」


 リアリーン様と同じ……

 公には語られていないけど、リアリーン様も女神ルゼワールも、王族が関与して命を落としている?


 カミールも女性の白い像を見た。

 話を整理し道筋立てて推測しようと、思考を巡らせる。

 

 …………


 この女性がリラだとすると……


 うーん、やっぱりもっと胸を盛ってくれないと、ピンとこないな。

 はっ!!

 昔は胸が今みたいに大きくなかったとか?


 えぇ??



 けれど物事が複雑すぎて考えることを放棄し始めた頭は、どんどん違う方に逸れていった。





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