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ホテルに到着(2)

「ここがお風呂ね。こうするとお湯が出るの。そしてここがトイレね。これがフロントに電話する時のもの。電話って言っても分からないわよね。まあ使わないから覚えなくていいわ。えっと夕食はどっちで食べる?宮殿に戻って食べる?それともここで食べる?」


「グレース、今日はここで食べてから行こう。国務をたくさん片付けなければならないし。ハリー宰相も待ち侘びているだろう。国の祭典として国王と王妃の結婚式も半年後にはあげないとならないのでその話を今日は詰めなければならない。六日後には正式に戴冠式もやらねばならない。グレースも王妃としての務めがあるからなるべくここで食べようか」


 アイラの質問にジョシュアが答えた。


「ええ、私もそれがいいと思うわ」

「じゃあ、みんなで食べましょっ!中華とかいいわよ。食べたことないと思うけど絶品よ」


 アイラはにっこりと笑ってメニューを決めておいてくれると請け合ってくれた。


「はい、これはグレースの部屋の隣のジョシュアの鍵ね。やっと二人きりになれるのだから、お邪魔虫は消えるわ」


 そうアイラはイタズラっぽく言うと、部屋をさっさと出ていってしまった。


 アイラの言葉にジョシュアは真っ赤になっていた。私も耳まで赤くなってしまった。急に部屋の温度が上昇したように感じて、窓の方に駆け寄った。小さなベランダがあって、私は窓を開けた。途端にふわりと風が入ってきて、白いレースのカーテンが揺れて私の頬をかすめた。遠くに海が見えた。


 明日の朝からリハーサルで、夜にはもう最初のコンサートを開いてしまう。こういうものなのか分からないが、金塊の契約を果たすための手段としての活動なので大人しく従って、私は最大限の努力をするだけだ。


「サイラスたちの騎士団だけど……」

 

 私は何か話さねばと思って話題を考えていた。突然、後ろからジョシュアに抱きつかれた。


「ごめん。ちょっとだけこのままでいてくれる?」


 ジョシュアの低くて柔らかな声が私の耳元でした。


「元王妃に連れて行かれてグレースの居場所が分からなくなった時は、心臓が痛かった。私にはグレースが必要なんだ。王政のためじゃない。私がグレースを必要としている。前のように、いや前よりも愛しているんだ」


 耳元で囁くジョシュアの声は、若かった頃の声より大人になった声だった。若い頃の「俺」から、国王としての「私」の言い方に変わっていた。大事なことをジョシュアが真剣に言おうとしているのが分かった。


「なぜノアの元に行ったんだとかは言わない。君を責めない。君が以前のように私のことを愛するまで待つから。プロポーズをもう一度しても良いかな?実はバウズザック家に代々伝わる指輪を持ってきている」


 私の心は火が灯ったかのように温かくなった。後ろから抱き抱えられるようにされていると、身体中にトキメキが広がり、自分の中の魔力も高まるのも感じた。少しだけジョシュアの声が緊張しているのが分かった。


 嬉しかった。ジョシュアにまた愛していると言われて心の底から嬉しかった。


 口を開こうとして、一瞬だけ公爵家の父と母のことを思った。私の気持ちは決まっているが、裏切り者とチュゴアートの一門に後ろ指を差されているであろう父と母は、今どういう気持ちなのだろう。


 私の決断などどうにもならない所まで事は進んでしまっていて、私はチュゴアートに後足で砂をかけた裏切者のフィッツクラレンス家の娘になっている。義母が思ったように、チュゴアート一門の全員が最初から私が関与していたように思っているだろう。父と母には正直に話さなければならない。


 それにそもそも金塊の契約を果たせなければ、円深帝の妻になるのだ。そうなると二度もジョシュアの愛を裏切ることにならないだろうか。


「ありがとう。明日、最初のコンサートが終わったら私の気持ちを伝えるから、待っていてくれるかしら?」


 私はジョシュアの腕に包まれながら、振り向いた。ジョシュアの瞳の中にペガサスの煌めきが宿った。ジョシュアも私に近づくと魔力が高まるのだ。


 私はジョシュアを抱きしめて、「ありがとう」とささやいた。


 ――明日コンサートが成功したら、金塊の契約を果たせる目処が高まるわ。そしたら、今の本当の気持ちを話そう。


 私は心の中で決めた。今夜、私は一人で寝よう。


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