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2:魔法を求めて


「今日も楽な仕事だったなぁ」

 

 誰に言う訳でもなく、カミールがふとこぼした。

 街中を歩く人々は、そんな彼を気にすることもなく行き交っている。

 カミールは無事に仕事が成功したことを祝すように笑みを浮かべ、家路へと急いだ。


 彼はある貴婦人の、長年気になっていたアザを消してきた帰りだった。

 右の(ひたい)から、こめかみにあったアザは綺麗に消えて、婦人もとても喜んでくれた。

 薄っすら涙を浮かべて笑う彼女を見ると〝良いことしたなぁ〟と心を満たされたりもした。


「しかも範囲が広いからって、追加料金を提示しても気前よく払ってくれたし!」

 けれど次には稼いだ額のことを思い出し、ニヤニヤ笑いが止まらなくなってしまった。




 そんな中、貴族向けのドレスショップがふと目についた。

 通りに面した大きな窓から、フカフカの質が良さそうな白いソファと、その近くに黒をベースにしたシックなドレスが飾られているのが見えた。


「…………」

 カミールは思わず歩くスピードを緩めてぼんやり考え込んでしまった。

 しまいには立ち止まり、どこを見る訳でもなくジッと視線を店内に向ける。

 

 彼は……

 懐かしい記憶の中にある、魔女とのやり取りを思い出してしまっていた。


 ーーーーーー




**===========**


 あれはカミールが7歳の時。

 近所の年が近い子供たちが、広場に集まってワイワイ遊んでいる時だった。


「俺、魔法が使えるようになったんだぜ!」

 初歩の火の魔法が扱えるようになったカミールが、みんなに向かって胸を張り高らかに宣言した。

 小さな小さな火を手のひらの上に出現させながら。


 カミールは、これでみんなから『カミールってすげーな!』と称賛してもらえると期待していた。

 けれどみんなからは違う反応が返ってきた。


「オレのお姉ちゃんも使えるぜ」

「私も水の魔法なら何とか使えるんだ」

「ボクはもう少しで使えそうなんだけど……」

「じゃあ、教えてあげるっ!」


 それからは、みんなで魔法のお披露目や練習大会となった。


「!?」

 狼狽(うろた)えたカミールは頭の中で必死に考えた。

 

 もっと……もっと凄い魔法でないと……

 威張れない!?


 気付くとカミールは目をつぶって叫んでいた。

「お、俺なんか〝消える魔法〟が使えるんだからなー!!」

 

「えー? 本当?」

「見せてみてよー」

 みんなが疑いの眼差しを向ける。


「…………っさっき火の魔法を使って魔力が足りないから……今度絶対に見せてやる!!」

 カミールは虚勢を張った。




 ーーーーーー

 

 それからカミールは調べに調べた。

 滅多に行かない図書館に入り浸って、読めない文字を必死に調べて……

〝消える魔法〟を習得する方法について、彼なりに調べまくった。


 けれど、そんな幻や伝承にも近い魔法を習得するすべなんて、子供のカミールが調べられる範囲にはどこにも書いていなかった。


「はぁ……」

 読んでいた図書館の分厚い本を横に追いやって、カミールはため息をついた。

 浮かない表情で机の上に頬杖をつく。


 近くの窓が開け放たれており、そよ風がカミールの前髪を揺らした。

 たくさん本を読んだ疲労感の中、ぼんやりと窓の外を眺めて物思いにふける。



 俺……何やってるんだろう?


 もう諦めて、みんなに何か突っ込まれたら適当に謝って……

 

 だから遊びに行こっかなー



 気持ちが諦めに傾いたカミールは、読もうと思って乱雑に置いていた本の山に目を移す。

 すると、たまたま開いていた一冊が風を浴びてペラペラとめくれた。

 そしてあるページが開かれると、ピタリと風が止まった。

 

「……?」

 開かれたページが妙に気になり、カミールは本を手に取って目を通した。

「……取引の魔女?」

 

 そこには摩訶不思議な魔法の力を授けてくれる〝取引の魔女〟の話が書かれていた。

 絶世の美女である彼女は特別な時空に住んでおり、会いに行くのも至難の(わざ)だとか。

 けれど彼女の力は絶大で、望み通りの魔法の力を授けてくれるらしい。

 …………莫大な金額を支払えば。


「……魂を引き換えにとかじゃないんだ。現実的な魔女だなぁ……」

 カミールが思わず呟く。


 そして次に、魔女に会う方法が書かれている箇所を探して目を滑らせた。


「…………えぇ!? いきなり謎解き?」

 驚いたカミールはもう一度念入りに読んだ。

 ……でも読み間違えなんかじゃなく、そこにはこう書かれていた。



 取引の魔女に会いたいなら、彼女の名前を言い当てること。

 

 魔女の名前は花の名前と同じ。

 

 その花を手に持って、魔女の名前を唱えて会いたいと強く念じること。

 

 花言葉は「裏切り」「憎しみ」「深い絶望」




「…………花言葉が怖い」

 カミールは〝どんな花だよ!?〟と心の中で突っ込んだ。




 ーーーーーー


 それからカミールは花の名前を調べに調べた。

 子供の彼には、時間ならたっぷりあったからだ。

 

 ……あくまで暇つぶしに。

 『絶世の美女』の言葉に釣られた訳じゃない。

 うんうん。

 決してそうじゃない。


 カミールは何度も勝手に納得しながら、花の名前を1つ1つ確認していった。

 夢中になっていると、いつの間にか図書館の閉館時間を迎えていた。

 それでカミールは、花の本を1冊だけ借りて帰ることにした。




 家に帰ったカミールは、就寝前に自室のベッドの上に寝転がり、本を広げて読んでいた。

 うつ伏せの状態で頭と背中を起こし、ベッドに肘をついて本を見下ろす。


「……そんなネガティブな花言葉だけの花なんて、無いんだけど…………」

 カミールが眉をひそめながらページをめくった。

 彼の独り言に呼応するかのように、ベッドサイドに灯したランプがゆらめく。

 

 どの花もネガティブな花言葉と共にポジティブな言葉が付随していた。


「あっ……」

 けれど次の瞬間、思わず息が止まった。

 

 見つけた!

 これだ!!


 カミールはニンマリ笑ってその花の解説を読んだ。


 ーー淡い紫色の大輪の花を咲かせ、

   細長い花びらがドーム状に見事に開く。

   とても美しく品のある花ーー


 なぜかこの花だという確信が強くなった。

 カミールの胸は興奮で高鳴る。


 魔女の名前はこれだ!


「リラージュラフィーリア!!」


 …………

 長っ!!





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