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君にもう1度こいねがう。取引の魔女から1番安い能力しか買えなかった少年のその後  作者: 雪月花
こいねがうもの カミール編

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22/66

22:デート


 美味しいケーキで有名なカフェに来たカミールとリラは、向かい合ってテーブル席についていた。


 何でこんな素敵な場所をカミールが知っているかというと、昔からの馴染みの友人であるカトリナが働いているからだった。

 おっとりした性格のカトリナは、今日もお店で元気に働いており、カミールたちを笑顔で迎えてくれた。


「注文は以上でよろしいでしょうかぁ?」

 伝票を書き終えたカトリナが、柔らかい笑顔を振りまきながら首をかしげる。

「あぁ」

「かしこまりました〜」

 

 注文が終わると、カトリナがカミールに近付いてコソコソと耳打ちをする。

「すっごく綺麗な人連れてるねぇ。これは他の子に(なび)かない訳だ〜」

 そう彼女は自分で納得すると、厨房へと去って行った。


 カトリナはお喋り好きで、イルゼの裏の発言を教えてくれている友人の1人だった。

 イルゼと仲が悪いわけではなく、お喋りが好き過ぎて口が滑る。

 本当によく滑る。

 悪い子じゃないんだけれど、カトリナには本当に大事なことは喋っちゃいけない。

 

 カミールの心の中にある教訓だった。


 

 

 厨房をぼんやりと見つめて、つい考え事をしていたカミールの耳に弾んだリラの声が届く。


「久しぶりにケーキ食べるから楽しみ」 

 見るとリラがそわそわしていた。

 目をキラキラさせて、にこりとカミールに笑いかける様子は、普通の女性みたいだった。


 ……デートみたい。

 リラとこっちで会えるなんて思ってもみなかった。


 カミールも嬉しそうなリラに釣られて、はにかみながらも笑顔を浮かべる。


「ねぇねぇ」

 リラがカミールを改めて呼んだ。

「何?」

「さっきから意識してみてるんだけど……カミールもすごく見てるよね。私の胸」

「……仕方ないだろ。だってリラがテーブルの上に乗せるから。もうそれは見てくださいって並べているようなもんだから」

 カミールがリラの胸をジッと見ながら、それに向かって喋りかけた。

 

 彼が言うように、リラは重い胸を無意識にテーブルに乗せていた。


 (まぶた)を半分閉じたリラが、ため息をつく。

「…………胸が小さくなる魔法を開発しようかな」

「それは本当にやめて下さい」

 カミールが懇切丁寧に頭を下げた。


「フフフッ。じゃあやめとこうかなぁ。……けどカミール気をつけてね」

「ん? 何が?」

 カミールは顔を上げてリラを見つめた。


 彼女がニッコリ笑いながら続ける。

「魔女の私に〝願い〟を叶えてもらおうとするなら、お金より大切なものを差し出さなきゃいけないから」

「…………それって……?」

 

 カミールが詳しく聞こうとした時だった。

 注文したケーキと紅茶が、カトリナとは違う店員によって運ばれてきた。


「わぁ、美味しそう。いただきまーす」

 リラが歓声を上げた。


 今日は落ち着いたピンクベージュ色が、フォークを持つ彼女の指先を彩っていた。

 その手でチョコレートケーキを切り分けると、中からトロッとしたクリーム状のチョコが出てくる。


「……胸元に落とすとか、お約束なことするなよ」

 カミールもケーキに目線を落としながら、フォークを刺した。

 

 この魔女は気を抜くと、いかがわしい絵面を意図せず作り出す。

 それを分かっているカミールが先に釘をさした。


 すると向かいから小さな声が。

「…………あっ」


「えぇー?」

 カミールが呆れ返りながら顔を上げた。

 彼女の胸元あたりを、光の煌めきがサラリと流れていったのが見えた。


「何でもないよっ」

 リラがフルフルと慌てて首を振る。

「…………」


 ……胸元に落としたけど、魔法で急いで消したな。


 カミールはジト目でリラを見ながらも、ケーキを口に運んだ。




 それから2人は、ケーキと紅茶を適度にいただきながら会話を楽しみ、まったりと過ごしていた。

 

