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14:なんでも無い日


 何度目かのリラと会う日。

 

 だいぶ魔女のことが分かってきたカミールは、思い切って聞いてみることにした。

 長年の疑問を。


「…………あのさ、リラは俺以外と会う時もそんな格好なのか?」

 カミールが頬を赤くしながら、隣に座るリラを見る。


 2人はいつもの白い部屋でソファに座っていた。


 今日のリラは、真っ白なフワリとしたワンピースを着ていた。

 暑がりな彼女が袖がある服は基本好まず、だいたい肩や腕がむき出しなのはもう慣れたから良いとして……

 相変わらず胸元は見えてるけど、スカートの丈も膝まであるし、今までで1番普通の服っぽかった。

 

 けれどなぜか肩紐が幅広のリボンになっており、肩の上で結ばれていた。


 ……大きなリボンは可愛いんだけど、多分両方はずすとストンと服が落ちる。

 すぐに脱げる。

 リボンを解いてみたくなるっ!


 そんなことをカミールが考えているとは露ほどにも思っていないリラが、いい笑顔で答えた。

「最近買ったんだよね。可愛いでしょ?」

「え、あ……うん」

「いつもは魔女の正装で人に会うんだけど、カミールは子供だから……私も着替えるのが手間だし、部屋で過ごす時の格好のままなんだよねー」

「俺、もうすぐ大人になるんだけど……魔女の正装を着てみてよ」

 

 カミールが何気なく言うと、リラが珍しく難しい顔をした。

「…………〝取引〟じゃないけど、まぁこのぐらいならいっか。会う度にプレゼント貰ってるし〜」

 そしてブツブツと独り言を言う。


「…………」

 カミールは静かに聞いていた。


 スクッと立ち上がったリラが元気に返事をする。

「いいよー。じゃあ待っててね」

 魔女はフワリと宙に浮くと、フヨフヨ浮いたまま扉に向かっていった。


 リラは疲れるとすぐに魔法に頼って移動するようだった。

 相変わらず丈が短い服から、パンツがチラチラ見えていることには気付いてないようだけど。




 ーーーーーー


「着替えたよー」

 そしてリラの言う〝魔女の正装〟でカミールの前に姿を現した。

 背中と胸元ががっつり開いたあの黒いロングドレスだ。

 スカートにはもちろん深いスリットが。


「!?」

「フフッ。魔女っぽいでしょー?」

 リラがご丁寧にクルリと目の前で回転した。

 三角帽子が落ちないように片手で押さえると、彼女の黒髪も楽しげにフワリと舞う。


 カミールは青ざめながら答えた。

「……いや、1番アウトでしょ」


「何が??」

 リラが心底不思議そうに首をかしげた。




 **===========**


「……普通の服も可愛かったから、また着たら?」

 

 部屋で過ごす服もエロかったんだけどっ。

 と昔の思い出に浸っていたカミールが、現実世界に意識を戻してそう言った。


「ちなみに、どの服が好きなの?」

「1番初めの黒いやつ」

「ほぼランジェリーみたいなやつじゃん」

「だから下着で子供の前に出てくるなよっ」

 2人はワーワー言い始めた。


 マイペースで人の目を……特にカミールの目を全く気にしていない能天気な魔女を、彼はジト目で見る。


「リラが『人間だったころの服〜』とか言って着てきたのもアウトだったなー」

「なんで? 当時の人はみんなあんな感じだったんだけど……」

「あんなの布をまとっただけだろ。白い布を胸の下でアクセサリーみたいな金具で止めただけで、何でサイドが開くんだよ。サイドが」

「えー。ジェネレーションギャップだね」

「……違うと思うけど……」

「それで、カミール的にオーケーだったのが、全然可愛くない旅用の服装だったし……」

 リラが頬を膨らませてむくれた。


 彼女が言う旅用の服装とは、シンプルな白いギャザーブラウスに、ウエストはビスチェのようなレザーベルト、それに膝上丈のフレアスカートを合わせたものだった。

 それだと、一応どこかの魔法使いに見えるような服装だ。


「けどなー、あれもでかい胸を更に強調させるデザインだからなー」

 カミールが首を捻って考えた。

「もう。だからカミールがエッチな目で見過ぎなんだよ」

「俺もこんなことばっかり言いたくないんだけど、リラが自覚しないから……」

「……そんなこと、カミール以外には言われたことないもん」

 魔女がクスンといじけた。


「他のやつは言わないだけだって。実際に能力を求めにここに来た奴に、リラ自身を求められることがあるんだろ? 誘ってるって勘違いされているんだってば」

「…………ひどいー! 最近じゃあカミールしか来ないよ!」

 怒ったリラがカミールの体をポコポコと叩いた。

 口では怒りながらも手加減しているからか、全然痛くはない。


「あはは! いていてっ」

 カミールは魔女の攻撃から少し顔を逸らすだけで、ただ笑っていた。

 『最近じゃあカミールしか来ない』という言葉に、リラと接点があるのは自分だけだと心の中で優越感に浸る。

 

 その時、自分の横に置きっぱなしにしていた小箱が視界に入った。


「あぁ、渡すの忘れてた」

「??」

 カミールの様子が変わったのを察したリラが、叩くのをやめた。


「はい、誕生日プレゼント。おめでとう」

 カミールが小箱を差し出した。

 黒い包装紙に包まれ、シルバーの小さなリボンがついている。


「ありがとう」

 リラがフニャッと笑って受け取った。

 

 彼女は中身が分かっていた。

 以前にカミールに聞かれてリクエストしていた物だからだ。


「言われてた鉱物だけど、稀少なものすぎてあんまり手に入らなかったんだ」

「大丈夫だよ。ほんの少しだけあればいいから」

 リラが嬉しそうにほほ笑んでから、小箱を手のひらの上に置いた。

 そこがホワッと光ったかと思ったら魔法で消えていく。


 リラは長い長い時を、気まぐれに新しい魔法を生み出したりして時間を潰しているらしい。

 その研究に必要な道具をあげることも、彼女の喜ぶことの1つだった。


 …………


 本当はリラと会う日が誕生日なんかじゃないって分かっていた。

 けれど彼女は〝取引の魔女〟

 魔法の能力を買おうとお金を持ってくるか、こうして彼女へのプレゼントを持ってこないと、リラに会うためのゲートは開かない。


 少年のカミールは運が良かった。

 2度目からはプレゼントを手に魔女に会いたいと願ったから。

 そうしないと何も起こらずに、リラには何度も会うことは出来ないと勘違いしていただろう。


 そしてもう一つ、最近分かったことがあった。

 リラは〝取引〟なら応じてくれやすくなる。

 彼女を動かすには、それ相当の対価が必要なのだ。




「リラ」

「なぁに?」

 カミールが柔らかいリラの髪の毛を1房手に取り、(もてあそ)んだ。

 

「〝取引〟しよう。リラに誕生日プレゼントをあげたから、俺にもちょうだい? リラの時間を」


 カミールがそう言うと、リラの目つきが色めいたものに変わった。

 魅惑の魔女が、口の端をゆっくり上げて艶っぽく笑う。

「いいよ。稀少で高価なものをいただいたから……ね?」


 リラの了承をもらってから、カミールは彼女を抱きしめた。

 途端にリラの花の蜜のような甘ったるい香りに包まれる。


 魔女の時間を買うと、その間はカミールの好きなことをしていい理屈らしい。

 彼女はお金の割り切った関係じゃないと、訳あって結ばない。

 

 今だけはカミールのものになった魔女は、クスクス笑いながら彼の背中に手を回した。



 


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