21:意外な出会い
男性が熱烈な愛をリラに告白した。
その男性には肩を抱かれ、カミールには腕を引っ張られているリラが、目をパチパチと瞬かせてからゆっくりと口を開いた。
「……それならお金返すね」
リラがカミールの方へと身を寄せ、男性の手からスルリと逃げる。
「え? どういうこと……」
宙をかいた男性の手が輝き始めた。
「わっ!?」
驚いた男性が反射的に手のひらを見つめると、光と共にお金が現れた。
リラの魔法だった。
お金を返した張本人が、振り向いて男性に告げる。
「気持ちを向けられるのはちょっと……」
リラが〝ごめんね〟というように困り笑顔を浮かべると、そばにいるカミールに言った。
「行こっか」
カミールは腕を掴んでいた手を離すと、代わりにリラの手を握った。
彼女特有の少し高い体温が、手を合わせることでよく伝わってくる。
本当にリラがこっちの世界にいるんだと、より一層実感した。
ーーリラは『取引の魔女』
取引なら応じるけれど、人からの好意などの気持ちは一切受け取らない。
嫌悪感を示すほどだ。
なぜならそれは……
大切な人たちを沢山見送ってきたから。
リラは永遠の時を生きる。
自分よりも先に死ぬ人を好きになることを、端から拒絶している。
だからあの男性は振られたのだ。
呆然とお金を握りながら立ち尽くす男性を残して、カミールとリラはその場を離れた。
ーーーーーー
カミールはリラの手を引いてあてもなく歩いた。
どこに行こうかなと少し心を躍らせながら、リラに喋りかける。
「何でこっちにいるんだ?」
「調子がいい時は、たまにこっちでお買い物してるんだよ。今日は久しぶりに来てみたら、偶然カミールの国だったみたい」
リラがニッコリと笑った。
……そう言えばそんな素振りがあったかも。
カミールは白い部屋で過ごす時の彼女を思い浮かべていた。
リラは違う世界で住んでいるのに服装がやけにこっち寄りだった。
今っぽいと言うか、何と言うか。
『最近買ったんだよね』
そう言って服を見せてくれた時もあった。
どうやら魔女は買い物好きなようだ。
しまった。
よく聞いておくんだった。
せっかくリラがこっちに遊びに来た時に、今までにも会えてたかもしれないのに。
カミールが悔しそうにリラを見ると、魔女は不思議そうにきょとんとしていた。
「どうしたの?」
「……普通の格好出来るんだな」
もう後悔したくないと思ったカミールは、思わず1番突っ込みたかったことが口からこぼれた。
「そりゃあお出掛けの時は、おめかしするよね」
褒められたと勘違いしたリラが立ち止まり、えっへんと胸を張った。
すぐさまカミールが手を引っ張ってその格好を止めさせる。
「胸を張るな。胸を。何となくエロいのは変わらないからな。すれ違う男がみんな胸を見てるだろ!?」
「えー。そんなの意識してないし……」
リラがまたトコトコと歩きながら不平を言う。
「……カミール、歩き過ぎて疲れちゃった」
けれど次には違う不平を言って、また立ち止まった。
一緒に足を止めたカミールがリラの顔を覗き込むと、彼女は可愛らしく首をかしげながら告げた。
「どこかでゆっくり休憩したいな」
「…………」
……この魔女は……
本人に全くその気は無いんだけど、誘ってるような言動して。
カミールは頬を引きつらせて静かに言った。
「もしかして、今までもさっきのアイツみたいに、変にそばに居ようとした男にそう言った?」
「うーん……そんなこともあったかも? いちいち覚えてないなぁー」
魔女が呑気に笑いながら続けた。
「だいたい次に同じ場所に来た時には、前会った人なんて死んじゃってるから」
「…………」
リラが何てことないようにニコニコ笑った。
彼女の時は永遠に続き、カミール達の一生なんてすぐに過ぎ去る。
おそらく彼女の世界では2年もしない内にカミールは寿命を迎えるだろう。
リラの10日ぐらいがカミールにとって1年だったから。
そんなリラの中では、人との出会いの価値は極端に低い。
例え彼女が純粋に〝疲れたから休憩したい〟と言って、ベッドがある場所に連れて行かれたとしても、本当に覚えていなさそうだ。
まぁ、上手く〝取引〟しないとリラには手が出せないんだけど……
カミールは遠い目をして、強制送還された時のことを思い出していた。
昔リラに会いに行った時に〝取引〟無しで彼女に手を出してしまった経験を……
「……カミール?」
黙ってしまったカミールをリラがまた不思議そうに見ていた。
「美味しいケーキが食べれる所に行くか?」
「わぁ! 行きたい!」
途端にリラが満面の笑みを浮かべた。
そんな彼女を優しく見つめたカミールが、フッと息をもらす。
「だったらそこまで頑張って歩いてくれ」
「……飛んじゃダメだよね?」
「目立つからな。リラは疲れやす過ぎなんだよ。運動不足なんじゃないか?」
カミールがゆっくりとリラの手を引いて歩き始めた。
「うーん……特殊な魔石の近くにいるからか、すぐ疲れるんだよね」
「…………」
「その分魔力は無尽蔵に湧いてくるんだけどね」
「特殊な魔石から離れたら?」
カミールがリラの目を見ながら聞くと、彼女もカミールを見つめ返した。
「私が離れ過ぎたら、魔石の力が暴走しちゃうかも? 私が魔石の近くにいるから世界の均衡が守られているんだよ〜。すごいでしょ?」
リラが楽しそうに体を揺らして笑った。
「前は、魔力欲しさに魔石の近くに自分からいるとか言ってなかったか?」
「そうだったっけ?」
相変わらずマイペースで、どこか大雑把な魔女のリラ。
カミールは繋いだ手をギュッと握り直すと、そんな彼女の歩調に合わせていつもよりゆっくりと歩いた。




