23:取り調べ
イルゼたちに連れられて、カミールは警備隊の本拠地である建物に来ていた。
一応、犯罪者ではないカミールは、応接室のような小綺麗な所に通されており、椅子に座って紅茶を振る舞われていた。
向かい側にはイルゼと、彼女の先輩にあたるクルトという男性が座っている。
3人で顔を突き合わせ、カミールは事情聴取を受けている真っ最中だった。
クルトはカミールより3歳ぐらい年上の、垂れ目で柔和な顔立ちをした、いかにも優しそうな青年だった。
ちょうど公爵家のマティアスと同じぐらいの年なのに、全く正反対の人種だ。
カミールはひとまず紅茶を口に含んでゆっくり飲み込むと、目の前の2人を見据えながらカップをソーサーに戻した。
そしてさっきから説明しているリラとの関係を、再びかいつまんで話す。
「だーかーらー、何度か会ったことがあるだけで、悪いことなんて一切してないんだ。彼女も、俺も!」
カミールが怒り気味に告げると、すかさずイルゼが身を乗り出して言い返した。
「嘘! 確かにあの人とはお金だけの関係っぽかったけど……お金だけの関係っぽかったけど!!」
くっそー!
2回も言うなよ。
カミールが心の中で愚痴をこぼす。
ある意味真実なため、人知れず傷ついていた。
……よし。
もうその流れでいこう!
開き直ったカミールが、得意げにフフンと笑う。
「そうだ。だから俺たちはお金だけの関係。リラはお金を払うと一緒に居てくれるんだよ。ただそれだけで、俺は何も悪いことをしていない」
……あ、ダメだ。
言ってて虚しくなってきた。
作戦は失敗で、勝手にダメージをさらに負ったカミールは、途端にしょげてしまった。
真顔になってテーブルのある一点を見つめる。
「「…………」」
イルゼとクルトも顔を見合わせてから、カミールに可哀想な人を見る目を向けた。
「やっぱり、悪い女の人に騙されてる……」
イルゼがボソリと追い打ちをかける。
すると今まで成り行きを見守っていたクルトが、ゆっくりと口を開く。
「……イルゼはその女性の魔力を禁忌の魔力と言ったけれど、僕たちにとって得体の知れない魔力だったんだ」
彼は穏やかな声で続けた。
「それが良いものか悪いものか分からない。ただ、得体の知れない魔力は、悪用されてきた歴史があるからね」
「…………」
カミールがのろのろと顔を上げてクルトに目を向けると、それを待っていた彼が優しく視線を受け止めた。
「カミールくんは何か知らない? そのリラさんという女性が、あれ程までに高等な魔法を使える理由を」
クルトが朗らかにほほ笑んで、カミールの返事を待つ。
人の良さそうなクルトからは、イルゼと違って悪意を全く感じなかった。
ーーだから、聞いてみたくなったのかも知れない。
カミールは誰にも言ったことがない、リラの秘密の一部を慎重に打ち明けた。
「…………冗談だと思うんですけど、1度だけ聞いたことがあります。リラは『特殊な魔石の光を浴びている』と……」
「…………特殊な魔石…………」
クルトが笑顔を無くして黙り込んでしまった。
神妙な表情で顔を伏せる。
隣のイルゼも、様子が変わったクルトを心配そうに見つめていた。
しばらくすると、考えがまとまったクルトが顔を上げた。
「これは、カミールくんの話を聞いて、僕が思ったことなんだけど……」
彼が申し訳なさそうに笑いながら話す。
「特殊な魔石という言葉と、リラという女性のすごい魔力から連想したのは〝聖石〟の話」
イルゼが息を呑みながら相槌を打つ。
「〝聖石〟って……あの?」
クルトがイルゼに向かって頷いた。
「うん。この世のどこかにあると言い伝えられている神秘の魔石。でもそうなるとリラさんは…………聖女リアリーンの子孫ってことにでもなるのかな?」
クルトが苦笑した。
イルゼがそれに返事をする。
「〝聖石〟は聖女リアリーンの力の源と言われているからですか? そんな神話レベルの話…………その、信じがたいです……」
「そうだね。僕もそう思うよ」
優しいクルトは正直なイルゼに同意した。
それを聞いたカミールは「フッフッフッ」と不敵に笑い始めた。
「クルトさんも俺と同じ考えなんですね!」
はしゃいだ様子のカミールが、勢いよく椅子から立ち上がる。
「カミール?」
イルゼが〝訳わかんない〟というように、しかめっ面をした。
呼ばれたカミールはイルゼを指差して演説する。
「そう。リラが〝特殊な魔石〟と言っているのは〝聖石〟のこと。リラの力は聖女と同じ!」
言っているうちに嬉しくなって、カミールは高らかに叫んだ。
リラが何故違う世界にいるのか。
彼女を不老不死にした〝特殊な魔石〟とは何なのか。
リラに聞いてもはぐらかされるから、カミールなりにずっと考えていた。
その考えがクルトと見事に一致したことで、彼はテンションが上がっていた。
「「…………」」
イルゼとクルトが顔を見合わせてから、またカミールに可哀想な人を見る目を向けた。