 いつものカミールの日常に、リラが普通に存在している。

 穏やかで心地のよい時間が流れていく。

 

 こんな時間がいつまでも続けばいいのに、とカミールが願った時だった。


 来客があったようで、店の扉が開く音とカトリナの声が聞こえた。

「いらっしゃいませぇ……って、え? 何でしょうかぁ?」


 数名が喋る声も聞こえ、店の入り口付近が騒がしくなってきた。

 カトリナが見知った人を見つけ、焦りながらも呼びかける。

「……え? え? イルゼ??」



 すると国の紋章を背負った警備隊たちがなだれ込んできた。

「少し捜査させてもらうぞ」

「ちょっと待って下さいっ!」

 

 緊迫した空気の中、警備隊の紺色の制服に身を包んだイルゼが飛び出てきた。

「カミール!」


 そして、カミールとリラの座る机の横に立つ。


「その人からすぐに離れて! カミールとその女の人との通りでのやり取りを聞かせてもらったわ!」

 イルゼがカミールの腕を引っ張って、強引に立たせた。


「な、何だよ!?」

「カミールが明らかに(たぶら)かされてるし、怪しげな魔力を感じたから調べたの。そうしたら案の定、禁忌の魔力を感知したわ」

 イルゼがリラを睨みつけた。


 リラはイルゼの勢いに目を丸めながらも、残っていたケーキをハムっと口に放り込んだ。


 ーー禁忌の魔力。

 おそらく特殊な魔石の光を浴びて得ている、リラの魔力のことだろう。


「国の法律の元、あなたは犯罪者の可能性があります! 私たちについて来てもらいますよ!」

 イルゼがリラに言い放った。


 リラは相変わらずイルゼを見て驚いてはいるものの、ケーキをもぐもぐしている。

 

 イルゼの背後に控えている警備隊の1人が、思わず声を荒げた。

「聞いているのか!?」

 するとリラが目を細めながら艶っぽく笑い、薄っすら光り始めた。


 カミールが慌てて叫ぶ。

「リラ!?」


「何かする気!?」

「捕縛魔法を!」

 警備隊がリラを捕まえようと呪文を唱える。


「あれ? 発動しない……」

 けれど魔法がかけるために掲げた手からは何も起こらず、彼らは騒然とし始めた。

「もしかしてあの女が……」

 

 みんなの目線がリラに向く中、彼女はカミールを見上げて話しかけた。

「ケーキありがとう。今日はここまでが限界みたい」

 そう言ったリラの体は、薄っすら透けていた。


 カミールが不安げに言葉を返す。

「限界?」

「うん。大丈夫だよ。元の場所に戻るだけだから」

 向こうがだいぶ見えるほど透けて、輪郭が曖昧になってきた彼女がニッコリと笑う。


「待ちなさい!」

 イルゼが駆け寄ってリラの腕を掴もうとした。

 

 けれどもすでに遅く、リラはひときわ強く光ると、その光りをパッと飛散させて消えた後だった。




「消えた……」

 警備隊の1人が誰とも無しに呟く。


 この場にいるみんなには、()しくもカミールが習得したがっている〝姿を消す魔法〟に見えた。

 それを使える魔術師は、今の時代には居ない。

 伝承で聞いたことあるぐらいの眉唾物の魔法。


 それほどリラの見せた魔法は、とてつもなく高度でありーー

 とてつもなく異端だった。




「あぁ。もう時間が無いからって急いでケーキ

を食べていたんだな……」

 カミールが1人頷く。

 彼だけがリラの行動を平然と受け止めていた。


「「「…………」」」

 イルゼを含む警備隊の目線が、一斉にカミールに向けられる。


「え? 何??」

 驚くカミールに向かって、イルゼがすまなそうに言った。

「あの人と一緒にいたカミールも、事情を聞くためについてきてもらうよ」

「は?」


 こうしてカミールだけが警備隊に捕まった。




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