天使は恋を知る
「うーん、今日もいい朝ね!神様に感謝しなくっちゃ!」
地球に住んでる普通の少女の一日が始まるはずだった。少女が笑顔いっぱいで太陽の光を顔に浴びたとき―死神が命のろうそくを吹き消した。
「一生愛すと誓おう、我が愛しき人」
生涯の伴侶と幸せになるはずだった。また別のある男が愛する人を妻に迎える結婚式の誓いのキスのとき―死神が命のろうそくを吹き消した。
「あぁ、かわいいねぇ、嬉しいねぇ、幸せだねぇ」
生まれたばかりの初孫をその手に抱くはずだった。ある老女が娘が生んだ念願の初孫をその手に抱くとき―
死神が命のろうそくを吹き消した。
死神は悲しかった。でも抗うこともできなかった。そして死神が命のろうそくを吹き消したすべての場所に水が一滴落ちていた。死神は泣いていた。希望、愛、夢、明るく彩られているはずの未来を自分が吹き消したことが悲しかった。死神の涙はきれいな透明な涙だった。
「貴方、何故泣いてらっしゃるの?」
「悲しいのです」
「どうして悲しいのですか?」
「自分が明るく、色々なものに満ち溢れている未来を吹き消さなくてはいけないのが悲しいのです」
純白の羽を持った少女が死神に話しかけた。少女は天使だった。
天使は神のしもべとして作られ、感情を持たない。彼女は感情を知りたかった。
彼女は問い続けた。
「悲しい、とはどのような感情ですか?」
「とても、苦しい感情です」
「どうして苦しいのですか?」
「わかりません。ただただ苦しくそれに従うべき感情なのです」
「よくわからないわ。ねぇ貴方、家に来ない?貴方ともっと話したいわ」
「いいですよ。私も貴方と話したいですから」
天使は人間が好きだった。だが感情がなかった。天使は人の運命を決めるのが仕事だ。そのお決められた運命に感情で抗うのが理解できなかった。彼女は知りたかった。感情がある理由を。感情とは何かを。
死神ならそれを教えてくれるかもしれない、と思った。胸が膨らむような明るい感覚を彼女は感じた。
「ねえ、死神さん。貴方のお名前は?」
「タイキ、だ」
「ふーんいい名前ね。私はアンナ、よろしくね」
「貴方は私をここに招いて何を聞きたいのですか?」
「私達天使は感情を持たないの。でも、自分たちが運命を決める人間たちはその感情で運命を変えようとするわ。そこでね、感情がある理由を、感情とは何なのか、知りたくなったのよ」
「貴方は、人間のことを知りたいのですね」
「ええ」
「それを好奇心、といいます」
「まあ!そうなの!」
「そして貴方が今感じたのはきっと人間のことを1つ知れたことへの喜びでしょう」
天使は喜んだ。人間のことを1つずつ知れていくのが嬉しかった。天使は死神の優しい瞳を覗き込んだ。暗く、明るい複雑なきれいな色だった。天使はその日、死神と空が紺色になりかけているときまで話し込んだ。
「いろいろ教えてくれてありがとう。また来てくれる?」
「もちろんですとも。またお会いしましょう」
そう言って死神は空の色に溶け込んでいくかのように去っていった。
天使は胸にぽっかり穴があいたみたいだな、と思った。胸がきゅうきゅうと締め付けられるような感じもした。そして、死神のきれいな瞳を思い出して胸がとくんとくん、と優しく暖かになっていくように感じた。天使は、もしかしてこれが死神の言っていた恋というものなのだろうか、とその甘酸っぱい初めての感覚を胸に抱きながら眠りについた。
のぞです!よろしくお願いします!