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希望の光

 返信は三日後に届いた。

 短い文章だったが、内容は明快だった。「ご提案を受け入れます。都合のよい日程をお知らせください」。そして最後に一文。「あの結晶について、仮説を立ててもらったのは初めてです」


 ソフィアは父に「クロイツ公爵家への下見を兼ねて、領内を見せていただきたい」と告げた。父は縁談が順調に進んでいると解釈したらしく、あっさり許可した。むしろ上機嫌に「支度に金がいるなら言え」と言った。珍しいことだった。


 再びクロイツ公爵領へ向かったのは、最初の訪問から五日後のことだ。

 エドワードは正門まで出て迎えた。前回より表情が柔らかい。

「先日の手紙、読みました。驚きました」

「失礼な内容でしたか」

「いいえ。ただ……縁談の返信にしては、やや変わった内容でしたので」

 苦笑いに近い顔で言うエドワードに、ソフィアも素直に答えた。

「縁談は縁談として、別の話があると思いまして」

 エドワードはしばらくソフィアを見てから、「そうですね」と頷いた。


 二人は領内の南東部へ向かった。エドワードの馬に並んで自分の馬を走らせながら、ソフィアは地図を確認する。

「この辺りに特徴的な岩層が集中しているはずで」

「ええ、子どもの頃から、あの崖の色が気になっていました。父は『役に立たない石だ』と言っていたのですが」


 崖に近づいたとき、ソフィアは馬を止めた。思わず声が出た。

「……すごい」

 岩壁が、縞模様だった。赤褐色と灰青色が交互に走り、一部は錆色に変色している。ところどころに、あの薄紫の結晶が岩肌から覗いている。

「こんなに露出しているなら……」ソフィアは岩壁に近づいて、指先で結晶に触れた。「硬い。断面の角度から見ると、これは」

「何か分かりますか」

 エドワードが後ろで静かに聞いた。

「磁鉄鉱と赤鉄鉱が交互に堆積した層です。鉄鉱石としては上質な部類に入ります。そして、この紫の結晶は……バナジウムが含まれているかもしれない。だとしたら、鉄に混ぜて高強度の合金が作れます。王都の製鉄業者が喉から手を出して欲しがるはずの素材です」


 沈黙が落ちた。

 ソフィアは振り返った。エドワードが何とも言えない表情で岩壁を見ている。

「父は、役に立たない石と言っていた……」

「先代の頃は、バナジウム合金の需要がまだ高くなかったので、分からなくても無理はありません」

 ソフィアは続けた。

「そして、屋敷で生成される結晶も、ほぼ同じ成分だと推測しています。この土地で生まれ、この地層の上で育ったことが、何らかの形であなたと地の間に影響をもたらしている——という仮説ですが。荒唐無稽に聞こえますか」

「……いいえ」

 エドワードの声が少し変わった。

「むしろ、長年謎だったことに、初めて筋道の通った説明が与えられた気がします」

 ソフィアはその言葉を受け取りながら、崖の上の方を仰いだ。この下に、まだ手つかずの鉱脈がある。バートリー家の炭鉱夫たちの腕と、クロイツ公爵領の地層が組み合わさったとき、何が起きるか。


(やれる、という気がする)


 それはロバートとの縁談に感じたことのない、初めての感覚だった。


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