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15:カミールの日常 


 ある日の午前中。

 カミールは母親から頼まれた明日のパンを買いに出掛けていた。

 たまに家でのんびりしていると、こうしてお使いを頼まれることがある。


 カミールは渋々引き受けると、馴染みのパン屋に向かって家を出た所だった。




 家からすぐ近くに、昔ながらの見慣れたパン屋は建っていた。

 カミールは、四角い窓のついた木製の扉に手をかける。

 店内には香ばしくて美味しそうな匂いが充満していた。


 カランカランというベルの音と共に、カミールは背の大きな店員に声をかけた。


「よぉ、フランツ。いつものやつくれよ」

「いい時に来たな、カミール。ちょうど自信作が出来上がったところだ」


 大柄で朗らかな気質のフランツは、昔からの馴染みの友人の1人だった。


 彼の作るパンは、ほのかに甘く優しい味がした。

 フランツの性格を表しているかのようだった。

 

 彼は代々続くパン屋を継いで、街のみんなに美味しいパンを届けている。

 カミールの家も毎日のように、フランツの店のパンを食べていた。




「いつ来ても〝自信作〟って言われてる気がするんだけど……」

 カミールは苦笑しながらも、レジのあるカウンターの前に立った。

 

 カウンターの中にはフランツの奥さんであるベティーが立っており、カミールに向かってニッコリと笑った。

「いつものですね? 360オルガになります」

 小柄な彼女がカミールの前に立つと、カウンターがいつもより高く見えた。


「もう慣れてきた?」

 カミールは笑い返しながら、代金をベティーに手渡した。


 フランツとベティーは最近結婚したばかりの新婚夫婦。

 彼女がお店に立ち始めたのは、つい最近のことになる。


 ちなみにフランツの両親は、昼から夕方にかけてお店を切り盛りしていた。

 徐々に息子夫婦にお店を任せる時間を長くして、世代交代するつもりらしい。


 ベティーが嬉しそうに笑ってハキハキと答える。

「うん! お客さんも優しい人が多くって楽しいわ。余裕が出てきたから、私も参加して新作を作ってみたの。良かったら食べてみてね!」

「……商売上手にもなって来たな」

 カミールが感心しながら呟いた。


 フランツが焼きたてのパンを紙袋に包みながら、カミールに話しかける。

「で、オリバー並みに稼いでるって噂で聞くけど、あの魔法の方はどうなんだよ?」

「うん。なかなかいい感じだぜ。もう少ししたら〝消える魔法〟を見せられそうだ」

 カミールがニッとイタズラっぽく笑った。


「ははは! 楽しみにしてるからなー」

 フランツが紙袋をカミールに手渡す。

 

 幼馴染たちは、カミールが子供の頃から〝消える魔法〟を追い求めていることを知っていた。

 だから彼らの間でたまに行われる、挨拶みたいなやり取りになっていた。


「あぁ、また買いにくるよ」

 カミールは紙袋を小脇に抱えて、手を上げながら店を出て行った。





 **===========**


 その日の午後からは、ヨハンという友人に会う予定が入っていた。

 ヨハンも近所に住む馴染みの友人の1人である。

 彼から呼び出されたカミールは、待ち合わせ場所でヨハンを待っていた。

 

「……何の用だろう?」

 広場のベンチに座るカミールは、独り言をふとこぼした。

 

 ついてきて欲しい場所があるとか言ってたけど……


 ヨハンに呼び出された理由の見当が付かず、カミールは首をひねる。


「おーい!」

 ちょうどその時、カミールに向かって広場を駆けてくるヨハンが現れた。


「ヨハン、久しぶり! ……なんか、気合い入ってないか?」

 カミールは目の前に立ったヨハンを、上から下へと眺める。

 いつもの彼にしては、何となくビシッとかっこいい服装で、それに合わせて髪もセットしていた。


「オレ、カミールより2歳年下だからな。……大人っぽいだろ?」

 ヨハンはフフンと自慢げに胸を張った。

「うーん、まぁ。……今日行く所に何か関係があるのか?」

 カミールが一応賛同しながらベンチから立ち上がった。

 背伸びをしているようにも若干感じるが、張り切っている友人には言えなかった。


「そうなんだ。アルマさんのしている魔法の道具店に着いてきてくれないか?」

「…………アルマ?」

 カミールは眉をひそめた。


 浮かれ気味のヨハンが、カミールの様子なんか構わずに話を進める。

「魔法学校で一緒だったそうじゃないか。その話をしたら、アルマさんがカミールを連れてきて欲しいって」


「…………」

 カミールは訳が分からずに黙り込んでしまった。


 確かにアルマとは魔法学校で一緒だった。

 魔法に関して優秀だった彼女。

 容姿も整っており、同級生と一線を(かく)すアルマは、ミステリアスな美女だった。

 

 あまり話したことは無いけれど、何かを見透かしたように不敵に笑うアルマを、カミールは苦手に思っていた。


 そんな彼女からの呼び出し?


「カミール?」

「……え、あぁ……」

「とりあえず行こうぜ」

 

 気乗りしないカミールとは対照的に、どことなくソワソワしたヨハンが先に歩き始めた。


 

 

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