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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの カミール編

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24/66

24:告白


 あれから警備隊は、リラとカミールは知り合いなだけだと判断してくれた。

 なんとか解放されたカミールは、外に出ると赤く染まった空を見上げて一息つく。

 辺りはもう夕暮れ時を迎えていた。


 ちょうどイルゼの仕事が終わる時間だったので、一緒に帰る流れになっていた。

 彼女が警備隊の紺色の制服を着替えてから、建物の外で2人は落ち合う。

 そして並んで歩き出した。

 暗くなる前に帰ろうと石畳みの道を急ぐ。


「……あのさ、カミールはやっぱりそのリラっていう人が好きなの?」

 イルゼがおずおずと聞いてきた。

「え、あ……うーん、どうだろうな?」

 焦ったカミールは、彼女とは反対側に目を逸らす。


 んんん!?

 これは〝好き〟って答えても大丈夫なのか?

 尋問の続き?


 カミールは心臓がバクバクした。

 おそらくカミールの〝肌の黒い所を消せる魔法〟も、調べられたら禁忌の魔力だということにされてしまう。

 犯罪者だと認定されてしまう。


 そうならない為に、カミールは出来るだけ怪しまれることは言いたくなかった。


 けれど努力の甲斐もむなしく、イルゼが核心をついてきた。

「…………もしかして、あの人にカミールの特殊な魔法を教えてもらったの?」


 ……こんな時イルゼは変に勘がいいんだよなぁ。


「…………」

 カミールは返事に困って押し黙ってしまった。


 沈黙は肯定だと受け取ったのかイルゼが続けて喋る。

「カミールが習得したがっている〝消える魔法〟だって、あの人は使えてたし……」

「たまたまだって。俺も今日初めて見たし。てか初めて外で会ったなぁ…………」

 カミールはつい思考が逸れて、今日のリラとの出来事が口をついて出た。


「じゃあいつもはどこで会ってるの?」

「……リラの……部屋?」

「!? え? 部屋まで行ってるの? 何しに!?」

「…………何って……あの豊満なボディを余すところなく見せつけられてる? ブラちらとかパンちらとか、息をするようにかましてくるからな。もう理性との攻防戦?」


「〜〜〜〜っ!?」

 イルゼが顔を真っ赤にして立ち止まった。

 プルプルと震えながら目を見開いてカミールに向ける。


 カミールは、はたと立ち止まってイルゼに言った。

「ごめんごめん。リラのこと考えてたら、リラに言うようなことを言ってしまった」

 

「…………全然女性の影がチラつかないから安心していたのに」

 イルゼがブツブツと何やら言い始めた。

「貴族の女性を相手にしてる商売だって、本気では相手にされないだろうしって油断していたわ。告白待ちしてる場合じゃないっ」

「……何を言ってるんだ? よく聞こえないんだけど……」


 イルゼがバッと顔を上げて、しっかりとカミールを見た。

「私、カミールが好きなんだけどっ!!」


「…………能力モテは勘弁して欲しいんだよなぁ」

 カミールがすまなそうに頭をかく。

「え? 何の話?」

「俺の特殊な魔法が目当てなんだろ?」

「??」

 

 本気で分かっていなさそうなイルゼを見て、カミールは正直に告げた。


「イルゼが裏では『カミールのお陰で私はいつまでも綺麗なままでいられるし、お金にも困らないのよねー』って言っているのを知ってるんだ」

「そ、それは……私の好きな人は特別だって自慢したかっただけだし」

 イルゼが顔を真っ赤にさせて、うつむいた。


「…………」


 カミールは口をつぐんだまま、イルゼをただ眺めた。

 真意はどうであれ、真っ直ぐに気持ちを伝えてくるイルゼが羨ましくなった。

 

 ……俺も我慢せずに伝えられたら、どんなに……


 暗い気持ちを抱えてたカミールは、真横に視線を滑らせて自嘲気味に笑う。


 泣き出しそうな笑みを突然浮かべたカミールに、イルゼは目を丸めた。


「……カミール?」

 

 不安げに声をかけると、カミールが顔を上げて真剣に話し始める。


「いいかイルゼ。実はリラとは7歳の時から知り合いなんだ」

「??」

「そんな子供の時から彼女を見てたら……リラ以下の女性には、あまり興味を持てないんだよなぁ……」

 

 カミールがそう言ってチラリとイルゼの胸を見た。

 控えめに主張する慎ましい胸を。


「なっ!? 最低!!」

 イルゼが思いっきり叫んだ。

 目が向けられた胸を、自分で抱きかかえるように隠しながら。




 そんなイルゼを気にすることなく、カミールはサラリと告げる。

「そんな訳でごめん」

「でもっ……魔法学校の卒業パーティで、ダンスのペアを組もうって申し込んでくれたよね?」

「あぁ。1番仲良い女友達だったから……ただの学校の強制イベントで、好意を示した訳じゃないだろ?」

「ペアを組むってそういうことじゃん! それにカミールがよく『いつもそばで支えてくれて、ありがとな』って言うから……私だけが特別だって思うよね、普通……」

 口早に喋るイルゼの声は徐々に小さくなっていき、目に見えてシュンとした。

 

「…………そのセリフ改ざんされてないか? 学校の難しい課題なんかを助けてもらってたから『いつも一緒に課題をしてくれて、ありがとな』って言ってたはずだけど……」

「ほぼ一緒じゃん」

 イルゼがキッとカミールを睨むように見た。


「…………」

 カミールは呆然とした。

 イルゼは思い込むと〝こうだ!〟と突っ走る節がある。


 だから、もうキッパリ断ろうとカミールは決意した。

 たとえイルゼとの友情が壊れてしまっても……


「思わせぶりな態度だったのならごめん。でも俺にとってイルゼは大切な幼馴染だけど、恋愛感情は抱いてないんだ。イルゼの気持ちは受け取れない」


「…………っ!」

 カミールに振られたイルゼは、目を見開いて瞳をウルウルさせた。

 そしてついに涙を一筋こぼすと、泣き顔をカミールに見られたくなくて顔を伏せる。

 でもそうすることで、よけいにポロポロと涙がこぼれ落ちていく。


「…………分かった」

 何とか言葉を搾り出すと、イルゼはくるりと背中を向けて走り出した。

 

 カミールは遠ざかっていく幼馴染の姿を、見えなくなるまでじっと眺めるしかなかった。





 

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