24:告白
あれから警備隊は、リラとカミールは知り合いなだけだと判断してくれた。
なんとか解放されたカミールは、外に出ると赤く染まった空を見上げて一息つく。
辺りはもう夕暮れ時を迎えていた。
ちょうどイルゼの仕事が終わる時間だったので、一緒に帰る流れになっていた。
彼女が警備隊の紺色の制服を着替えてから、建物の外で2人は落ち合う。
そして並んで歩き出した。
暗くなる前に帰ろうと石畳みの道を急ぐ。
「……あのさ、カミールはやっぱりそのリラっていう人が好きなの?」
イルゼがおずおずと聞いてきた。
「え、あ……うーん、どうだろうな?」
焦ったカミールは、彼女とは反対側に目を逸らす。
んんん!?
これは〝好き〟って答えても大丈夫なのか?
尋問の続き?
カミールは心臓がバクバクした。
おそらくカミールの〝肌の黒い所を消せる魔法〟も、調べられたら禁忌の魔力だということにされてしまう。
犯罪者だと認定されてしまう。
そうならない為に、カミールは出来るだけ怪しまれることは言いたくなかった。
けれど努力の甲斐もむなしく、イルゼが核心をついてきた。
「…………もしかして、あの人にカミールの特殊な魔法を教えてもらったの?」
……こんな時イルゼは変に勘がいいんだよなぁ。
「…………」
カミールは返事に困って押し黙ってしまった。
沈黙は肯定だと受け取ったのかイルゼが続けて喋る。
「カミールが習得したがっている〝消える魔法〟だって、あの人は使えてたし……」
「たまたまだって。俺も今日初めて見たし。てか初めて外で会ったなぁ…………」
カミールはつい思考が逸れて、今日のリラとの出来事が口をついて出た。
「じゃあいつもはどこで会ってるの?」
「……リラの……部屋?」
「!? え? 部屋まで行ってるの? 何しに!?」
「…………何って……あの豊満なボディを余すところなく見せつけられてる? ブラちらとかパンちらとか、息をするようにかましてくるからな。もう理性との攻防戦?」
「〜〜〜〜っ!?」
イルゼが顔を真っ赤にして立ち止まった。
プルプルと震えながら目を見開いてカミールに向ける。
カミールは、はたと立ち止まってイルゼに言った。
「ごめんごめん。リラのこと考えてたら、リラに言うようなことを言ってしまった」
「…………全然女性の影がチラつかないから安心していたのに」
イルゼがブツブツと何やら言い始めた。
「貴族の女性を相手にしてる商売だって、本気では相手にされないだろうしって油断していたわ。告白待ちしてる場合じゃないっ」
「……何を言ってるんだ? よく聞こえないんだけど……」
イルゼがバッと顔を上げて、しっかりとカミールを見た。
「私、カミールが好きなんだけどっ!!」
「…………能力モテは勘弁して欲しいんだよなぁ」
カミールがすまなそうに頭をかく。
「え? 何の話?」
「俺の特殊な魔法が目当てなんだろ?」
「??」
本気で分かっていなさそうなイルゼを見て、カミールは正直に告げた。
「イルゼが裏では『カミールのお陰で私はいつまでも綺麗なままでいられるし、お金にも困らないのよねー』って言っているのを知ってるんだ」
「そ、それは……私の好きな人は特別だって自慢したかっただけだし」
イルゼが顔を真っ赤にさせて、うつむいた。
「…………」
カミールは口をつぐんだまま、イルゼをただ眺めた。
真意はどうであれ、真っ直ぐに気持ちを伝えてくるイルゼが羨ましくなった。
……俺も我慢せずに伝えられたら、どんなに……
暗い気持ちを抱えてたカミールは、真横に視線を滑らせて自嘲気味に笑う。
泣き出しそうな笑みを突然浮かべたカミールに、イルゼは目を丸めた。
「……カミール?」
不安げに声をかけると、カミールが顔を上げて真剣に話し始める。
「いいかイルゼ。実はリラとは7歳の時から知り合いなんだ」
「??」
「そんな子供の時から彼女を見てたら……リラ以下の女性には、あまり興味を持てないんだよなぁ……」
カミールがそう言ってチラリとイルゼの胸を見た。
控えめに主張する慎ましい胸を。
「なっ!? 最低!!」
イルゼが思いっきり叫んだ。
目が向けられた胸を、自分で抱きかかえるように隠しながら。
そんなイルゼを気にすることなく、カミールはサラリと告げる。
「そんな訳でごめん」
「でもっ……魔法学校の卒業パーティで、ダンスのペアを組もうって申し込んでくれたよね?」
「あぁ。1番仲良い女友達だったから……ただの学校の強制イベントで、好意を示した訳じゃないだろ?」
「ペアを組むってそういうことじゃん! それにカミールがよく『いつもそばで支えてくれて、ありがとな』って言うから……私だけが特別だって思うよね、普通……」
口早に喋るイルゼの声は徐々に小さくなっていき、目に見えてシュンとした。
「…………そのセリフ改ざんされてないか? 学校の難しい課題なんかを助けてもらってたから『いつも一緒に課題をしてくれて、ありがとな』って言ってたはずだけど……」
「ほぼ一緒じゃん」
イルゼがキッとカミールを睨むように見た。
「…………」
カミールは呆然とした。
イルゼは思い込むと〝こうだ!〟と突っ走る節がある。
だから、もうキッパリ断ろうとカミールは決意した。
たとえイルゼとの友情が壊れてしまっても……
「思わせぶりな態度だったのならごめん。でも俺にとってイルゼは大切な幼馴染だけど、恋愛感情は抱いてないんだ。イルゼの気持ちは受け取れない」
「…………っ!」
カミールに振られたイルゼは、目を見開いて瞳をウルウルさせた。
そしてついに涙を一筋こぼすと、泣き顔をカミールに見られたくなくて顔を伏せる。
でもそうすることで、よけいにポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
「…………分かった」
何とか言葉を搾り出すと、イルゼはくるりと背中を向けて走り出した。
カミールは遠ざかっていく幼馴染の姿を、見えなくなるまでじっと眺めるしかなかった。




